ゆとりを生む居場所と聞いて、なにを思い浮かべるでしょう。人それぞれ、ゆとりを感じるポイントは違います。家族みんなが集まる居場所やひとりで使う居場所など、ゆとりを生む居場所のつくり方について、実際の事例を交えてご紹介します。教えてくれたのは、一級建築士の青木律典さんです。

お互いが気配を感じつつジャマしない、ゆとりある居場所

上の写真を使って、「家族が集まるための居場所」について説明します。一般的には、リビングを家族が集まる場とすることが多いものです。しかしこの事例では、学習スペースがそれにあたります。

家族それぞれが勉強をしたり、パソコン作業をしたり、本を読んだり。そんな場所を、リビングとは別につくりました。

学習スペースがあるのは、2階建て住宅の1階。2階のリビングと吹き抜けでつながっています。そのため、吹き抜けを通じて、家族同士が互いの姿を見下ろしたり見上げたりできます。

家族の気配を感じながら、ほどよく距離をとることもでき、互いが別々のことをしていても気にならない。そんな居場所があることで、気持ちにもゆとりが生まれます。

 

ダイニング隣に、小さなおこもり感ある居場所をプラス

次の事例は、ダイニングの横にある畳敷きのコンパクトなスペースが、ゆとりを生む居場所になったケース。本棚があって、家族にとって図書室のような役割をはたします。

壁につくりつけた本棚には、家族みんなの本が収められています。畳に寝転びながら本を読んだり、くつろげたり。

図書室の窓辺には、机としてもベンチとしても使える奥行きのあるカウンターをつくりつけました。自分の好きな体勢で、本を読んだり、お茶を楽しんだりできます。

じつはこの図書室は、床のレベルがダイニングよりも1段下がっています。天井の高さも、あえて低くしました。開放的なダイニングの雰囲気と異なる「おこもり感」をつくることで、自然とくつろげるように工夫されています。

コンパクトなスペースでも、こんな場所があると、ゆとりが生まれます。また、ダイニングに置きっぱなしになりがちなものも、ここに収納できて便利。ダイニングが、いつもスッキリとした状態を保てます。

 

ダイニングから図書室を見た様子がこちら。白い壁と天井の奥に、濃い茶色の場所があるので、一室につながった空間に奥行きが感じられ、広がりが生まれました。

つながってはいるものの、視覚的にも体感的にも「ダイニングとは雰囲気が違う場所」になっていて、気持ちも切り替わります。

つくりつけのベンチで、お手軽に居場所を増やす

こちらは本棚が、ちょっとした居場所を兼ねる事例です。この部屋は寝室とつながり、多目的室として使われています。

壁一面に本棚をつくりたいという住まい手のリクエストに応えて、壁に沿ってL字に本棚を配置しました。

 

本棚の一部に窓があります。窓の前は本棚の高さを低くして、ベンチとして腰かけることが可能に。

ベンチがあることで本棚が収納としてだけでなく、人の居場所にもなるのです。夫が好きな歴史の本を読んだり、小学生の息子が図鑑を見たりして使っています。

この事例のように、あらかじめ行為を想定して、居場所をつくっておくと、イスなどといった家具を部屋に用意する必要もなくなるかもしれません。ものが少なくできれば、空間にゆとりが生まれます。

 

この事例はダイニングの一角に造作したベンチです。このベンチに座って外の景色を眺めたり、本を読んだり。そんな居場所になっています。

 

障子を開けると、借景が楽しめます。住まいに、ちょっとした居場所があちこちにあると、季節や時間帯、自分の気分に合わせて、心地よい時間を過ごす場所が選べるように。

お気に入りの場所で過ごす時間は、気持ちにゆとりを与えてくれます。

 

ダイニングスペースに、自分の専用コーナーをつくる

こちらはダイニングのすぐ横につくったカウンター兼収納棚です。住まい手の希望で、作業やデスクワークを行う広いカウンターと、本や書類のための収納棚を造作しました。

 

住まい手は、趣味のスクラップのために、広いカウンターが必要でした。このカウンターで新聞や雑誌の切り抜きやのりづけをして、製作したファイルは収納棚に収めています。

趣味や仕事のために、集中できるスペースをしっかりと確保したい。でも、個室にするほどでもない…。そんな人にとって、この手のスペースは「ちょっとゆとりを感じる居場所」となるのではないでしょうか。

注文住宅では、計画段階からしっかりと設計者とコミュニケーションをとることが大事。そうすれば、こうした事例のように、自分のライフスタイルに合った居場所をつくることができます。

自分がどんなことにゆとりを感じるのかを想像して、自宅に理想的な居場所を手に入れてみましょう。