主演映画の公開前にインタビューに応じた山粼賢人(撮影:長田慶)

「生きていくうえで大切なことが全て詰まっている物語です」

山粼賢人は、キングダムの魅力を一言で表現し、その理由を語った。

「どの世代にも、それぞれの環境で戦いがあり、その中でみんな生きていると思う。仲間や誰かの思いを背負っていく、身体を張って魅せてくれた先輩の生き様を無駄にしない、今の自分の考えだけが全てじゃないという、受け止める力など。自分もキングダムで信を演じる中で気づかされて成長できた部分がたくさんありましたね」

『キングダム』は、原泰久による日本の漫画作品。戦乱期の中国で、いちばん身分の低い少年が難敵との死闘を経て将軍への道を駆け上がっていく立身出世の物語。累計発行部数9000万部超えの、日本の漫画史に残る名作だ。

幅広い世代にも愛されており、各界のリーダーが激賞するなど、“乱世を生き抜くために、全てのビジネスパーソン必読書”と紹介されたこともある。

将軍や王といった立ち位置がビジネスでいうところの経営者だとするのなら、檄を飛ばすのはリーダーシップにあたり、軍師と戦略を立てるさまはマネジメントや経営戦略にあたる。部下の育成方法、モチベーションの高め方、ビジョンの共有などを参考にしているビジネスパーソンが多くいる。

実写化不可能と言われた主人公を演じた山粼賢人

そんな『キングダム』で実写化不可能と言われた主人公の信を演じたのが、俳優の山粼賢人だった。2019年に公開された作品は、興行収入57.3億円という、2019年の実写邦画No.1となる大ヒットを記録し、観客満足度95.4%の高評価を獲得した。


©原泰久/集英社 ©2022 映画 「キングダム」製作委員会

「それだけたくさんの人に見てもらえて、愛してもらったんだなと思うと、めちゃくちゃ嬉しかったです。見てくれた人も巻き込んで、熱くなって、一緒に進んでいける感覚がある。

改めてすごいパワーのある作品だなと思いました。周りにも『キングダム』が好きな人はたくさんいて、パート2の続編が発表されたときも、「待ってました」っていう反応が多かったです」

前作から3年の時を経て、前作を凌駕するエンターテインメント超大作として、映画『キングダム2 遥かなる大地へ』が7月15日に全国公開される。

前作では、山粼賢人が演じる主人公の信は、周りに巻き込まれて、翻弄され、成長していくキャラクターだった。パート2では“蛇甘平原”での戦い、大将軍への第一歩である信の初陣が描かれる。自らの意志で一歩を踏み出していく信の姿は、主演として現場を引っ張っていく、リーダーとしての資質が必要とされた。


(撮影:長田慶)

「僕は、分かりやすくリーダーシップを発揮したり、みんなを引っ張っていくストレートなタイプではないんです。

だけど、とにかく撮影で先頭切って信を演じて、『俺はおもいっきりやってるからついて来て欲しい』と背中で語る、“強く優しく”という心構えですね。

信もオールマイティで全てのことが器用にうまく出来るタイプではないのですが、自分も同じで出来ないことがいっぱいある。だからこそ、自分が頑張れるところは全力で頑張るスタンスが、主演として作品を引っ張る姿と重なりましたね」

俳優としての逆境に乗り越える術を学んだ

『キングダム2 遥かなる大地へ』では、前作を超えるスケール感で、日本各地と中国で撮影が行われ、邦画史上に残る戦場とドラマを描いている。山粼賢人は、主演としてのプレッシャーとどう向き合い、準備していたのか。


©原泰久/集英社 ©2022 映画 「キングダム」製作委員会

「もちろんプレッシャーはありましたけど、楽しみのほうが大きかったです。楽しみだけど、ちょっと緊張もあるっていう、武者震いするような感覚でした。アクションは練習したものしか出せないから、そのための準備を頑張ろうと思いました。

前作より少しパワーアップしたいイメージがあったので、ひたすらウェイトトレーニングを行いました。殺陣が多いので、腕を鍛えたくて木刀を結構振りましたね。食事もタンパク質を多めに摂取し、ちゃんと筋肉をつけつつ。柔軟に動ける体を作って、たくさんの戦に備えました」

精神面や身体面でも、前作から成長を遂げている信を追求していた。その中で山粼賢人自身も俳優としての逆境に乗り越えるための術を学んだという。

「俳優として、思考を硬く考えないようにすることですね。作品作りは、本当にいろんな部署がいて多くの人が関わっていて、俳優部だけがうまくいっても他がダメだったらうまくいかないことだってあります。でも、そこでめげない、何回でも挑戦する姿勢というか。

