違法薬物も用法用量を守れば中毒にならないだって? - 赤木智弘

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※この記事は2019年03月31日にBLOGOSで公開されたものです

かつて「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!」と書いて批判された、元局アナの長谷川豊氏が、今度は自らがYouTubeにアップしている公式動画の中で「覚醒剤の場合、用法用量を守ったら中毒はほぼ出ません」と発言して批判されている。(*1)

該当発言のある動画は長谷川氏が自ら非公開にしていることから現在は視聴できず、その発言内容はTABLOの記事(*1)の描き下ろし部分に頼ることになる。

なおこのTABLOは、今回の件を取り上げ、長谷川氏とツイッター上で論争(*2)をした久田将義氏が編集長を務めるメディアであるということは、公平性のために記しておく。

長谷川氏はピエール瀧氏のニュースに触れて、そこから「覚醒剤の場合、用法用量を守ったら中毒はほぼ出ません」と、発言をしている。

確かに覚醒剤に「用法用量がないか」と問われれば「ある」とは言える。ただしそれは医療用覚醒剤の場合である。

日本における覚醒剤の代名詞でもある「ヒロポン」は医療用医薬品として認可されている。そして医療用医薬品としての用法用量が記載されている。(*3)

しかし、これはあくまでも治療のための用法用量だ。個人が私的に使うための用法用量ではない。少なくともピエール瀧氏の事件からの文脈で「用法用量を守れば中毒は出ない」という発言は適切であるとは言えない。

また、そもそもの問題として、長谷川氏の発言にある「中毒」とは何なのだろうか?

依存することを「中毒」と呼ぶことがあるから依存性のことだと考えてもこれも不適切なのである。

なぜなら違法行為であるにも関わらず、それを続けている事自体が依存性を明確に示す症状だからである。報道によればピエール瀧氏は20代の頃から薬物を使用していたと供述しているという。

若くて不安定なときに薬物に一時的に走ったならまだしも、50を超えて社会的にも十分な評価を得ていても違法薬物をやめられなかったのだからそれは明確に「依存症」である。

そもそも、コカインも覚醒剤も依存性の強い薬物として知られており、中毒に関する発言だとしても適切であるとは言えない。

長谷川氏の発言から離れて、「そんなに長期間薬物を使っても、周囲にバレないものなの?」という疑問であれば「バレないことも多い」とは言える。

「薬物使用者」と言ったときに、頭の中では目があらぬ方向を向き、口からよだれを垂らし、目には深いクマができ、四六時中薬物を求めている。そんなイメージはないだろうか?

そうした薬物使用者のイメージは、公共広告などで薬物の恐ろしさを宣伝するときに使われることが多い。

しかし、こうした薬物の怖さを表現する手法は、薬物を恐ろしいものであると認識させるその一方で、薬物使用に対するステレオタイプを生み出してしまうという問題がある。

ピエール瀧氏がそうであったように、現実の薬物依存者は、四六時中薬物を求める言動をしたり、どう見ても素行不良な姿に変化したり、よだれを垂らしながら意味不明な言葉をつぶやいて外を徘徊するようなことにはならない。ほとんどの薬物使用者は、あたかも一般的な普通の生活者のような外見をしており、また普通に働いていたりする。

そのような薬物使用者が周囲にいた場合、ほとんどの人達はステレオタイプに当てはまらないからと判断して、その人が薬物使用者であることには気づかない。

また当の本人も、自分がステレオタイプのような状態にないからと「自分はうまく薬物と付き合えている」と判断してしまうことがある。薬物使用という違法行為をやめられていない時点でハッキリと依存状態を示しているのに、そのことに気づかないのだ。

そうしてみんなが気づかないままに対応が大幅に遅れ、気づいたときには薬代のために多額の借金を負い、薬物依存も強く残り、社会生活になかなか復帰できない状況に陥ってしまっている。そんなことが決して珍しくないのである。

長谷川氏はこうした「薬物使用をしていても、さも一般的な普通の生活者に見える」と言いたくて「用法用量を守れば中毒は出ない」という言い方をしたのかも知れない。

しかし、そうであるならば、長谷川氏は、元局アナとは信じられないレベルで、言葉選びが下手である。

「薬の用法用量を守る」とは「正しい薬の使用をする」という意味で使われる言葉であり、使用そのものが正しくない違法薬物に用いれば「違法薬物の正しい使用」を推奨していると見られても仕方あるまい。

長谷川氏は他人を批判に対して逆ギレする前に、まずは自分の発言する内容を繰り返し検討、推敲するという、アナウンスの基礎を大切にしてはいかがだろうか。

(3月31日追記)
長谷川豊氏よりツイッター上で記事に対する言及があり「「覚醒剤は用法用量を守れば中毒にならない」は主張ではないので書き換えてほしい」という趣旨の打診がありました。(*4)
検討した結果、置き換えたとしてもこの記事の本質に影響がないことを確認した上で、要請を受け入れ「主張」の部分を「発言」に置き換えました。

*1:長谷川豊さんがYouTubeでまたもぶっ飛び発言(TABLO)「用法用量を守れば覚醒剤は中毒にならない」 http://tablo.jp/discover/news004694.html
*2:覚醒剤の話を指摘したはずが頓珍漢の展開に。久田氏VS長谷川氏(Togetter)https://togetter.com/li/1332665
*3:医療用医薬品 : ヒロポン(KEGG MEDICUS)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00006946
*4:こんにちは。そうですね。私も言い間違えがありますし、概ね反論はありません。ただ、当該放送内で「覚醒剤は用法用量を守れば中毒にならない」が「主張」ではないですよね?それは流石に同意されるかと。そこだけ「とも発言している」くらいに書き換えませんか?(長谷川豊 Twitter)https://twitter.com/y___hasegawa/status/1112218952241799169