フー・ファイターズ(Foo Fighters)のドラマー、テイラー・ホーキンス(Taylor Hawkins)のトリビュート・コンサートが、9月にロンドンとLAで開催された。ここでは6時間に及んだLA公演をレポート。執筆者はLA在住のライター/翻訳家、バルーチャ・ハシム廣太郎。

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テイラー・ホーキンスが滞在先のホテルで亡くなったというニュースは、世界中のロック・ファンを震撼させた。彼は3月25日、フー・ファイターズが南米コロンビアの音楽イベント「フェスティバル・エステレオ・ピクニック」に出演する直前に50歳の若さで急逝。フー・ファイターズのカリスマ性溢れるドラマーとして愛されていただけでなく、自身がリーダーを務めたテイラー・ホーキンス&ザ・コートテイル・ライダーズ、ジェーンズ・アディクションのデイヴ・ナヴァロとクリス・チェイニーと結成したNHCなどでも活躍してきた。

個人的にも、高校時代にニルヴァーナの来日公演をリアルタイムで体験し、音楽業界に入ってからは2000年代初頭にフー・ファイターズの来日プロモーションの通訳を務めたこともあったので、フー・ファイターズは特別思い入れのあるバンドだった。取材中のテイラーはいつも明るく、ジョークを交えて周囲を笑わせ、一人のドラマーとしてデイヴ・グロールに負けず劣らずの存在感をステージから放っていたので、彼が亡くなったと聞いたときの衝撃は大きかった。同様に、世界中のファンや彼の仲間のミュージシャンも、その事実を受け入れられなかったに違いない。

そんな愛すべきロック界のレジェンド、テイラー・ホーキンスのトリビュート・コンサートが9月3日にロンドンのウェンブリー・スタジアム、9月27日にLAのザ・キア・フォーラムで開催された。両イベントともチケットはすぐにソールドアウト。筆者は幸運にもLAのイベントに行くことができたが、会場に到着すると自分と同年代の中年層のファンが多く、子ども連れで参加している家族も見かけた。会場の外側と天井には、テイラーのシンボルマークでもあった鷹(タカ)のロゴがライトアップされていた。

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午後7時を過ぎた頃、デイヴ・グロールの娘であるヴァイオレット・グロールと、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジなどの活動で知られるギタリストのアラン・ジョハネスがステージに登場し、レナード・コーエンの「Hallelujah」を熱唱。そして、フー・ファイターズのメンバーとステージに表れたデイヴが、「ここはテイラーのホームタウンだからしっかり盛り上がれよ! テイラーの音楽の世界がわかるようなコンサートにしたかったから、彼の仲間がたくさん登場する。彼は俺たちやファンすべての人生を変えたし、彼と会ったことがある人ならわかると思うけど、彼は誰でもスマイルさせることができた。今夜は長くなるぞ!」と高らかに宣言した。

最初のゲストとして出演したジョーン・ジェットは、「泣かずに曲を演奏できるかわからないけど」と言いながら、ドラマーのトラヴィス・バーカーやフー・ファイターズのメンバーと共に、彼女のヒット曲でもある「Cherry Bomb」(ザ・ランナウェイズ)と「Bad Reputation」を演奏。オーディエンスも合唱した。


ジョーン・ジェット(Photo by Timothy Norris)


ケシャ(Photo by Danny Clinch)


ジャスティン・ホーキンス(Photo by Danny Clinch)

次に、テイラーの息子であるシェーン・ホーキンスが、テイラーの率いたカバー・バンド、Chevy Metalを紹介する。テイラーの高校時代の親友であり、イエスの現ボーカリストでもあるジョン・デイヴィソンを迎えて「Owner Of A Lonely Heart」をパフォーマンス。さらに続けて、目に眩しいスパンコールの衣装を身につけたポップ・シンガーのケシャが、このメンバーと一緒にデヴィッド・ボウイの「Heroes」をカバーした。

クリス・チェイニー(ジェーンズ・アディクション)を含むテイラーのバンド、ザ・コートテイル・レイダースはジャスティン・ホーキンス(ザ・ダークネス)とのタッグで「I Believe in a Thing Called Love」などを披露。さらに、レヴェル42のマーク・キングもゲスト参加し、歯切れのいいスラップ・ベースを披露しながら「Something About You」で魅せた。

