※この記事は2019年04月07日にBLOGOSで公開されたものです

次の元号が「令和」に決まった。

これまでは中国の古書を典拠としていたものが、今回は初めて日本の古書である万葉集を典拠としているそうだ。

2019年5月1日から元号としての「令和」の時代がスタートすることになる。

さて、僕は最初に「令和」というワードを見たときに「「国民が命令に従うことによって和となす」という意味かな?」と思った。なのでそのことをTwitterに書き込んだ。

すると、途端に一部の人達が「新元号をけなすとは何事だ~!」と喚き出したのである。あまりの気持ち悪さにツイートは削除した。

確かに令和という元号を批判的に扱いはしたが、あくまでも個人の感想である。

そこまで目くじら立てて叩くことではないはずなのに、叩いてきた人たちはどういう考え方だったのだろうか?

そもそも、「令和」という元号を知らない、2019年3月31日以前の自分に対して令和という文字列を説明しようとした場合にどのような説明になるか。「和」の方は「平和の和」や「昭和の和」などが考えられるが、「令」の方は9割くらいの確率で「命令の令」と説明するのではないだろうか?

これを「れいじょうのれい」と説明しようとすると「礼状」「令嬢」「霊場」など、いくつかのそれらしい単語が浮かぶことになる。しかし「めいれいのれい」であれば真っ先に浮かぶ単語は「命令」になる。

安倍晋三総理のお気に入りである読売新聞の記事では、江戸の幕末、元号に「令徳」という言葉が候補になったが、幕府側から「徳川に命令する」という意味が込められているとして反発があったと報じられている。(*1)

「由来は違う!」と主張するのは自由だが、日常的に日本語を用いる人たちが「令」という文字から「命令」を思い浮かべることは不自然でもなんでもないのである。

「令和」という元号から「命令」の意味を見出したのは、決して日本人だけではない。

イギリスのBBCは「order and harmony」として伝え(*2)、アメリカのニューヨーク・タイムズは「order and peace」(*3)など、日本政府が意図しない「命令」の意味として伝えた。

この事態に対して外務省は令和を「Beautiful Harmony」という趣旨であると伝えたという。(*2)

しかし、日本語を日常的に使用する人間からすれば「令」に「Beautiful」の意味をあてるのは、いささか無理があるとしか思えない。「Beautiful」なら同じ「れい」でも「麗」であろう。

毎日新聞の記事(*2)に、海外メディアが令和をどのような意味で報じたかがまとめられているが、しっかりと文字の意味を調べて報じている。その結果として「令」の一番妥当な訳し方はやはり「order」と結論づけたのだろう。

日本政府が意図した「令和」に「命令」という意味は含まれないのかもしれない。

しかし、それを見た一般の人たちが命令の意味を見出しても、別に日本語解釈としては一切おかしくない。

そもそも、Twitterで批判的に元号を扱っただけで、叩いてきた人がいるということ自体、叩いてきた人たちが「令和」という言葉に「国民が命令に従うことによって和となす」という意味を見出したからではないだろうか。

「国が令和という元号に決めたのだから粛々と従え。批判することは和を乱すことである!」そんな「国を愛する気持ち」で、彼らは私という一個人のツイートを叩きに来た。いわば令和の時代に求められる「令和しぐさ」を実践しているのではないだろうか。

彼らにとっては、国の主張は最もいい意味の「最善の相」で理解しなければならないのである。お国の決めたことはすべて立派なことであり、決定に対して少しでも疑問を持つことは決して許されない。

お国が「令和=Beautiful Harmony」と決めたら、国民はそう理解しなければならない。決して「order=命令」などと理解してはならない。

彼らが私を叩いたのは、その溢れる愛国心からである。お国の立派な姿勢をみんなで支持して和をなすことが、日本人が当然抱くべき愛国心の証なのである。

お国に命令されるまでもなく、元号を批判的に扱った人間を率先して叩きに行くこと、そんな「令和しぐさ」を実践することは、まさに令和の時代に政府が必要としている「美しい」国民の姿なのである。

そんな愛国心溢れる美しい国民によって「Beautiful Harmony」を達成しようとするのが「令和」という新しい時代なのである。

実にご立派なことである。はい、ご立派ご立派。

*1:初の「令」、幕末には「徳川に命令」で不使用に(読売新聞)https://www.yomiuri.co.jp/national/20190401-OYT1T50205/
*2:令和は「Beautiful Harmony」外務省が英語の趣旨説明(毎日新聞)https://mainichi.jp/articles/20190403/k00/00m/010/247000c
*3:【令和】安倍官邸は逆ギレ「令和=命令と平和」英訳まねいた不手際(日刊ゲンダイ)https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/251065