プリクラで平成をプレイバック 加工技術にポーズ…10年前からどう変わったか - BLOGOS編集部
※この記事は2019年04月02日にBLOGOSで公開されたものです
平成があと1カ月で終わりを迎えようとしている今日この頃。平成に誕生した文化で、多くの人が学生時代に楽しんだエンタメは「プリント倶楽部」、通称プリクラではないだろうか。気軽に写真が撮れる手軽さと、女性が求める「理想の姿」に変身できるという点がプリクラ(プリ)の醍醐味だ。
女性が「あこがれる顔」は時代と共に変化し、それに合わせ、プリもアップデートされてきた。平成の女性たちが求めた理想の姿はどう移ろいできたのか。業界シェアNo.1のプリ製造会社である「フリュー株式会社」の白石夏海さん、門脇彩さんに話を聞いた。【清水かれん】
どの時代の女性にとっても悩みの種は「目」
門脇:プリがこの世にはじめて登場したのは1995年。色黒・細眉が流行したアムラーブームの真っ只中でした。落書きや補正機能はまだなく、できることといえばフレーム選択くらいだったんです。
その4年後の1999年、浜崎あゆみさんブームが起こり、女性たちは「美白」を追い求めていきます。今この頃の加工を見ると、白すぎて顔のパーツがほとんど飛んでしまっているのですが、当時はこれが”盛れている”と定義されていたんです。
少し時代が進み2005年には、雑誌「小悪魔ageha」が人気を集め、カラーコンタクトや付けまつげが必須のギャルメイクが流行しました。益若つばささんがカリスマとして絶大なる支持を得ていて、”目ヂカラ”を強調した加工が好まれました。
――こだわりで多くあがるのは、やはり「目」でしょうか
門脇:目に対してのこだわりはどの時代も変わらず根強いと感じています。プリ機に搭載されている目を大きくする加工技術は、2006年頃のデカ目ブーム前からありましたが、当初は縦幅を大きくするという加工のみで、加工量も少ないものでした。が、2007年に登場した「美人-プレミアム-」からは横幅も大きくするようになったんです。その後、各メーカー「デカ目」を押した機種をどんどん発売していき…2010年頃には、「プリだと目が大きすぎて不自然」といった声もあがるようになりました。
一方、2011年頃になると、女性たちはAKB48など、アイドルのようなナチュラルな雰囲気を求めはじめます。その結果、「ナチュラルだけど盛れる」ということが重要視されるようになりました。この年に登場した「LADY BY TOKYO」という機種は、バチっと目が大きいことを重視するのではなく、全体的な顔の立体感や、まつげの美しさにフォーカスが当てられています。この機種は、入れ替わりの激しいプリ機市場の中で約1年間、人気No.1の座をキープし続けて業界内でもとても話題になったんです。
白石:この画像は実際に私が同じ日にさまざまな機種で撮ったものです。2015年のプリはすっきりとした美白肌なのに対し、2010年頃はややギャルっぽい印象の黄色味のある肌写りになっていたり、目の大きさが不自然に大きくなっていたりと、並べることで如実に変化がわかりますよね。
――「この頃はあの人がカリスマだったんだろうな」と想像できます
門脇:昔は安室奈美恵さんや浜崎あゆみさんなど、時代を表す”カリスマ的存在”がいて、多くの人が彼女たちのような顔になりたいと思っていました。けれど、2013年頃からそういった”カリスマ的存在”がいなくなり、カジュアルが好きな子もいればギャル系が好きな子も、アイドル系が好きな子もいる、といったように好みが分散し、なりたい顔もそれぞれで異なってきたんです。一概に目の形といっても、「猫目が好き」「まる目が好き」と、なりたい姿が異なるため、個々で目の大きさなどを変更できるプリクラの機種が望まれるようになりました。
――好きな芸能人ランキング、つけづらそうですね
門脇:つけづらいです!昔は雑誌のモデルさんだけでほとんど完結していたのが、今ではインスタグラマーや、ユーチューバーの方の名前があがることも多く、「誰だろう…」と、わからないこともしばしばあります。雑誌を参考にしている子もいますが、手軽にいつでもどこでも自分の求める情報を手にいれることができる、SNSを参考にする子は多いですね。