有名ロックヒーローたちが続々と登場

ここで再びデイヴが登場。「テイラーのコアなファンなら知っているかもしれないけど、彼はジェームス・ギャングのキャップをいつもかぶっていて大ファンだった。ジョー・ウォルシュはテイラーのために、このイベントのために、15年ぶりにジェームス・ギャングを再結成してくれた」と紹介。そのジェームス・ギャングが「Funk #49」などを演奏するとき、デイヴがドラムを担当した。

続いてデイヴが「テイラーは世界中のミュージシャンと友達で、たくさんのサイド・プロジェクトをやっていたけど、この次のミュージシャンはその一人だ」と語ると、エイミー・ワインハウスやアデルを手がけたことで知られるマーク・ロンソンがステージに。テイラーが大好きだったジェリー・ラファティーの楽曲「Right Down The Line」をデイヴらと共にプレイする。


ジェームス・ギャング(Photo by Timothy Norris)


マーク・ロンソン(Photo by Timothy Norris)

クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのジョシュ・オム、レッド・ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズ、デイヴ・グロールらによるスーパーグループ、ゼム・クルックド・ヴァルチャーズが数曲演奏したのち、エディ・ヴァン・ヘイレンの息子であるウルフギャング・ヴァン・ヘイレンが登場。ジャスティン・ホーキンスをボーカル、デイヴをドラムに迎えて、ヴァン・ヘイレンのヒット曲「Hot For Teacher」などでオーディエンスを沸かせた。


ゼム・クルックド・ヴァルチャーズ(Photo by Andreas Neumann)

「さすがにこれを超えるコラボはないだろう」と誰もが思っていたところに、デフ・レパードとフー・ファイターズがジョイントで「Rock Of Ages」をプレイして興奮の渦に巻き込むと、ポップス界の歌姫でテイラーと親交のあったマイリー・サイラスが登場して、デフ・レパードのヒット曲「Photograph」を熱唱。ちなみに、テイラーは亡くなる前、マイリーの携帯に「君はいつか”Photograph”を歌うべきだよ」というメッセージを残していたらしい。

さらに、モトリー・クルーのトミー・リー、ニッキー・シックスがフー・ファイターズのメンバーと「Home Sweet Home」を演奏するとスタジアム中が大合唱。その光景を見ながら、テイラーが垣根を越えてミュージシャンをつなげる力があったことを再認識させられた。その後、ザ・カーズのエリオット・イーストンがデイヴ、ジョシュ・オムらと「Shake It Up」を演奏したり、ハートのナンシー・ウィルソンがフー・ファイターズのメンバーやポップス界のアイコンでもあるP!NKと「Barracuda」を披露したのも印象的だった。


デフ・レパード+フー・ファイターズ+マイリー・サイラス(Photo by Danny Clinch)


ニッキー・シックス(Photo by Timothy Norris)


エリオット・イーストン(Photo by Timothy Norris)


ナンシー・ウィルソン+P!NK+フー・ファイターズ(Photo by Timothy Norris)

「今日は15人くらいドラマーが参加しているけど、テイラーはみんなと仲がよかった。中でも彼がもっとも影響を受けたのがスチュアート・コープランドだった」とデイヴが語ると、フー・ファイターズのメンバーとコープランドが、ポリスのヒット曲「Every Little Thing She Does Is Magic」などを披露。

テイラーがフー・ファイターズに加入する前、アラニス・モリセットのツアー・ドラマーとして活動していたのは周知の通りだが、アラニス、フー・ファイターズ、チャド・スミス(レッド・ホット・チリペッパーズ)という夢のような布陣で演奏された「You Oughta Know」も破壊力抜群だった。


スチュアート・コープランド(Photo by Timothy Norris)


アラニス・モリセット(Photo by Timothy Norris)


ラッシュのゲディー・リー(Photo by Danny Carey)

続けてデイヴが、「次の曲は俺たちのロックヒーローたちと演奏したい」と告げると、メタリカのラーズ・ウルリッヒ、ブラック・サバスのギーザー・バトラー、スキッド・ロウのセバスチャン・バッハという、これまた一昔前だったら考えられないような組み合わせで、ブラック・サバスの「Paranoid」などを演奏する。それからテイラーと親交の深かったコメディアン、ジャック・ブラックが登場し、「テイラーのライブを見るたびに彼のドラミングに衝撃を受けたけど、この会場で彼と一緒に最高のロック・バンド、ラッシュを見たのもいい思い出だよ」と語ると、ラッシュのメンバーが「2112: Overture」などを披露した。

