ヒョンデの日本再導入で発表された2台のうちの1台「IONIQ 5」(写真:ヒョンデ

韓国の現代自動車の乗用車が、「ヒュンダイ」から「ヒョンデ」に呼び名を改め、日本に再上陸した。乗用車という言葉を入れたのは、観光バス「ユニバース」については、これまでも継続して輸入を行っていたからである。

読み方の変更は日本に限った話ではなく、これまで国や地域ごとに異なっていたものを、2020年に統一した結果であるという。今回は昔話を含め、この新しい呼び名で書いていくことにする。


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ヒョンデが自動車づくりに乗り出したのは1960年代。当初はヨーロッパフォード「コーティナ」のノックダウン生産を行っていたが、まもなく自社開発に乗り出し、三菱自動車のメカニズムにジョルジェット・ジウジアーロ率いるイタルデザインが描いたボディを組み合わせた「ポニー」を1975年に送り出した。

その後、日本車に先駆けて3ナンバー幅のボディをまとった上級セダンの「ソナタ」、ソナタをベースとしたSUV「サンタフェ」などが登場。この間、1998年には韓国経済危機の影響を受けて経営破綻した起亜自動車(キア)を傘下に収めた。

日本撤退もGMに次ぐ第5位グループへ

最初の日本参入は2001年で、セダンやSUVのほか、コンパクトカー「TB」やスポーティな「クーペ」なども投入された。しかし、販売は低迷。2009年の東京モーターショーへの出展を直前で中止すると、まもなく乗用車部門の日本市場からの撤退が発表された。


「IONIQ 5」とともに日本導入される「NEXO」(写真:ヒョンデ

ゆえに多くの日本人は、これまでヒョンデの実車を見ることがなく過ごしてきたと思われる。しかし、最近まで年に数回のペースで海外に行っていた筆者は、アメリカや中国だけでなくヨーロッパでも、ヒョンデの姿は目にしてきた。

それもそのはず、2020年の世界販売台数ランキングを見ると、キアを含めたヒョンデグループはトヨタ自動車、フォルクスワーゲン、ルノー・日産・三菱アライアンス、ゼネラルモーターズ(GM)に続く第5位に入っているのだ。日本人の知らないところで躍進を続けていたのである。

なぜヒョンデグループは伸びたのか。理由としてまず挙げられるのが、デザインだろう。

グループ結成以降、ヨーロッパブランドのデザイナーを相次いで引き抜き、重要ポストに据えた成果が、文字どおり形になっている。

たとえばキアは、グループ入り直後、アウディ初代「TT」のデザイナーだったペーター・シュライヤー氏を獲得した。「タイガーノーズ(虎の鼻)」と呼ばれるグリルを確立した同氏は、キアのCEOを経てグループのデザインを統括するポジションに就いた。


タイガーノーズを採用したkia「スティンガー」(写真:起亜自動車)

一方のヒョンデは、ランボルギーニ「ガヤルド」「ムルシエラゴ」などを担当したルク・ドンカーヴォルケ氏を引き抜き、ヒョンデおよびプレミアムブランドのジェネシスを担当させた。ドンカーヴォルケ氏もその後、グループ全体のデザインを見る役職になっている。

これ以外にも、グループでは多くのデザイナーをヨーロッパから招聘した。それが日本撤退後に花開き、販売増加に結びついたと思っている。

モダンでクールな「IONIQ 5」

ヒョンデは今回の日本市場復帰に際し、現代自動車ジャパンからヒョンデ モビリティ ジャパンに社名を変更し、東京原宿に「ヒョンデハウス原宿」と名付けた期間限定のショールームを、5月28日までの期間限定で開設した。

そこには今回、輸入が始まった2車種、電気自動車(BEV)の「IONIQ 5(アイオニックファイブ)」と燃料電池自動車(FCEV)の「NEXO(ネッソ)」が展示されている。筆者もこのショールームを訪ね、実車を観察してきた。


期間限定オープンのブランドストア「ヒョンデハウス原宿」(写真:ヒョンデ モビリティ ジャパン)

2台を見て、かなりデザインの方向性が違うと感じた人もいるだろう。それもそのはず、IONIQはフォルクスワーゲンの「ID」やメルセデス・ベンツの「EQ」と同じ、EV専用のサブブランドなのである。

IONIQという車種は、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、BEVの3種類のパワートレインを選べるモデルとして、まず登場した。ヒョンデの電動化戦略を象徴する車種だったことから、サブブランドに発展したようだ。

IONIQ 5のボディサイズは全長4635mm×全幅1890mm×全高1645mmと、高さを除き日産自動車の「アリア」よりやや大柄だが、バランスのとれた2ボックススタイルのためボリュームは感じない。

オフィシャルサイトによれば「ポニーのDNAを継承した」とのことだが、フォルクスワーゲン「ゴルフ」にも似ている。初代ポニーと初代ゴルフは、ともにジウジアーロが同じ時期にデザインに関わった車であるため、似ていると感じるのだろう。

近年のBEV専用車はテスラの影響を受けて、シームレスなデザインが多い。アリアもそうだ。しかし、IONIQ 5は、シームレスでありながら大胆な斜めのキャラクターラインを入れることで、モダンでクールな雰囲気を表現できていた。


シャープなラインによりモダンでクールな印象の「IONIQ 5」(写真:ヒョンデ

ヘッドランプやリアコンビランプは「パラメトリックピクセル」と呼ばれる、細かいドットを規則正しく並べたデザインで、デジタル時代のモビリティというメッセージが伝わってくる。

それに比べるとインテリアは、ステアリングやシートの形状は普遍的で、運転席の前から中央まで伸びる横長のディスプレイも他車に採用例があるため、新鮮味は薄い。しかし、ディテールまで手を抜かず、クリーンに仕立てたところは共通する。

全長4670mm×全幅1860mm×全高1640mmというボディサイズを持つNEXOは、かつて初代が「JM」の名前で日本に輸入されたこともある、同じクラスのSUV「ツーソン」に似ており、IONIQ 5に比べると一般的な造形だ。


「NEXO」は「IONIQ 5」より一般的なデザインを採用する(写真:ヒョンデ

ヒョンデのFCEVはまず、ツーソンよりひとまわり大型のサンタフェでテストカーが生まれ、続いて初代ツーソンの実験車両が作られると、2代目ツーソンで量産にこぎつけた。そして3代目ではFCEVが独立しNEXOとなった。

小さな滝が連なったような「カスケーディンググリル」と薄いヘッドランプからなる顔つきは、サンタフェやツーソンなどに似ている。価格が776万8300円と、IONIQ 5の479万〜589万円より高いこともあり、インテリアもオーセンティックだ。

ブランドメッセージは伝わるか?

原宿のショールームには、車両本体だけではなくIONIQ 5に設定された6色のボディカラーの由来、インテリアに使われた天然素材などの紹介もあった。どれも今の空気感を的確に反映していて、ナチュラルでサステイナブルなブランドという感じを受ける。

2車種に絞った展開は、一度失敗した日本市場への復帰ということで慎重になっているのかもしれないが、電動車に限定することでブランドメッセージを明確にする狙いもあると感じた。

とりわけIONIQ 5のデザインは独自の魅力にあふれていて、日本の道での信頼性が確立できれば、日欧米のブランドにとって強敵になりそうだ。この国のユーザーが復活した韓国車をどう評価するか、注目していきたい。

(森口 将之 : モビリティジャーナリスト)