白石:彼女たちがお互いを承認し合う場所も変わってきているなと感じています。昔は、自分の周りにいるリアルに接する人たちが、自分の表現したことに対して反応してくれていました。どうしてもリアルの生活とつながっているので、お互いに反応を伺い、「あまりとっぴなことはできない」と自己表現にセーブをかけていた子が多かったと思います。けれど、SNSが流行してからは“いろんな人がいる”と気づくことができ、”それでいいんだ”と思えるようになったんだろうなと今の女子高生たちと接していて感じますね。
別人の私ではなく「盛れた自分」
白石:こちらは近年発売されたプリ機の比較画像です。プリの写りは他者から見ると「別人」という声もよくあがりますが、女子高生にとってプリの写りに対しての認識は、「盛れているけれど、あくまで自分」です。極端な言い方をするとプリに写る自分は「非常に調子がいい時の私」なんです。
門脇:また、今の女子高生は自分が望む姿になるための探究心が強いです。昔は、友達同士でも自分の欠点は隠してしまいがちで容姿に関して主張することはあまりなかったと思います。
けれど、今の子は「私は右側が盛れるから」「少し上から撮った方がいい」と、きちんと自分の顔に対しての見せ方をわかっていますし、こだわりがありますね。足の細さも以前は一律で細く写るようになっていましたが、今はあまり補正がかからない仕様にしています。加工で補足するのではなく、ありのままの自分だけど、アングルで「細く見せる・かわいく見せる」ことが重要視されているんです。
スマホの自撮り文化でプリクラは廃れたのか
――スマホカメラが発達し、手軽にいつでも自撮りできる今の時代で、プリはどのように楽しまれているのでしょうか?
門脇:自撮りアプリの流行で、プリ市場に影響があるのではないかという質問もよくいただきますが、女子高生の中で「写真は写真」「プリはプリ」と差別化をしてくれているようです。弊社のプリ機で印刷されるサイズは今、基本的に名刺と同じ大きさになっています。初期のプリ帳という文化や、プリを交換するという文化は年々廃れてしまっていますが、プリを写真に撮ってインスタにあげる…など、結構自由に遊んでいただいています。
白石:もちろんデータで写真などを残すことも大切で自己表現には便利なのですが、やはり、みんなでわーきゃー言いながら写真を撮り、その場ですぐにシールがコトンと落ちてくる、この一連の「体験」がプリならではの強みだと思っています。プリはただ写真を撮る場所ではなく、遊園地のアトラクションのように捉えてもらいたいですね。
筆者、10年ぶりにプリを撮ってみた
元祖プリ世代である20代後半の筆者が、2019年登場の最新機種「#アオハル」でプリを撮らせていただいた。中央にあるカメラは90度回転し、自由に高さを調節することが可能で、ハイアングル・ローアングルどの位置からでも撮影できる。四方にある照明もプロさながらのクオリティで、「私が学生時代に撮っていた時と違う…」と驚いた。プリ機の中も広くなり、昔と異なり大人数での撮影も可能になっていた。
また、昔は「次はこのポーズを撮ってみよう!」という機械の声に強制され、撮影している感覚があったが、現在の機種では「こんなポーズもあるよ」といった具合に、あくまで撮られる側に主導権があるように感じた。「女子高生は行動や考え方を制限されるよりもある程度、自由にさせてもらえた方が良さを発揮する」と白石さんは話しており、それが要因かもしれない。
はしゃぎながら撮影し、プリクラの楽しさを思い出した筆者だったが、印刷された自分の姿を見て「誰だ」と感じてしまった。女子高生たちのように、“非常に調子の良い自分”とは思えなかったが、とても自分がかわいくアップデートされているようで気分があがったのも確かだ。
平凡な毎日に、ちょっとしたエンタメを加えてくれるプリ。平成が終わりを迎える今だからこそ、パシャっと一枚、記念にプリを撮ってみてはいかがだろうか。