クイーン、フー・ファイターズが登場

個人的にこのコンサートでもっとも感動的だったのが、サウンドガーデンのキム・セイルとドラマーのマット・キャメロン、ニルヴァーナのベーシストだったクリス・ノヴォセリック、フー・ファイターズのデイヴとパット・スメア、そして女優の活動でも知られるシンガーのテイラー・モムセンらによる「Black Hole Sun」だった。テイラー・モムセンのハスキーな歌声と迫力満載の演奏に度肝を抜かれながら、サウンドガーデン、ニルヴァーナ、フー・ファイターズのそれぞれが「メンバーの死」というトラウマを経験していることに気づき、驚がくした。


サウンドガーデン+クリス・ノヴォセリック+テイラー・モムセン(Photo by Timothy Norris)

会場に詰めかけた多くのファンにとってのハイライトは、おそらくクイーンのブライアン・メイとロジャー・テイラーが、フー・ファイターズのメンバーと演奏した「We Will Rock You」だろう。この曲でドラムを叩いていたのは、ロジャー・テイラーの息子であるルーファス・テイラー。彼はテイラーを師匠と仰ぐだけあり、ドラミングのスタイルも似ていたのも印象深い。

さらにブライアン・メイが、「もともとこの曲は今日演奏しないつもりだったんだけど、テイラーの奥さんから『結婚式でもかけたし、二人の大好きな曲だったからぜひ演奏してほしい』と頼まれたんだ」と話し、ギターとボーカルの弾き語りで「Love Of My Life」を熱唱。多くのファンが涙をこらえながら合唱していた。テイラーの奥さんと子ども達がステージに立ち、ブライアン・メイとハグする光景にも胸が締め付けられる。


ブライアン・メイ(Photo by Marotta Aysia)


ルーファス・テイラー(Photo by Oliver Halfin)

そして、多くのファンが待ち望んでいたフー・ファイターズのステージでは、テイラーの盟友ドラマーが次々とゲスト出演。「The Pretender」では再びP!NKをボーカルに迎え、ドラムはマーズ・ヴォルタのジョン・セオドアが担当。 「Walk」はトラヴィス・バーカー、「Low」はマット・キャメロン、「This Is A Call」ではレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのブラッド・ウィルク、「The Sky Is A Neighborhood」はウィーザーのパトリック・ウィルソンがそれぞれフィーチャーされた。また、「Medicine At Midnight」にパーカッションで参加した伝説的ドラマーのオマー・ハキムは、「Run」でドラムも担当した。


フー・ファイターズ(Photo by Timothy Norris)


マット・キャメロン(Photo by Danny Carey)


ブラッド・ウィルク(Photo by Timothy Norris)


パトリック・ウィルソン(Photo by Timothy Norris)


オマー・ハキム(Photo by Timothy Norris)

この日、もっとも意表を突かれたゲストといえば、全米一の人気コメディアンであるデイヴ・シャペル。なんと彼はフー・ファイターズと共にレディオヘッドの「Creep」を披露。会場中で大合唱が巻き起こる。フー・ファイターズの大ヒット曲「Best Of You」でドラムを叩いた上述のルーファス・テイラーが、曲を演奏し終えてから思わず泣き出した光景も印象的だった。

そして、テイラーの息子であるシェーン・ホーキンスが、大反響を巻き起こしたロンドン公演に続いて「My Hero」でドラムを演奏。これには誰もが笑顔がこぼれてしまう。シェーンの顔もドラミング・スタイルもテイラーとそっくりで、そこもまた微笑ましかった。フィナーレとなった「Everlong」ではチャド・スミスがいつも以上にエモーショナルにドラムを叩き、デイヴの「We love you, Taylor!」というMCを聞いたあとに周りを見渡すと、号泣しているファンも多かった。


フー・ファイターズ+チャド・スミス(Photo by Andreas Neumann)


デイヴ・グロール(Photo by Timothy Norris)

6時間以上もあるトリビュート・コンサートだったが、これでもかというくらいのロックヒーローたちがゲスト出演し、終わったあともまったく疲れを感じさせないほどの濃い内容だった。テイラーがいかにロック・ミュージックを深く愛していたのか、彼自身が様々な世代やシーンのミュージシャンからどれだけ愛され、その橋渡し的役割を果たしていたのかも痛感させられた。

