松井 拓己 / 松井サービスコンサルティング

写真拡大

進化のポイントを2つの観点で整理します。1つ目は、価値共創は顧客との直接接点が中心か、非接触が中心か。2つ目は、サービス進化のアプローチがサービスモデルの強化なのか、サービスモデル自体の革新にまで及ぶのか。これによりサービス進化は4つの方向性に分かれます。

A:事前期待の的を進化させる(直接接点×強化)

3密を回避する工夫をしつつ、従来の直接的な顧客接点におけるサービス提供を重視したサービスの進化です。ポストコロナを見据えてサービスの価値やターゲット顧客を再定義し、サービスモデルを強化します。たとえば、インバウンド需要の激減を受けて、海外や他県の新規顧客に向けたサービスから、国内や近場からのリピーターを生むサービスに設計を変革する。オンラインサービスに負けないように、店舗という“場”の価値や意義を一段と高めるサービス設計に進化する。といった具合です。

B:サービスプロセスを進化させる(非接触×強化)

サービスプロセスを積極的に非接触型に置き換える進化です。コロナ禍において最も多く取り組まれている対策です。これを一過性の対策とするのではなく、効果的な施策を常時のサービスプロセスに組み込む企業が増えています。中には、自社でうまくいった3密を避けるサービスのしくみをコロナ対策に苦戦する他社に外販し始める企業もあります。

C:共創の場を進化させる(直接接点×革新)

従来の顧客接点に頼らないサービスモデルへの革新です。たとえば店舗型サービスでは来店客の激減を受けて、顧客の来店を待つ受身型のスタイルから脱却しようとしています。こちらから出向く訪問型サービスや、クライアントのオフィス内にサービスを組み込むビルドイン型サービスや運用サービスへの転換など。形は様々ですが、店舗を有していることの強みや経験知を活かして、価値共創の場そのものを変える取り組みです。

D:共創の主体を進化させる(非接触×革新)

人ではなくモノやコンテンツを介したサービス提供に革新します。たとえば、目に見えないサービスの情報をカタログ化して潜在ニーズを喚起したり、サービスのしくみを共有して顧客が自律的にサービスを利用できるようにすることで、デジタルの強みを活かした圧倒的なスピードや利便性を生み出そうとしています。

これらは実際には独立しているのではなく、従来の顧客接点の圧倒的な価値向上とセットで取り組まれています。いずれにしても、コロナ禍を単にしのぐのではなく、これを機に事業が平穏無事なときにはできなかった進化にチャレンジしようとしているのです。「しのぐ」のか、「進化」に踏み出すのか、この差はこの先、大きく開くことでしょう。