自殺予防には転校など厳しい状況から「一度逃げてみること」が有効 若者の意識調査からみる自殺対策 - BLOGOS編集部PR企画
※この記事は2019年04月11日にBLOGOSで公開されたものです
大津市立中2年の男子生徒(当時13)が2011年に自殺した事件。今年2月、大津地裁はいじめが自殺の主な原因と認め、男子生徒の元同級生2人に計3700万円の支払いを命じた。
しかし、今回のように生徒の自殺をいじめとして断定するケースは決して多くないという。その要因のひとつは国の統計データだ。警察庁の発表では、いじめによる自殺は1%以下。「いじめ自殺はほぼない」ことにされている。
一方、日本財団が2018年11~12月に若者(18~22歳)を対象に実施した自殺意識調査(日本財団第3回自殺意識調査)では、自殺未遂を図ったり、「本気で死にたい」と思った最大の原因がいじめであることが初めて明らかになったという。
調査のアドバイザリーボードリーダーを務め、公益財団法人中曽根康弘世界平和研究所の高橋義明主任研究員に話を伺った。
「いじめ自殺はない」ことになっている国の統計
いじめ原因の自殺に関するデータとして国が出しているのは、警察庁が発表する統計です。19歳以下の自殺の原因では学校問題が約半数を占めることがわかっていますが、さらに学校問題を具体的な理由にしていくと学業不振や親子関係の不和などが上位にあがり、いじめは1%以下。
つまり、「いじめ自殺した人は、ほぼゼロ」という認識です。亡くなられた方の声を聞くことはできないので、こうしたデータも相まって、学校側は「学校の成績が悪くなり悩んでいたんだろう」「彼氏・彼女との関係悪化が原因だろう」などと受け止め、いじめを原因として捉えることに関して否定的な見方をするのが現状です。
そのため、子どもが自殺した場合、亡くなった子の親御さんが「いじめが原因でうちの子どもは自殺した」と主張し、学校側とたびたび対立しています。学校に限らず、文部科学省も同様です。学校での自殺の実態について学校関係者に対して調査していますが、先ほどのように学校からいじめが原因として報告が上がってこないので「自殺といじめ関連性は弱い」というのが一般的な理解とされています。
文科省の自殺予防教育マニュアルでも、以下引用のようにいじめに焦点があたりすぎている、いじめは自殺の一部にしか過ぎない、というようなスタンスです。
"我が国では自殺が深刻な社会的問題であると認識されて,様々な予防の取り組みが始まっています。しかし,子どもの自殺となると,多くの場合,いじめがあったか,なかったかということだけに焦点が当てられがちです。そして,比較的短期間のうちにその関心は薄らいでしまいます。
もちろん,いじめに早い段階で気付いて,適切に対応することは重要です。しかし,自殺は様々な原因が複雑に関連しあって生じる複雑な問題です。いじめだけに焦点を当てていると,ごく一部の自殺を取り上げるだけになりかねません。”
子供に伝えたい自殺予防学校における自殺予防教育導入の手引(2014年 文部科学省)
ところが今回、若年層(18~22歳)を対象にした自殺意識調査では、4人に1人が、いじめが原因で「自殺したいと思ったことがある(自殺念慮)」「自殺未遂をしたことがある」と回答しました。
これは、もしかしたら自殺をしてしまっていたかもしれない、当事者たちの声なんです。これまで間接的に遺書を探したり遺品から証拠がないかを見つけようとしたり、遺族などからの証言を聞き取り、亡くなられた方の生前を辿ることでしかわかりませんでしたが、今回、生の声を聞けたこと、そしていじめが最も多かったことから従来言われていた家庭不和や進路問題ではなく、「いじめが自殺未遂などの最大の理由である」と彼ら自身が述べたことは、非常に大きな価値があると思っています。
今後、学校の先生たちには、児童や生徒間のちょっとしたやり取りの中にも、もしかしたらそれはいじめで、その先には自殺があるかもしれないということを改めて認識する必要があるのではないでしょうか。
自殺回避には「転校」が有効
今回の調査で「自殺未遂や自殺念慮を持った場合、誰に相談をしたか?」という質問を設けました。2016年に自殺対策基本法が改正され、相談窓口は増加傾向にありますが、若年層で相談先として心理専門職を挙げる人は一部にとどまっています。たとえばスクールカウンセラーなどは6パーセントに過ぎません。