そんなテイラーは、きっと今頃、天国で大好きなミュージシャンたちとセッションを続けているに違いない。そして今後もフー・ファイターズの動向から目が離せない。


Photo by Oliver Halfin

〈セットリスト〉

●Violet Grohl with Alain Johannes
1. Hallelujah (Leonard Cohen)

●Joan Jett + Foo Fighters with Travis Barker)
2. Cherry Bomb (The Runaways)
3. Bad Reputation (Joan Jett and the Blackhearts)

●Chevy Metal
4. Riff Raff (AC/DC)
5. Owner of a Lonely Heart (Yes) (with Jon Davison)
6. "Heroes" (David Bowie) (with Kesha)

●Justin Hawkins + Josh Freese + The Coattail Riders
7. Range Rover Bitch (Taylor Hawkins)
8. Its Over (Taylor Hawkins & The Coattail Riders)
9, Something About You (Level 42) (with Mark King)
10. I Believe in a Thing Called Love (The Darkness) (with Rufus Taylor)

●James Gang
11. Walk Away
12. The Bomber: Closet Queen / Bolero / Cast Your Fate to the Wind
13. Funk #49 (with Dave Grohl)

●Mark Ronson + Andrew Wyatt + Dave Grohl
14. Right Down the Line (Gerry Rafferty)

●Them Crooked Vultures
15. Goodbye Yellow Brick Road (Elton John)
16. Dead End Friends
17. Long Slow Goodbye (Queens of the Stone Age)

●Wolfgang Van Halen + Justin Hawkins + Josh Freese + Dave Grohl
18. Panama (Van Halen)
19. Hot for Teacher (Van Halen)

●Def Leppard + Foo Fighters + Patrick Wilson
20. Rock of Ages (Def Leppard)
21. Photograph (Def Leppard) (with Miley Cyrus)

●Nikki Sixx & Tommy Lee + Derek Day + Foo Fighters
22. Live Wire (Mötley Crüe)
23. Home Sweet Home (Mötley Crüe)

●Elliot Easton + Josh Homme + Foo Fighters
24. Shake It Up (The Cars)
25. Just What I Needed (The Cars)

●P!nk + Nancy Wilson + Foo Fighters
26. Barracuda (Heart) (with Jon Theodore)

●Stewart Copeland + Foo Fighters
27. Next to You (The Police)
28. Every Little Thing She Does Is Magic (The Police) (with Jon Davison)

●Alanis Morissette + Foo Fighters
29. You Oughta Know (Alanis Morissette) (with Chris Chaney + Chad Smith)

●Sebastian Bach + Geezer Butler + Lars Ulrich + Foo Fighters
30. Supernaut (Black Sabbath)
31. Paranoid (Black Sabbath)

●Geddy Lee + Alex Lifeson
※Jack Black - intro speech
32. 2112 Part I: Overture (Rush) (with Dave Grohl)
33. Working Man (Rush) (with Chad Smith)
34. YYZ (Rush) (with Danny Carey)

●Soundgarden + Taylor Momsen + Nirvana
35. The Day I Tried to Live (Soundgarden)
36. Black Hole Sun (Soundgarden)

●Queen + Foo Fighters
37. We Will Rock You (Queen) (with Justin Hawkins)
38. Im in Love With My Car (Queen) (with Rufus Taylor)
39. Under Pressure (Queen) (with Justin Hawkins)
40. Somebody to Love (Queen) (with P!nk)
41. Love of My Life (Queen) (Brian May solo acoustic)

●Foo Fighters
42. All My Life (with Josh Freese)
43. The Pretender (with Jon Theodore + P!nk)
44. Walk (with Travis Barker)
45. Low (with Matt Cameron)
46. This Is a Call (with Brad Wilk)
47. The Sky Is a Neighborhood (with Patrick Wilson)
48. Creep (Radiohead) (with Dave Chappelle and Patrick Wilson)
49. Run (with Omar Hakim)
50. Best of You (with Rufus Taylor)
51. My Hero (with Oliver Shane Hawkins)
52. Ill Stick Around (with Oliver Shane Hawkins)
53. Everlong (with Chad Smith)