日本オラクルは11月9日から12日にかけて、年次イベント「Oracle Cloud Days 」をオンラインで開催している。初日には特別基調講演が開催された。本稿では、特別基調講演の模様をお届けする。

オラクルの「攻めのDX」と「守りのDX」

取締役 執行役 社長を務める三澤智光氏は、「次世代社会の実現に向けたクラウド活用の潮流」というタイトルの下、講演を行った。冒頭、同氏は「IPAが今年10月に発表した『DX白書』では、日本企業の約56%がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいるという調査結果が紹介されているいが、数年前から比べるとDXに取り組む企業が増えてきている。しかし、米国と比べると、パンデミック、技術の発展、SDGsといった外部環境変化を機会としてとらえる認識が低く、日本は今後、外部環境変化に、どう行動していくかを学んでいくことが必要」と述べ、同社のトランスフォーメーションを紹介した。

日本オラクル 取締役 執行役 社長 三澤智光氏


三澤氏は、同社がトランスフォーメーションを進める背景について、次のように語った。

「オラクルは買収を重ねて、総合コンピュータ企業として成長してきた。そうした中、2006年にiPhoneが発表されてスマートフォン革命が起きるとともに、外部環境が変わってきた。セールスフォース・ドットコムに代表されるSaaS、AWSに代表されるIaaSが出てきたことで、これらに対応する必要が出てきた。今、トランスフォーメーションの真っただ中だが、『言うは易く行うは難し』で、簡単ではない。それぞれの事業がLOBで成功しているところ、オンプレミスの売り切り型からクラウド型にトランスフォーメーションを図ることは大きなチャレンジだった」

オラクルのビジネス・トランスフォーメーション。サービス型のビジネスモデルにシフトしている


DXを成功させるには、「攻めのDX」と「守りのDX」の双方から取り組んでいくことが必要といわれているが、オラクルも攻めと守りの両面からDXを進めていることで、相乗効果を狙っているという。攻めのDXではイノベーション創出による競争力を強化し、守りのDXでは経営環境の変化やリスクへの対応、事業継続性への確保に取り組んでいる。

営業・マーケティング、会計、人事、サプライチェーンでDXの効果

三澤氏は、守りのDXを支えたテクノロジーとして「シングルデータモデル」を紹介した。DXの成功はデータの活用がカギを握っているが、物理的に複数のデータがある状態ではデータ活用ができないとして、シングルデータモデルを構築したという。これにより、物理的に複数あるデータを瞬時に取り出して使うことが可能になる。

三澤氏は、シングルデータモデル化のメリットとして、「きれいな形でデータを保存できること」「きれいなデータによってAIや機械学習(ML)の効果が出やすくなること」「AIやMLのフル活用で、業務の自動化を進めることができた」の3点を挙げた。

「営業・マーケティング」「会計」「人事」「サプライチェーン」の4つの分野について、オラクルのDXの効果が紹介された。例えば、オラクル日本は決算の数字が締まってから16日目に四半期決算を発表したが、東証上場企業平均は39.7日となっている。また、リコンサイル(残高照会)も40%の自動化を実現しているが、AIを活用しているため、学習を重ねれば重ねるほど精度が上がっていくという。三澤氏はその成果を同社のSaaSに還元したいと語っていた。

オラクルのDXの成果


さらに、三澤氏はサステナビリティに対する取り組みも紹介した。オラクルは2025年までに全世界のオペレーションを再生可能エネルギーにすることを掲げている。現在は、Oracle Cloudの欧州のすべてのリージョンと51のオフィスが100%再生エネルギーを利用中だという。

このように攻めのDXと守りのDX、サステナビリティに取り組んだ成果として、三澤氏は株価の上昇を紹介した。以前、オラクルの株価はGAFAについていけておらず、この1年40〜50ドルで推移していたが、今では100ドルに達したという。これを受け、三澤氏は「SaaSのトップベンダーになったことが評価された。われわれ自身がDXに成功したことを証明できた。これからもさらにトランスフォーメーションしていく」と力強く話した。



攻めのDXの基盤となる「Oracle Cloud」

一方、攻めのDXの基盤となるテクノロジーが、同社のパブリッククラウドクラウドサービス「Oracle Cloud」だ。「Oracle Cloud」は、SaaSの「Oracle Cloud Applications」とIaaS/PaaSの「Oracle Cloud Infrastructure」から構成されている。

三澤氏は、Oracle Cloud Applicationsについて、「競合は、オンプレミスのアーキテクチャのアプリケーションをAWSのような汎用的なクラウドサービスに乗せて、SaaSとして提供している。これに対し、オラクルはアプリケーションを全面的に作り替えて、大企業でも利用可能なピュアSaaSを作り上げた」と、競合のSaaSとの違いを強調した。

オラクルは同社のクラウドサービスの強みとして、ミッションクリティカルなシステムの利用に適していることを掲げているが、三澤氏はそれを具現化した事例の一つとして、野村総合研究所(NRI)を紹介した。

NRIは自社データセンターに導入していた「Oracle Dedicated Region Cloud@Customer」に、投資信託の窓販業務ソリューション「BESTWAY」を移行し、2021年7月より稼働開始した。「BESTWAY」は、銀行での投資信託の販売を総合サポートする共同利用型システムで、110社以上に採用されている金融SaaS。

「Oracle Dedicated Region Cloud@Customer」は、「Oracle Exadata Cloud Service」を含むオラクルのパブリック・クラウドサービスを顧客のデータセンターで利用可能なマネージド・クラウド・リージョンを提供するもので、OCIを顧客のデータセンターで利用することを可能にする。

これからのDXは社会課題解決に貢献していくべき

続いて、NRIの専務執行役員 IT基盤サービス担当を務める竹本具城氏が講演を行った。竹本氏は、「コロナ禍で、働き方のパラダイムシフトが起きた。コロナ禍が終息しても、生活スタイルは戻らないのではないか。われわれの調査では、デジタル化が浸透した今の生活に慣れたとする回答が20%に達している。また、コロナ禍は意識変容ももたらした。今後、社会課題を受けて意識はさらに変容していくと考えられる。変容した新たな価値観は実在社会を考える一つの要因となる。今まで、企業は収益に重きを置いていたが、これからは社会課題の解決との共存に取り組む必要がある」と、これからの企業の在り方を説明した。

野村総合研究所 専務執行役員 IT基盤サービス担当 竹本具城氏


こうした中、NRIは「DX3.0」を提言している。「1.0は、今までのビジネスモデルの中で変革してきた。2.0はビジネスモデルを変革した。そして、3.0は企業や業界だけでは達成できない。共創を通じて社会課題を解決していく必要がある」と竹本氏。

野村総合研究所が提言するDX 3.0とは?


しかし、竹本氏は「日本はデジタル化が遅れている。DX3.0までの道のりは遠い」と指摘した。日本では、アジャイル開発、デザイン思考、DevOpsの活用が少ないという。同氏は、DXを進めていくにはクラウドの活用が必要であり、クラウドを最新のテクノロジーが提供されるプラットフォームとして活用していくべきだとの考えを示した。

NRIでは、自社のサービスを展開していくにあたり、機敏性の確保と最新のテクノロジーの活用において、プライベートクラウドでは不安があったことから、「Oracle Dedicated Region Cloud@Customer」を専用パブリッククラウドとして導入したそうだ。

竹本氏は、Oracle Dedicated Regionについて、高可用性とアジリティを確保し、金融サービサーとしての統制を実現するとともに、同社のDX推進のドライバーとなってくれることを期待すると語っていた。