激戦区のコンパクトSUV各モデル(写真:トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、マツダ)

今、自動車業界で最も勢いのあるジャンルは何かと聞かれれば、その答えは「コンパクトSUV」である。この1年数カ月の間にトヨタ、日産、ホンダから、続々と新型コンパクトSUVが登場しているのだ。

まずは2020年の初頭、2019年11月に発売したトヨタ「ライズ」が「カローラ」や「ノート」などのベストセラー常連を抑えて、新車販売台数ランキング1位を獲得して業界を驚かせた。


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また、2020年6月には日産が10年ぶりの新型車「キックス」を投入すると、2020年8月にはトヨタが「ヤリス」の派生モデル「ヤリスクロス」をリリース。そして2021年4月、ホンダが満を持して2代目「ヴェゼル」を発売する。

では、これらのコンパクトSUVは、どんな実力を持っているのだろうか。

国内コンパクトSUVは7モデル

まずは、コンパクトSUVがどんなクルマであるのか、その定義を考えてみよう。

クルマのサイズ感を把握する基準として、ボディサイズで分ける「セグメント」があり、日本でいわゆるコンパクトカーと呼ばれるモデルの多くは、AもしくはBセグメントに分類される。

トヨタ「パッソ」や日産「マーチ」、三菱「ミラージュ」がAセグメントとなり、トヨタ「ヤリス」やホンダ「フィット」、日産「ノート」、スズキ「スイフト」「マツダ2」がBセグメントとなる。


全長4m程度、150万〜の価格帯がおおよそBセグメントの目安となる(写真:スズキ)

その上となるCセグメントは、トヨタ「カローラ」や「プリウス」、ホンダ「シビック」「マツダ3」、スバル「インプレッサ」などが該当する。

コンパクトSUVを“コンパクトカー・ベース”と考えるなら、ABセグメントをベースにしたモデルをコンパクトSUVと見るのが妥当であろう。

では、ABセグメントをベースにしたコンパクトSUVには、どんな車種があるだろうか。

トヨタ ライズとダイハツ「ロッキー」という2台の兄弟車。そしてトヨタ ヤリスクロスに日産 キックス、ホンダ ヴェゼル。そして「マツダ2」をベースにする「CX-3」。また、軽自動車をベースとするスズキ「ジムニーシエラ」も、サイズ的には文句なしのコンパクトSUVだ。これらのモデルを全長の短い順に並べると、以下のようになる。

車名全長価格スズキ ジムニーシエラ3550mm179万3000円〜トヨタ ライズ3995mm167万9000円〜ダイハツ ロッキー3995mm170万5000円〜トヨタ ヤリスクロス4180mm179万8000円〜マツダ CX-34275mm189万2000円〜日産 キックス4290mm275万9900円〜ホンダ ヴェゼル4330mm227万9200円〜

ちなみにトヨタ「C-HR」や、マツダ「CX-30」「MX-30」は、Cセグメントモデルと同じプラットフォームを使うため、ヴェゼルと寸法は近いが除外している。

現在、販売されているABセグメントのコンパクトSUVは、先に挙げた7モデルだが、そのうちAセグメントに当たるのは、ジムニーシエラとライズ/ロッキーの3モデルだ。そして、残りのヤリスクロス、CX-3、キックス、ヴェゼルの4モデルがBセグメントとなる。この7モデルを個別に見ていこう。

まず、最も小さなモデルとなる、ジムニーシエラ。このクルマは、ほかの6モデルとは明らかに異質だ。


スズキ ジムニーシエラ(写真:スズキ)

乗用車ではなく、実用性を重視したクロスカントリー4WDだからだ。さらに軽自動車をベースにするため全長は短く、車幅も狭い。端的に言って室内は狭く、内装の質感も低い。また、3ドアである点も他のコンパクトSUVと異なる。

しかし、これだけ小さく、これだけ本格的なオフロード走行性能を備えたクルマはほかにない。唯一無二の存在なのだ。ライバルうんぬんではなく、ジムニーに惚れ込んだ人が購入するクルマと言える。

一方、ライズ/ロッキーの兄弟車は、まったくもって普通の乗用車的なSUVだ。サイズはミニマムだが、大きなタイヤを装着し、SUVらしく見栄えがよい。もっと大きなクルマに見えるのだ。


ダイハツ ロッキー(写真:ダイハツ)

インテリアデザインには遊び心があり、質感もまずまず。さらに衝突軽減自動ブレーキなど、先進安全装備も充実している。また、FFと4WDが選択可能だ。ハイブリッド仕様は用意されていないけれど、2WDでWLTCモード18.6km/L、4WDで17.km/Lの燃費性能は上々。

2020年1〜6月の新車販売ランキングで1位になったのも、納得のデキのよさを誇る。ちなみに、ライズとロッキーの外観上の違いは、フロントバンパーのデザインのみ。ボディカラーやグレード構成の一部も異なるが、どちらを買うかはデザインと、トヨタかダイハツかという販売店で選ぶとよいだろう。


フロントバンパーのデザインが異なるライズ(写真:トヨタ自動車)

