アイデアを豊富に持っている人ほど、陥ってしまう罠とは? 〜レビットに学ぶ結果の出し方/INSIGHT NOW! 編集部
「斬新な企画案を考えるのが得意」「アイデアならたくさん持っている、なぜ聞いてくれないのか」
こう考えるビジネス・パーソンは多い。
さらに、他人が行った戦略や施策について、「あの戦略じゃうまくいくはずがない。こうすればうまくいくのに」「そもそも企画がよくない。自分ならこうするのに」という、実行された戦略や施策に対して、自分のアイデアのほうが優れていると批判が得意な人もいる。
もしかしたらあなたもそうかもしれない。アイデアに自信を持ち、ビジネス・パーソンとして、日々アイデアを磨き、自分の得意技(自らのソリューション)のひとつとして自信を持っていないだろうか。
アイデアを豊富に持っていること自体は、悪いことでもなく、むしろ、イノベーションを是とする企業にとっては、重宝される人材像でもある。
しかし、それがかえってマイナスとなり、組織にとって邪魔な存在になってしまう危険性があることは、あまり言及されることはない。
アイデアマンは組織にとって邪魔?
ひと言で「アイデア」と言ってもさまざまにある。
奇抜で画期的な、主にマーケティングや商品開発で重宝されるような、いわゆる斬新な企画アイデアというものもあれば、「なぜ、こういう導きができないのか?」「そこでこうすればいいだろう」といった、プロセス上、コミュニケーション上のアイデアを持ち出す人もいる。当たり前だが、人は自分の思っているようには動いてくれない。動くと思っていること自体間違っている。
また、切り口やコンセプトワーク的なアイデアもある。具体的なアイデアや施策の上からかぶせるようなもので、ときには、「どうしてアイデアが出ないのか?」という、意味が分からない指示をすることもある。あたかも、「すべてわかっている」という視点からくるので、かなりタチは悪い。
こうした様々なアイデアは、オフィス内やミーティング内であふれかえり、マウント合戦が繰り広げられる。
このアイデア合戦が痛いのは、そのアイデアそのものが実行の背景がないものも多く、実現性、効果性に乏しいものが大半だということだろう。さらに痛いのは、アイデアを発した人は自分で実行する気がないことだ。自分はアイデア担当で、実行部隊は別の人だと思っている。(あるいは自分なら問題なくできるので、自分は次のプロジェクトに進むと考える)
実行する気がないから、実際に実行し、現場の苦労を背負っている人にとってはたまったものではない。
マーケティングの大家、セオドア・レビットは、こう述べている。
「一般に、ビジネスの世界は新しいアイデアで満ちあふれている。足りないのはむしろ実行力である」
(T.レビット マーケティング論 セオドア・レビット著 有賀裕子翻訳 ダイヤモンド社 以下同じ)
現実のビジネスにおいては、実行こそが難しい。
いま存在するプロセスは、いまの結果を出すべくつくられているものだ。つまり、現在の結果には理由があるということだ。
アイデアマンは、その結果を打破するためには、違うアイデアが必要だと力説するのだが、残念ながら現在のシステムのなかで、そのアイデアを実行できた人はいない。それでも実行しようとすれば、とてつもないエネルギーが必要となる。
レビットは続ける。
「新しい着想を得ても実行に移せない社員は、およそ役に立つとはいえない。それどころか、見方によっては無責任ですらある。一般に、発想豊かな人ほど、実現への責任を取ろうとしないようだ」
アイデアだけの段階では、誰でも自由な意見を言っていいだろう。現在、ネットにはこうしたアイデアや事例はあふれている。表面的なだけで、自分たちのビジネスで実施した場合どうなるかなど考えてもいないアイデアなど経営者が欲しがっているとは思えない。経営者は本当に必死だ。
「創造性を信奉する人々は、経営者がいかに緊迫した状況に置かれているかを肝に銘じるべきである」
これもレビットの言葉だ。
アイデアは実行されて初めて有意義なものになる。アイデアマンを自称する人は、ここを肝に銘じてビジネス戦略を練っていきたいものだ。
顧客の欲しいものは?
レビットは、アイデアは不要だと言っているわけではない。レビットと言えば、次の名言がある。アイデアを出すのであれば、それはあくまで顧客視点であるということだ。この原則に、B2CもB2Bもない。
「四分の一インチのドリルを購入した人々が必要としているのは、直径四分の一インチの穴である。化粧品を買った人々が本当に求めているのは、希望である。(中略)人々は製品、サービス、工場、システムなどを買うのではなく、問題を解決できる、予防できるという期待ないし保証を購入する」
顧客結果として求めていることを自社の商品やサービスを通して提供すること。ビジネスの本質はこの1点に集約されると言ってもいい。当然、モノだけではなく、「コト」「体験」も同様だ。
アイデアマンとしては、この点を常に念頭におき、自ら結果に対して責任を負う心づもりで取り組めば、経営者も信頼感を持って支持してくれるはずだ。