欧米では再びコロナ感染者が増えているが、ロックダウンなどには踏み込んでいない。経済回復とのバランスをとるためだ。経営コンサルタントの小宮一慶さんは「日本にも第6波はくるでしょう。その際、ネックとなるのは日本人の几帳面さ。自粛に律儀すぎるため、経済の回復が遅れてしまうおそれがある」と警鐘を鳴らす――。
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■欧米ではすでに2ケタ、3ケタ違う感染者数

このところ、日本国内では新型コロナウイルスの感染者数が急激に減少し、毎日数百人程度に抑えられています。その一方、米国や欧州各国では感染者数が多く、人口が日本の約3倍の米国では、毎日10万人程度、多い日は20万人近い日もあります。日本より人口の少ない、英国、ドイツ、フランスでも5万人前後の感染者数があります。とくにドイツでは感染者数が急増しています。

図表1は、12月9日付の日経新聞朝刊に載った各国の1日の感染者数で、1日だけの数字ですが、だいたい毎日の感染者のトレンドを表しています。

ただ、これらの感染者数が増加している国々でも、都市のロックダウンにまで踏み込んでいる国は今のところはありません。ワクチンの2度接種がある程度まで済んだ国々がほとんどで、3度目の接種を進めている国もありますが、重症者数や死亡者数が、ワクチン接種前に比べて格段に少なく、経済回復とのバランスをとろうとしている国が多いからです。

日本では、このところの感染者の増加は抑えられていますが、第6波が来る可能性は否定できません。私は、後に述べる理由で第6波が来るのではないかと思っています。

本稿では、2021年の日本経済、世界経済をコロナと絡めて振り返った上で、2022年の日本経済を占ってみたいと思います。

■経済回復に完全に出遅れた日本

2021年はウィズコロナの年でした。2020年初頭から世界に大きな影響を及ぼした新型コロナウイルスでしたが、2021年に入っても、その猛威からまぬかれることはできませんでした。とくに「デルタ株」が瞬く間にまん延し、多くの国で感染者が急増しました。

しかし、図表2にあるように、そんな中にあって、ワクチンの接種が進んだことで、コロナの中での経済活動の復活も顕著になったのも2021年でした。米国では、実質GDPが年初の1〜3月、4〜6月に連続で6%台の成長を遂げ、7〜9月は少し減速したものの、それでも2%の成長で、景気拡大が続きました(四半期のGDP成長率は、前四半期比での年率換算。一部は速報値)。

欧州では、通貨ユーロを使っている国19カ国からなるユーロ圏の数字を見ると、1〜3月こそコロナの影響で1.2%のマイナスでしたが、4〜6月は8.7%、7〜9月は9.3%と大きく回復しています。英国でも同様のトレンドです。

中国は、秋以降、「共同富裕」の名の下に不動産業界などの締め付けを行った結果、経済成長率は鈍化していますが、それでも成長を維持しています。韓国、台湾、シンガポールなども、コロナの影響はあるものの2021年は成長をある程度取り戻した年でもありました。

その背景には、コロナウイルスの影響はなかなか消えないものの、ワクチン接種の進展とともに、飲食やイベントなどへの規制緩和の効果が大きかったと言えます。

それに比べ、日本の景気回復は大幅に出遅れました。上でみたように、米国、欧州、アジアの各国は2021年には、ある程度の成長を取り戻しました。しかし、日本の成長率は、1〜3月期はマイナス2.9%、4〜6月はプラスに転じたものの、2.0%、そして7〜9月は、8月に東京で1日あたり6000人ほどの感染者が出たデルタ株の感染の急拡大により、GDPは再びマイナス3.6%(2次速報値)といった状況です。

日本でのワクチン接種は、2月ごろから医療従事者から始まり、その後、高齢者、そして多くの国民への接種と進みましたが、欧米各国に比べて数カ月の出遅れが響いたのです。今では接種率は、欧米並みかそれ以上となっていますが、出遅れが経済回復を阻んだと言っていいでしょう。

■10月に緊急事態宣言は解除されたが回復は鈍い

そんな状況の中で、秋以降、感染者数の急減から、10月1日に多くの地域に出ていた緊急事態宣言やまん延防止等特別措置が解除され、人流が増え、経済活動が徐々に活発化しています。それでも2019年の頃までは、なかなか戻っていないのではないでしょうか。

10月の消費支出の数字も弱含んでいます。家計の支出はGDPの55%程度を支えています。昨年、2020年7月には「GoToトラベル」が実施され、10月からは東京発着のGoToトラベルも解禁になり、ホテルなどはかなりのにぎわいを見せました。一部の高級ホテルでは、チェックインに2時間かかったという話も聞きました。

今年も10月以降は、私が何度か出張した大阪や京都のホテルは、緊急事態宣言が出ていたころに比べて、格段と言っていいほど、宿泊客は増えていました。しかし、私の感覚からは、GoToキャンペーンをやっていた昨年ほどではなかったという気がします。

私は、自分の感覚値で、長年ある定点観測をしています。出張することが多い大阪や京都では、いつも同じホテルに泊まり、ほぼ同じ時刻に朝食会場に行くのです。昨年の京都では、入りきらないほど客が朝食会場の外に並んでいましたが、今年は、列を作るということはありませんでした。少し空席もあるくらいでした。このところ毎週のように新幹線に乗りますが、以前よりは混んでいるもののコロナ前ほどではないと感じています。

今後、多くの方が恐れているのが感染の再拡大でしょう。「オミクロン株」という言葉も聞くようになりました。

第6波が来る可能性は高い、と私は思っています。なぜかというと、先に述べたように、日本ではワクチン接種が欧米の国に比べて数カ月遅れました。その分、今でも高い抗体値を持っている人が多いことが、感染拡大に歯止めをかけている要因ではないかというのが私の見立てです。この仮説が正しければ、欧米に遅れること数カ月で、再度、デルタ株の感染が広がるのではないでしょうか。つまり、第6波です。

その際に私が懸念しているのは、日本人の几帳面さです。

東京では、最近まで感染が減少しており、1日の感染者数が10人前後という日も長く続きました。東京の人口は約1400万人ですから、十数人というのは、100万人にひとり程度の確率です。それでもほとんどの人はマスクをしたままです。新幹線などでもマスクの着用を促しています。そして多くの方がそれに従っています。律儀で几帳面なのです。

写真=iStock.com/Prostock-Studio
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次の感染が来た際には、政府は欧米にならって感染者数ではなく、重症者数や病床使用率などから、緊急事態宣言を出すかどうかの検討をしているようですが、私が懸念しているのは、再び感染者数が増えれば、日本人はまた「自粛」をするのではないかということです。マスコミもそれを煽ると思います。そうした流れのしわ寄せは経済です。先述したように、それでなくとも遅れている経済の回復がさらに遅れる可能性があります。過剰な几帳面さや自粛への律儀な態度は、経済的な自殺行為となってしまう恐れがあるのです。

どうやら来る2022年もコロナの影響を受ける年になる可能性は高いです。政府も国民も、もちろん感染防止に努めなければならないことは言うまでもありませんが、経済への目配せを十分に行ってほしいと思っています。

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小宮 一慶(こみや・かずよし)
小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。
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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)