Bセグメントは激戦区

BセグメントのコンパクトSUVは、4モデルが競う激戦区だ。

2020年8月末に発売されたヤリスクロスは、新車販売ランキングでヤリスに大きく貢献した。


トヨタ ヤリスクロス(写真:トヨタ自動車)

ヤリスクロスはヤリスの派生車という扱いのため、ヤリスの販売台数に含まれるのだ。それもあってか、2020年通年の新車販売ランキングでは、ヤリスクロスを含めたヤリスが1位を獲得している。そして、このヤリスクロスは、実に欠点の少ないクルマである。

ヤリスクロスは、約180万〜240万円のガソリン車と、約230万〜280万円のハイブリッド車を用意。すべてのグレードでFFと4WDが選べるなど、幅広いラインナップを揃える。

また、ガソリン車で最高20.2km/L、ハイブリッドで最高31.3km/L(ともにWLTCモード)と燃費性能も優秀だ。あえて弱点を挙げれば、ライバルよりもコンパクトSUVな分、室内が少々狭いことぐらいだろう。

マツダ CX-3の最大の強みは、クラスでは唯一となるディーゼルエンジンを用意することだ。


マツダ CX-3(写真:マツダ)

CX-3に搭載される1.8リッターのディーゼルエンジンは、最高出力116馬力/最大トルク270Nmを誇る。クラストップのトルクが実現する走りの力強さは、CX-3の最大の魅力だ。

また、ライバルのトランスミッションがCVTである中、6速ATを採用することに加え、6速MTが選べるのもCX-3が唯一。走りの楽しさを求める人におすすめだ。

ただし、CX-3は6年も前の2015年に登場したモデル。つまり、モデル末期といえる。新鮮さという点では、ほかにゆずることになるだろう。

キックスとヴェゼルは電動化の急先鋒

日産が10年ぶりの新型車として2020年6月に発売したのが、キックスで、ハイブリッド専用モデルであることを特徴とする。


日産 キックス(写真:日産自動車)

日産が「e-POWER」 と呼ぶハイブリッドは、もっぱらエンジンが発電に徹し、モーターが駆動のすべてを担うシステムだ。そのため、走行フィーリングはEV(電気自動車)と遜色なく、非常にスムーズで力強い。

ただし、FF専用モデルで4WDがないのは、降雪地帯の人にとっては欠点になるだろう。また、ガソリン車がなくe-POWERのみのため、200万円を下回る手ごろな価格のグレードがないのも難点だ。

2021年4月、現在のところ国産コンパクトSUVとして最新となるのが、ホンダ ヴェゼルだ。


ホンダ ヴェゼル(写真:本田技研工業)

フィットと同じプラットフォームを使いながらも、全長を4330mmとクラス最大としており、その大柄さが押し出しの強さと車格感につながっている。また、ガソリン車とハイブリッド車の両方を用意しているのも、いいところ。ヤリスクロスと同様に、FFと4WDの両方にガソリン車とハイブリッド車を用意する。

注目すべきは、4WDシステムがガソリン車もハイブリッド車も同じ機械式であることだ。

近年になって増えているのは、後輪をモーター駆動で賄うモーター式の4WDだが、ヴェゼルはあえてフロントのエンジン部から後輪に向かってプロペラシャフトを備えた、古典的な機械式のシステムを採用している。これは燃費性能には不利だが、悪路走行という面では一日の長がある。降雪地域の人には嬉しい部分だろう。


ヴェゼルの「e:HEV×リアルタイムAWD」シャシーイメージ図(写真:本田技研工業)

ヴェゼルの最大の欠点は、価格だろう。ガソリン車であっても227万9200円スタートで、ハイブリッドになると265万8700円からとなり、BセグメントのコンパクトSUVというよりも、もうひとクラス上が狙える価格帯になっているのだ。ライバルよりも余裕のあるボディサイズや高められた質感により、価格も若干高めに設定されたのだろう。

激戦区だけに個性豊か

このようにひと口にコンパクトSUVといっても、モデルごとに個性は多彩だ。「絶対にこれが“買い”だ」というモデルがあるわけではなく、自分の好みや使い方を考えれば、細かい装備やスペックで比較せずとも、おのずと1台が浮かび上がってくるだろう。「サイズ」「デザイン」「用途」「価格」の観点から各車を見てみてほしい。

こうしてコンパクトSUVの顔ぶれを並べて気づくのは、トヨタの底力だ。ジムニーシエラという個性派しかいないAセグメントSUVに、王道的な乗用SUVであるライズ/ロッキーを投入して大ヒットさせたのは見事な戦略だ。

そして、Bセグメントにはヤリスクロスを用意し、さらにその上のクラスにC-HRやRAV4、ハリアーをずらりと並べる。そんなラインナップの層の厚さが、2020年のトヨタの国内販売の強さの理由だろう。

また、マツダもCX-3だけでなく、すぐ上にCX-30、MX-30、さらにはCX-5、7人乗りのCX-8を用意するなど、SUVへの注力は顕著だ。それに対してホンダや日産、スバル、三菱のSUVラインナップの薄さが気になる。

トレンドを探して、そこにあらんかぎりの力を注ぐトヨタ。世界一をうかがうメーカーは、国内市場への対応も一切容赦ないというわけだ。さすがトヨタということだろう。