作品にもよるんですけど、信を演じているときは、本当に無敵になれる、無限にパワーがでてくる。逆境になればなるほど、辛くなればなるほど、「やってやるぞ!」と力が湧いてくるんです。以前よりも確実に前向きになることができています」

山粼賢人は、『キングダム』の過酷な撮影を乗り越えながら絆が深まり、みんなで作り上げる総合芸術だと改めて感じていた。そんな『キングダム2 遥かなる大地へ』を通じて届けたいメッセージを尋ねると、パンフレットのキャッチフレーズを指差した。


(撮影:長田慶)

「ここに書いてある、“命をたぎらせ、生きろ。”というシンプルな言葉がメッセージですよね。見てもらった人に本当に伝えたい。『キングダム』では、仲間たちが集い、無謀とも思える戦いにも挑んでいきます。とにかく真っ直ぐ夢に向かって突き進んでいく。

見てくれる人によっては、“社会の中でどう戦うのか?”と照らし合わせながら、頭を使うのか? 身体を使うのか? 仲間で力を合わせるのか? 燃えていないと、というか。命をたぎらせろ、ですよね。生きろって思いますね」

“生きろ”。その言葉を山粼賢人は、別の形で、自身の力に変わっていたエピソードがある。それは、『キングダム2』主題歌のMr.Childrenが歌う『生きろ』を撮影時に聴いたときだった。

シンプルなメッセージから得たものすごい説得力

「撮影の合間に1回聴かせてもらった時に“パワーがみなぎりました”ね。これまで、色んな曲をリリースしてきた、Mr.Childrenさんが改めて『生きろ』というシンプルなメッセージを描いているのが、ものすごい説得力で、心に響きましたね。僕の中でも信を演じているというより、“生きている”という感覚もあります」


©原泰久/集英社 ©2022 映画 「キングダム」製作委員会

「追いかけろ 問いかけろ」「失くしたものの分まで / 思いきり笑える /その日が来るまで / 生きろ」(Mr.Children)

『生きろ』を作った桜井和寿氏(Mr.Children)は、『キングダム』を意識しながら、壮大な景色を音にすること。ひたむきな願いを、友への思いを、命の尊さを、愛する強さを歌にすること。

映像の中の肉体的な躍動感に呼応すること。目指した世界観を『生きろ』というタイトルにした。『キングダム2』の〜遥かなる大地へ〜というサブタイトルは、楽曲『生きろ』がヒントになったとプロデューサー松橋真三氏がコメントを出している。

ちなみに山粼賢人にとって、初めてお金を出して買ったアルバムがMr.Childrenだった。そんな経緯もあり、主演と主題歌という形で共演できたことは、大きな力となり背中を押した。

『キングダム2』のプロジェクトが再始動を目論んでいた矢先に、新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっていた。撮影は、厳戒態勢の中で行われ、かつてない環境に置かれながらも、制作スタッフやキャストのただならぬ熱量で2021年10月に全ての撮影を終えて、クランクアップした。山粼賢人は、前作のクランクアップのときは、涙を流したといっていたが、今回はどんな感情と向き合っていたのか。

「泣いてないです。……まあ、泣きましたね(笑)。絶対泣かない、泣くもんかと思ってましたけど。普段は全然泣くタイプじゃないのに、なぜか『キングダム』のクランクアップだけは泣いてしまうんです。何でなんですかね? かかわっているキャスト・スタッフの数が多いからか、あと、信を演じているからかもしれないです。

信は周りに対して壁がない人だから、感情がパカンと解放されている状態で。信としてクランクアップを迎えるので、涙も自然に出てしまう。今回もすごいことを皆で乗り越えたという感覚がすごくありましたし、これで終わりという寂しさも少しありました」

信と仲間たちの関係や、描かれている物語など、全部が撮影とリンクした。人間の感情のシンプルなところ、根本の大事な部分をすごく揺さぶられる作品だと、改めて感じられたという。

「自分の直感を大切にして本能型でいきたい」

日本映画史上に残る戦場とドラマを描き、俳優としてまた一歩成熟した山粼賢人が次に挑むものはなんだろう。


(撮影:長田慶)

「これから、時代も変化してどんどん面白い作品が作られていくと思うので、自分自身もワクワクしながら楽しみながらやっていきたい。それを見た人が、元気になったり、人生においての気づきを感じさせることが出来たら良いですね。

ジャンルも、役もそうだし、1つのことじゃなくて色んなことをやっていきたい。プレイヤーとしては、計算せずに自分の直感を大切にして本能型でいきたいと思います」

“自分の生きる道は自分で切り拓く” 『キングダム』で天下の大将軍を夢見る、信の言葉だが、己の道を歩み続ける山粼賢人の覚悟と重なってみえた。

(文中敬称略)

(池田 鉄平 : ライター・編集者)