ふだん、お子さんの話をどんなふうに聴いているでしょうか? (写真:siro46/PIXTA)

1979年、スウェーデンは世界で初めて「子どもへの体罰を禁止する法律」を作りました。実は、その少し前の1960年代には、未就学児の10人中9人が親からたたかれ、およそ3人に1人の子は、日常的にたたかれていたことが調査で明らかになっています。それが2010年代には、たたかれる子どもは10人に1人にまで減りました。

岸田雪子氏の新著『スウェーデンに学ぶ「幸せな子育て」 子どもの考える力を伸ばす聴き方・伝え方』では、世界に先駆け子どもを「ひとりの人」として認めたスウェーデンの子育ての考え方や、親と子のコミュニケーションに役立つ「声かけ」の具体例が多数紹介されています。

本稿では、同書より一部を抜粋しお届けします。

聴いているつもりで、しゃべっている?

ふだん、お子さんの話をどんなふうに聴いているでしょうか。

幼稚園や保育園の帰り道に「今日、どうだった?」と聴くとき。台所に立ちながら、あるいは湯船につかりながら……子どもの話に耳を傾けるとき。心にとどめておいていただきたいことがあります。

それは、「しっかりキャッチ」の大切さです。

コミュニケーションは、よくキャッチボールにたとえられますが、お子さんとの会話では、ついキャッチをせずに「バットで打ち返してしまっている」なんてことはないでしょうか。

親御さんから見れば、子どもの話はいともたやすく「こうすればいい」とか「それは、こういうこと」と解決法がわかるからこそ、ついバットを振りたくもなるものです。忙しいときに、とりとめもない話にずっとつき合うわけにいかない、という事情もあるでしょう。

「キャッチ」は四六時中でなくていいのです。毎日、少しでも「キャッチ」を続けることで、実は大きな効用があります。

「キャッチ」しているとき、私たちは「受け取ることに集中」します。

野球のキャッチャーが、ミットを構え、全力でボールを受け取るのと同じです。親が「受け取ることに集中」すれば、話す子どもは「あなたをまるごと認めていますよ」という強いメッセージを受け取り、自分を肯定する心が育つのです。

0歳から2歳ごろの、言葉を操るのが難しい年齢の子どもたちも、いろんなメッセージを発していますね。泣き声や、表情1つひとつ。または拾ったどんぐりを大人の手に乗せてくれたり。そうしたメッセージを「しっかりキャッチ」することで、「愛着」が育ち、自己肯定感などの「非認知能力」の土台となるのです。言葉を身につけた子どもたちも、同じように「しっかりキャッチ」してもらうことで、自分を信じ、自分で考える力を成長させていくのです。

アメリカの心理学者でカウンセリングの大家であるカール・ロジャーズが提唱した「聴き方」は、親子の会話にも大いに役立つものがあります。

そのひとつが、「無条件の肯定的関心」です。親子で言えば、子どもの言葉を、条件なしに聴く。つまり、善悪の評価や、好き嫌いの評価をしない。子どもを否定しないように注意して聴くということです。評価することなく、子どもが「なぜそのように考えるようになったのか」、その背景に関心を持って聴けば、子どもは安心して話ができるというわけです。

さらにロジャーズは、人は「受け入れられていることに気づくと、洞察を始める」としています。子どもが「自分で考える力」を育てるためにも、「条件なしでキャッチする聴き方」で「受け入れる」ことが大切だとも言えるのだと思います。

逆に言えば、「よかれと思って」先回りをしたり、結論を決めつけたりすると、子どもが自分で考え、自分で解決する力を伸ばすチャンスを奪うことにもなりかねません。

子どもの言葉を、条件なしに、関心を持って、受け取ることに集中する。いざ実践してみると、ふだんは子どもの話を聴いているつもりでも、意外と親の側がしゃべっていたのかもしれないと、気づかされるかもしれません。

それでは「無条件キャッチ」のポイントを、続いて見てみましょう。

「無条件キャッチ」5つのポイント

子どもの話を「条件なしでキャッチする聴き方」には、5つのポイントがあります。

Point1 子どもの気持ちをありのままに受け取る

うれしいときだけでなく、子どもが怒ったり、泣いたり、不機嫌な様子でいるときも、子どもの感情を否定しません。マイナスの感情も受け取ることを意識します。

親の考えとは違っている場合でも、まず、耳を傾けます。

たとえば、

●「そっか」「そうなんだね」と受け止める言葉を使う

●「悔しかったんだね」「つらかったね」「うれしかったのね」などと子どもの気持ちを言語化する

●「イヤって言われたんだ」などと子どもの言葉をオウム返しにする

Point2 「判断」をせず、「手助け」をする

親が判断したり、親自身の考えを伝えたりすると、子どもは自分で考えることを途中でやめてしまうことがあります。

親からの「答え」を待つ、受動的な態度になったり、親からの批判を恐れて、話すことができなくなってしまうこともあります。

子どもの主体性を守りながら、手助けになる言葉がけを意識します。

たとえば、

●「本当は〇〇ちゃんと遊びたいのかな」と子どもの意志を明確にする

●「がんばったのにうまくいかなかったんだね」などと表現を言い換える

Point3 「待つ」ことも肯定のメッセージ

子どもが言葉を見つけられずに沈黙したり、言いよどむこともありますね。

そんなときは、親が「待つ」ことも大切なコミュニケーションです。

急かさずに、子どものペースを守れば、子どもは落ち着いて自分で考えることができます。「待つ」行為そのものが、「あなたを受け入れていますよ」という肯定のメッセージにもなっているのです。

たとえば、子どもが黙り込んだとき。あるいは、言葉を探したり、考えている時には、「ただ一緒にいる」ことで、「大丈夫だよ」という親の気持ちが伝わります。

無意識に使っているかもしれない「否定語」がないか

Point4 「否定語」とサヨナラする


「聴く」ときにも、大人は「否定語」=否定的な言葉を使ってしまいがちです。

たとえば、「泣いたらダメ」といった言葉や、「そんなに落ち込まなくていいよ」といった一見、寄り添う言葉も、子どもの感情の否定につながってしまいます。「たいしたことじゃない」といった、事態を軽く扱う「否定語」もありますね。

無意識に使っているかもしれない「否定語」がないか、自分のクセを知って、「使わないようにしよう」と決めておくことが役立ちます。

Point5 子どもの力を信じる

子どもの問題の主役は子どもです。

親の役割は、子どもが「自分で解決できるという自信」を育てることです。

「子どもはどこまで自分で解決できそうか」をよく見極めたうえで、「子どもの成長と自立」を目指すことを意識してサポートしましょう。

ひとりの人として信用され、支えられた子どもは、自分で考え、問題を乗り越える力を身につけていきます。

それには、日々の大人側の「聴き方」が影響しています。