名古屋でチーフマネージャーを務める三田実氏【写真提供:名古屋グランパス】

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【黒子の極意】名古屋のチームマネージャー三田実氏、仕事内容を一言で表すと“なんでも屋”

 サッカーの世界は選手や審判はもちろんのこと、たくさんの人々が関わり、試合運営やチーム運営が成り立っている。

 名古屋グランパスでチーフマネージャーを務める三田実氏に、普段明かされることのない“裏方”さんの就職までの経緯や仕事内容について訊いた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小西優介/全2回の1回目)

   ◇   ◇   ◇

――三田さんは名古屋のクラブスタッフになって今年で5年目になるそうですが、就職されるまでの経緯を教えてください。

「小学校から高校までサッカーをしていたなかで、プロを目指すのは無理だと思いました。でも、サッカーしかしてこなかったので、やはりサッカーに携わりたいと思いから、新潟県のJAPANサッカーカレッジのマネージャー・トレーナー科に進学しました。2年間通い、授業の一環で外部講師による講演会でグランパスに関わりのある方と知り合いました。その方にグランパスでマネージャーとして働きたいという積極的に思いを伝えたら、タイミングよくインターンとして働くことになり、その後正式採用となりました。最初は全国どこでもサッカーチームのマネージャーをやりたいと思っていたのですが、愛知を離れてみて、グランパスへの就職の思いが強くなりました」

――チームマネージャーの主な仕事の内容はなんでしょうか?

「簡単に言うと“なんでも屋”です。最初の2年間は副務として練習の準備・片付けや試合への準備、主にボールやトレーニングウェアなどを管理していました。その後チームマネージャーになり、これまでの業務に加え、チームのスケジュール管理を行っています。一番時間がかかるのは旅行代理店との打ち合わせや、新幹線の席とホテルの部屋割りのリスト作成など遠征のスケジュール管理です。さらに、試合前に行う散歩のコースや食事のチェックなどもやっています」

――試合がない日の1日の流れを教えてください。

「6時半から遅くとも7時までに出社をして、10時からの練習に備えます。早い選手だと8時くらいから選手が来るので、その前に準備をします。その後、日によりますけど、8時から練習開始までは選手やコーチなどからの頼まれごとをこなして、10時からの練習のサポートをします。練習後軽く昼食を取り、選手全員が上がる14時くらいまでは頼まれごとなどをします。そこからミーティング、遠征準備、ホテル予約、新幹線予約などの事務作業に移り、監督・コーチとスケジュール確認などをして、スケジュールリスト作成後に、選手に連絡をします。諸々作業が終わり、だいたい19時から20時に帰宅します」

「試合はフルタイムでは見れず、家に帰ってから見る」

――試合日の1日の流れはどうでしょうか?

「昼に試合の場合は、前日夜からバスでホテル移動し、夕食を済ませた後に試合前に行う散歩の動線を確認します。朝になり、朝食事会場で食事メニューをチェックし、選手たちとコミュニケーションを取りながらメディカルスタッフと検温を行います。選手たちが朝食を取っている間に試合後に食べる補食を買いに行き、散歩の動線最終チェックを行い、散歩に出かけます。散歩の後に試合前最後のごはんを選手たちが取っている間に荷物をバスに積み、出発準備をしてホテルをあとにします。

 スタジアム到着後は選手のウォームアップを手伝い、試合開始後はロッカールームの片付けとハーフタイムに向け準備、後半は試合後のごはんを準備し、試合後は片付けをします。ほとんど試合は見れないので、家に帰ってからあとでDAZNを見てます(笑)」

――これだけ忙しいと休みなどはあるのでしょうか?

「今季になってから週に2日休みあったのが1回だけですね。3月は週に1試合だけだったのですが、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、週に2試合ある時はハードです。体力的には問題ないですが、頭が疲れます。週末に試合の場合、次の日がリカバリー日で、その次の日がオフなのですが、その場合月曜日か火曜日がオフで、一般企業はやっているので、休みの日でも連絡は来ますね。学生の頃から平日は学校、土日は部活で潰れていたので、休みが少ないのには慣れていますが、やっぱりプライベートの時間は好きです(笑)」

忙しいけど毎日が刺激的

――やりがいや一番印象に残っている出来事を教えてください。

「一番のやりがいは結果が出た時、試合に勝った時ですね。連戦中の疲れも吹き飛びますし、つらいことも全部忘れます。特に思い出に残っているのは昨年のルヴァンカップ優勝です。名古屋に就職してから優勝は初めてだったので、強く印象に残っています。定期的にというか、頻繁に、欲を言えば毎年ユニフォームに星を付けていきたい(優勝するとエンブレムの上に星が増える)ですし、僕たちスタッフはできる限りサポートしたいと思っています」

――学生のうちにやっておいたほうがいいことなど、サッカーチームに就職したい人に向けて何かあれば教えてください。

「自分のしたいことがあったらすぐに行動に移すことだと思います。僕は名古屋グランパスで働きたいと言い続け、今につながりました。思っていることは発言して、行動することが大事かなと思います。

 ほかにも就職して一番困ったのが一般教養です。例えばメールを社外の人へ送る際の定型文や、目上の人と食事を取る際、どこに座るかなどの教養部分は専門ではなかなか学ぶことがありませんでした。学生のうちに先輩とか上の人を立てる振る舞い方や礼儀などを学んでおくとよいと思います」

――三田さんの将来ビジョンを訊かせてください。

「自分は今年で25歳。業界内ではまだまだ若いほうですけど、加入してくる選手は自分よりも年下の人も結構いるので、今後は教わる立場から教える立場、若手に教育していく仕事も担っていくと思います。他チームで20年以上クラブスタッフをやっている人が、いろんな選手に頼られているのを見て、『グランパスに行けばアイツがいるよね』と思われる、安心させられるような人物・存在になりたいと考えています。1日でも長くグランパスで働きたいです」

[プロフィール]
三田実(みた・みのる)/1997年6月1日生まれ、愛知県出身。幼稚園児の頃からサッカーを始め、高校では地元愛知の強豪・東邦高校でキャプテンを務める。卒業後は新潟県にあるJAPANサッカーカレッジのマネージャー・トレーナー科に進学。20歳で名古屋グランパスのスタッフとして副務を担当し、3年目の2020年よりチームマネージャー(主務)として活躍している。(FOOTBALL ZONE編集部・小西優介 / Yusuke Konishi)