その理由の多くは「専門家を信頼していない」というもので、その心理的なハードルを解消するのは非常に時間がかかるでしょう。海外ではカウンセラーなどを学生が利用することも日常的ですが、日本の場合、専門職を突破口にというのは難しいのではないかということが今回示唆されたと思います。彼らは専門職の代わりに、相談先として両親や友人、恋人を挙げます。つまり、大半は身近にいる、「一般人」なんですね。
それは、逆を言えばその一般人が受け止められないと自殺に繋がってしまう可能性が高いということを意味しています。いま、学校の担任の先生には、身近な人がそういった危険なサインに気づき対処する「ゲートキーパー」と呼ばれる研修はほとんど行われていません。多くの先生が「何かあればカウンセラーに任せればいいや」と思っている可能性が高いと思います。
専門のカウンセラーには相談に行けないけれど、サインを出している子を見逃してしまっている可能性は十分にあるので、専門職ではない担任の先生やPTAを含めた保護者、そして同級生にも「サインとはどういったものなのか」「悩みを打ち明けられたらどんな言葉をかけてあげたら心が落ち着くのか」という具体的な対処法を学んでもらうことが大切です。
また、今回の調査では、過去の経験として「転校」を経験した人は、していない人と比べ、自殺未遂・自殺念慮の両方について半分程度にリスクが軽減していることがわかりました。学校に行っている間は学校がその子どもにとっての世界の全てになります。年齢が低ければ低いほど、そのひとつの学校空間に取り込まれてしまいます。
今回は、そこで何か対処を考えるよりも、「一回逃げ出して」、学校を変えてみるということが複合的に自殺を減らすことにつながる可能性を示しています。そうした意味で「不登校」をポジティブな意味で捉えることは、一つの解決策になるかもしれません。
今回、不登校は自殺未遂においてとても強い影響があるという結果が出ましたが、それはその背景には「不登校になってしまった」という、学校に行かないのは良くないこと、という考えが日本には根強く残っているからだと思います。
逆に言うと「ちょっとぐらい休んでも別に平気だろう」と、不登校に対しての社会の意識がもっと肯定的なものとして捉えられ、いじめなど不登校の原因解決により目を向けられれば、好転する可能性がありますし、結果として、不登校の期間も短くなるのではないでしょうか。
他者との接触などが自殺リスクを下げる可能性
では、具体的にどのようなことをすれば自殺予防につながるのか?ということについての調査結果をお伝えしたいと思います。自殺をしたいと思う人の多くは「孤独感」を抱えていることがわかっています。そのため、「孤独への効果的な対処が自殺のリスクを軽減させる」という仮説のもと、以下6項目に分けて自殺未遂などへの影響を測りました。
①メール、電話、SNS、直接会う(他者との接触)
②楽しいことを考える、開き直る、買い物、何かに熱中(前向きな認知の変化や行動)
③寝る、食べる、TVを見る、音楽を聞く(身近な欲求解消行動)
④時間が経つのを待つ、空想、自分を見つめ直す(内省・忍耐)
⑤映画、コンサート、劇鑑賞、読書(単独での没頭活動)
その結果、③の寝たり食べたり、TVを見るなどの「身近な欲求解消行動」は、特に悪影響を及ぼすことがわかりました。逆に、①の誰かとメールをしたり直接会ったりする「他者との接触」は、かなり自殺念慮を減らす効果が見られています。
さらに、親しい人と直接会うのに加えて誰かとLINE、FacebookなどのSNSでやりとりをすると良い結果を示しているのは、現代の若年者の特徴かもしれません。
自殺をしたいと思う人の心の内は、基本的には、死にたいと思わせる問題のこと以外は一切考えられなくなっている状態です。「この問題が消えない限り自分は消えてなくなるしかない」と思っているような状態では、外に解放するような手段を取らない限り、そこから抜け出すことができません。
その外向きに思考を切り替えるためには、内部からスイッチを押すことはかなりハードルが高い。そのため、周囲の人がSNSでコミュニケーションしてみるとか、一緒に街を散歩するとか、ちょっとしたことでも外へ意識を向くように仕向けてあげるという声かけが自殺者を少しでも減らすことにつながっていくのではないでしょうか。