子どもが「マインクラフト」に時間を費やしてもいい理由。むしろ必要なのは親の意識改革
ブロックを配置して何かを生み出したりサバイバル生活を楽しんだりと、明確な目標やゴールを与えられないなか無限に続く世界で自由に遊べるゲーム『マインクラフト』(通称マイクラ)。小学校でプログラミングが必修になり、2025年には大学入学共通テストの教科に「情報」が加わるこれからのデジタル社会において、マイクラを教育に取り入れることにはどのようなメリットがあり、その普及にはどんな課題があるのでしょうか。教育版マインクラフトを使用した作品コンテスト「Minecraftカップ」の運営委員長を務める東京大学教授・鈴木寛先生に伺いました。
マインクラフトが普及されるべき理由
「プログラミングに役立つ」と注目され、より教育効果を高めた『教育版マインクラフト』をプログラミング教材として導入する小中学校が少しずつ増えています。
とはいえ、その普及率はまだまだ非常に低いもの。鈴木先生によると、マイクラは学校の勉強だけでは身につかないさまざまな力を身につけられる最善のツールだというのに、もったいないことです。
●マイクラで「教える」という学びのスタイルを卒業したい
そもそもマイクラを使って学ぶことは、プログラミングなどの能力を高めるだけではなく、日本教育が抱える課題を解決する方向にも向かうと鈴木先生は言います。
「プログラミングというのは、指導者がいなくても学習環境が用意されていれば子どもが自ら率先してどんどん学んでいけるもの。とくにマイクラは、コーチが横について手取り足取り教えるようなことはなく、子どもたちは気づけば試行錯誤しながらいろんなワザを学んでいますよね。ここがすごく重要で、新しい学習指導要領のキーワードである『アクティブ・ラーニング』に合致するところなんです」(鈴木先生、以下同)
「アクティブ・ラーニング」とは、生徒が受け身ではなく自ら能動的に考え学習するための教育法のこと。
「日本の授業といえば『一方的に教える』というスタイルが一般的で、生徒は『教わる』という教育だから受け身な指示待ち人間になってしまうわけで、脱・指示待ち人間というのが日本教育の最大の課題なんです。日本の15歳は学力的には世界一で、とくに数学や理科の学力はすばらしいのですが、社会に出たときに大事になってくるのは主体性や自発性、つまり自ら動くアクティブさですよね。だから今こそ、マイクラを使ったプログラミング学習で『教える』ということから卒業したい。学びのスタイルを改革したいんです」
●まずは保護者がリテラシーを高めたい
こうしたプログラミング学習やアクティブ・ラーニングの重要性に気づきマイクラを導入している小中学校は、現状では私立校が中心。公立校にいたっては、首都圏でも渋谷区やつくば市などごく少数の自治体の小中学校に限られているそう。
「導入が進まないのは、結局のところ他のゲームとマイクラの区別がつかず“ゲーム一般”としてしまっている保護者に問題があります。『帰宅後にゲームばかりしているから持ち帰りさせないで』『ゲームアプリは入れないで』などと言う保護者がちょっとでもいれば、市区町村の教育委員会は二の足を踏んでしまいますからね」
渋谷区でも当初は誤解している保護者がおり、その誤解を解いてから導入する形になったのだとか。
「マイクラは思考の段階から教育のプロが入っているコンテンツで、だからこそ私たちは『ゲーム』ではなく『デジタルものづくり』と呼んで普及に励んでいます。子どもたちにとっても、やらされている学習と自分から楽しんでやる学習とでは、後者が勝つに決まっています。あとは、そういう方向に保護者のみなさんがどれだけ頭を切り替えられるか。もっと保護者のみなさんのリテラシーを上げてほしいんです」
●校長や教育委員会にマイクラの導入を頼んでほしい
いまの小中学生の親といえば、プログラミングを学ぶ機会がなかった人のほうが多い30〜40代が中心で、「遊びを通してプログラミングを学ぶ」と聞いてもピンとこない世代。根本的に意識を変えていかなければいけないのかもしれません。
