「韓流ジャベリン」撃ってみた! 韓国軍兵士も語った“撃つ”と“使う”の決定的な差とは?
ロシアのウクライナ侵攻で一躍世界に名を知らしめた対戦車ミサイル「ジャベリン」。韓国でも同じような兵器「レイボルト」を作り、盛んにアピールしています。そこでシミュレーターを触ってみると、ミサイル万能論の限界も見えてきました。
命中率は80%、2発撃てば確実に撃破?
2022年2月からのロシアによるウクライナ侵攻によって、一躍有名になった兵器が、肩撃ち式の対戦車ミサイル「ジャベリン」でしょう。歩兵ひとりで持ち歩けるほど軽量で、かつ命中すれば最新戦車でも一撃で破壊することができるほどの威力を持っており、ニュース報道などにより対戦車ミサイルの代名詞的存在までになりました。
しかし、対戦車ミサイルという兵器は軍事の世界ではポピュラーな存在であり、とくに「ジャベリン」と似た個人携帯型のミサイルは世界各国で開発・配備されています。日本にも陸上自衛隊向けに「01式軽対戦車誘導弾」というものがあるほか、イスラエルの「スパイク」や中国の「HJ-12」などがあります。その傾向は韓国も同様で、「韓流ジャベリン」ともいえる国産兵器AT-1K「レイボルト」が存在しています。
韓国独自開発の肩撃ち式対戦車ミサイルAT-1K「レイボルト」(画像:大韓民国陸軍)。
「レイボルト」は2017年から韓国陸軍に配備がスタートした新しいミサイルで、韓国防衛企業であるLIG Nex1社がミサイル本体を、ハンファ・ディフェンス社が発射装置をそれぞれ製造しています。
ミサイルの誘導は「ジャベリン」と同じ赤外線画像方式。ミサイルの先端にある画像センサー(シーカー)が目標を画像として捉えて向かっていくため、照準を合わせて発射すれば自動的に命中してくれます。命中率はカタログデータによると80%で、2発を発射すれば必ず1発は目標に命中する計算となります。また、ミサイル自身が目標を追ってくれるため、発射後、すぐに移動することができ、ゆえに反撃を受ける可能性も低く兵士の生存性も向上しています。
ミサイルの最大射程は約2.5km。弾頭は成形炸薬のタンデム式(二重)弾頭で、命中すると2段階でダメージを与えるため最大で厚さ900mmの装甲を貫通する能力があるといわれています。また、最近の戦車は爆発反応装甲を始めとした増加装甲などで防御力向上が図られていますが、タンデム式弾頭はそれに対しても有効な打撃力となるでしょう。
ミサイルの飛翔モードは2種類あり、一直線で目標に向け飛翔していくダイレクトアタック・モードと、発射後、いったん上昇してから装甲の薄い目標上部に命中するトップアタック・モードが選択可能です。
韓国軍兵士に率直な感想聞いてみた
こうして見てみると、「レイボルト」の性能はアメリカ製の「ジャベリン」と非常によく似ています。ただ、より正確にいえばこれら能力は、近年の同クラスの対戦車ミサイルに広く普及しており、韓国はそれらと並ぶ一線級の対戦車ミサイルの国産化を達成したともいえるでしょう。
その実績を証明するかのように、こ海外への輸出実績もあり、このミサイルは韓国陸軍だけでなく、サウジアラビア、UAE(アラブ首長国連邦)、アゼルバイジャンでも導入されています。
第一線で運用する韓国軍兵士に「レイボルト」の感想を聞くと、非常に好意的なコメントが返ってきます。
「即応性が高いミサイルなので、電源を入れて発射状態にするまでの時間は非常に短く、発射機の立ち上げに1分、ミサイル本体のシーカーの冷却に10秒しかかかりません。ミサイルと発射機の総重量は20kgなので歩兵ひとりでの携行も可能です。また、ミサイル本体の重量は12kgなので、同行する兵士が予備弾を2発まで携行することができます。個人的な意見では『ジャベリン』よりもいい兵器だと思っていますよ」
加えてミサイル発射に関する操作も自動化が進んでおり非常に簡単だと説明してくれました。
ソウルで行われた防衛展示会で展示されたAT-1K「レイボルト」のシミュレーター(布留川司撮影)。
そこで筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)は韓国の防衛展示会で生産企業のLIG Nex1社が展示していた訓練用シミュレーターで操作を体験してみました。シミュレーターは実際の「レイボルト」と同じ大きさの発射機に、シミュレーター操作用の端末が接続されていました。スコープを除くとコンピューター上で再現された戦場と目標が映っており、目標である戦車はエンジンによる熱源を発生しているため明るく表示されています。
スコープの倍率は2段階で切り替え可能で、スコープを動かして中央にある照準用の十字線に目標に合わせてロックオンのボタンを押すと、それが四角いシンボルに囲まれてミサイルが認識したことを教えてくれます。続いて引き金を引くとミサイル発射。スコープを見続けながら10秒程度待つと、目標が明るく光り、命中したことを教えてくれました。
筆者は軍務経験のない民間人ですが、それでも説明を受ければ初めてでも命中させることができました。これは「レイボルト」をはじめとする現在の対戦車ミサイルの性能の高さを示しています。
ミサイル撃ってわかった戦車の必要性
しかし、これによって「レイボルト」や「ジャベリン」が戦車を始めとした戦闘車両や戦場に対して有効であるともいえません。
実際、筆者の前にシミュレーターを試した外国の軍関係者は、ミサイルのセンサーの認識能力と目標が偽装した場合の条件を試すために、シミュレーターでより難しい状況をリクエスト。画像誘導方式ゆえに偽装などの遮蔽物がある場合の攻撃には制約が発生し、そのときの攻撃手順はより複雑になるようでした。筆者が見事命中させたシミュレーションは、文字通り基本的な操作方法とミサイルのデモンストレーションでしかなかったのです。
車載型のAT-1K「レイボルト」。ミサイルが2発並んだ連装式になっている(布留川司撮影)。
前出の「レイボルト」の感想を話してくれた韓国軍兵士も、「このミサイルの訓練には約3か月が必要。私は現在の任務には1年ほど就いています」と話しました。ミサイル自体の操作は簡単でも、それを戦力になるよう使いこなすには相応の訓練が必要だといえるでしょう。
ウクライナ侵攻での「ジャベリン」の活躍によって、日本国内でも戦車不要論とより低コストのミサイル配備論が財務省などから出て、一部で話題となりました。
たしかに現代の対戦車ミサイルは高性能で有効な兵器です。しかし、それはすべての兵器に勝る“ゲームチェンジャー”的なものでは決してありません。「レイボルト」を運用する韓国陸軍も、このミサイルとは別に約2400両の戦車、約5400両/門の各種野砲、約2800両の装甲車両を有しており、総兵力はおよそ56万人にも及びます。
いかに高性能な対戦車ミサイルが配備されていたとしても、それ単体では脆弱であり、様々な車両や兵器と組み合わせて互いの弱点を補って初めて、安全保障上の防衛力として機能してくれるのだと、「レイボルト」の射撃シミュレーターを操ってみて改めて実感しました。