「ですからある意味、親の意識改革なんです。子どもがマイクラをやっている姿を見て、ゲームをやっていると思わないところから始めてもらわないといけない。そもそもゲーム自体ダメなことではないんですけどね。親の世代には『勉強とは勉めて強いる辛いもの』『嫌なことに耐えるべき』といった思い込みがあるので、学ぶことはじつは楽しいことなんだというのを親がわからないといけません。実際、学習効果はエデュテイメント(楽しみながら学ぶことを目的としたコンテンツ)が一番高いですからね」
「意識改革ができたら、ぜひとも親が集まって学校や教育委員会にマイクラの導入を提案してほしい」と鈴木先生は言います。
「学校関係者は『いつも保護者から文句ばかり言われている』という感覚を持っていると思うので、『やめてください』じゃなくて『やってください』というポジティブな提案を持っていったら、身構えている分、喜んでくれるはず。『渋谷区と差がついちゃうでしょ!』と保護者が強く申し入れれば動いてくれるんじゃないですかね(笑)。もちろん反対する保護者も出てくると思うので、そのときは反対する保護者を保護者が説得する。そこまですれば、教育関係者は大喜びで導入を検討してくれると思いますよ」
●オンラインでコーチと繋がれるコミュティづくりも重要
とはいえ、保護者の声から導入に至るまでにはそれなりに時間がかかってしまうはず。そうした現実も踏まえて、鈴木先生をはじめとしたMinecraftカップ全国大会運営委員会では、マイクラの“学びのコミュニティ”を今年からつくっていく予定なのだとか。
「私たちは利潤目的ではなく純粋にソーシャルムーブメントを起こしたいので、塾やNPOを含めボランタリーに講師をしてくれる人のネットワークをつくり、その講師をオーガナイザーとして地域地域の“学びのコミュニティ”をつくっていく形にできたらいいなと。リアルとオンラインの両方で同じように学ぶことができるシステムにすれば、必ずしも住んでいる地域にコミュニティがなくても学ぶことができますしね」
どこにいても気軽に学べる環境があれば、確かにマイクラを始める人もハマる人もどんどん増えていきそうです。
「このように教育現場と民の力の両方から攻めて、『Minecraftカップ』の応募者が2倍3倍になるくらいマイクラでの学びに夢中になる子どもが増えるのが目標です」
●ユーチューバーなどからも「楽しく学ぶ」が広まってほしい
「“楽しく学ぶ”という姿勢が広まるのは大事なことなので、ユーチューバーのお兄さんお姉さんがマイクラに夢中になっている姿を見るのはとてもいいことだと思うんです。だって、面白そうにやっていないものは面白そうとは誰も思わないじゃないですか。たとえば、まいぜんシスターズさんの動画はマイクラでの遊び方が子どもの心を掴むようにできていますけど、それ以前に本人たちが夢中になってマイクラを楽しんでいるところがいいんですよね。そういう夢中になってるオーラに触れて、どんどん夢中になってほしいんです」
夢中になればなるほどマイクラで遊ぶ時間は増えるはずですが、そこも大きなメリットなのだそう。
「何かを体系的に学びマスターしていくには、どれくらいの時間をかけたかもポイントになります。何事もまずは3000時間やってみて、次は10000時間やる…という具合に。途方もなく感じるかもしれませんが、学校教育がたかだか年間800時間なのに対し、日本の子どもがディスプレイの前に座っている時間は平均1500〜2000時間もあります。つまり、学校でマイクラが導入されたとしても、家庭においてマイクラで学ぶ時間を増やすことも重要で、そのためのコンテンツとしてユーチューバーはとてもマッチしているんですよ。動画に夢中になってハマっていけば、簡単にたくさんの時間を確保できますからね」
やる気のない子どもに「勉強しなさい!」と小言を言い不毛な対立を繰り返すよりも、マイクラに任せてしまったほうが親もラクですよね。放っておいても子どもが取り組んでくれるマイクラに感謝しつつ、暖かく見守れるようになりましょう。
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