2021年度一般入試の大学志願者数ランキング。8年連続で近畿大学がトップ

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2021年度入試で昨年に続き志願者数が10万人を超えた千葉工業大学。私立大学が軒並み志願者数を減らす中、志願者を増やした数少ない大学だ (撮影:梅谷秀司)

今年の私立大学一般選抜はまさに大激変となった。大学入試改革初年度に当たるため注目度は高かったが、戦後最大となる12%もの志願者減となった。私立大志願者は2年連続の減少。ほとんどの私立大で志願者が減った。

その中で志願者トップは8年連続で近畿大学。それでも昨年に比べて1万人近くに当たる6.4%の志願者減。3年連続で志願者を減らすこととなった。近畿大学人気は高いが、難化も進んで敬遠されている面もある。2位は千葉工業大学で、この2校が志願者10万人超だ。昨年は8位の立命館大学までの8校が、順位は違えども10万人超えだったから激減だ。

早稲田は49年ぶりの10万人割れ

5位の早稲田大学は3年連続の志願者減で、1972年以来、49年ぶりに志願者数が10万人を割り込んだ。昨年より1万2917人、12.4%減の9万1659人にとどまった。同じく3位の明治大学も2006年以来、15年ぶりに10万人割れとなった。ほかにも21位の慶應義塾大学は4年連続の志願者減で3万6681人にとどまり、平成以降、最少の志願者数となった。


これだけ大きく減った理由は5つある。1つ目が受験生数の減少だ。高校卒業生数が昨年に比べて2.6%減で、浪人生は約2割も減った。2020年度から入試改革が行われるため試験内容がどうなるかわからず、昨年のうちに大学に進学してしまった受験生が多く、浪人する受験生が激減したのだ。

2つ目が受験生の併願校数の減少だ。とくに浪人生は現役生より後がない分、併願校が多めで、浪人生の減少は私立大志願者数減に直結する。さらに、現役生も併願校を減らした。

代々木ゼミナール教育総合研究所の坂口幸世主幹研究員は、「2年前ぐらいまでは、私立大はたくさん受けないと危ない状況だった」としたうえで、「昨年から私立大全体の倍率が下がり、それほど厳しくなくなった。また、今年の私立大出願の佳境である1月後半には、大規模私立大の多い都府県に緊急事態宣言が出されていたので、受験に行くことに二の足を踏んだ受験生も多く、それも志願者減に拍車をかけた」と話す。

大都市圏の大規模私立大では、定員の厳格化が実施されてきた。これは大都市圏の大規模私立大が地方から受験生を集めすぎているとの批判から、地方創生の視点で入学者数を抑制する政策だ。

大規模大学は2015年までは入学定員の1.2倍未満まで入学させられたが、2016年から段階的に減らして2018年には1.1倍未満に減った。これが今も続いている。1.1倍を超えて入学させると、国からの助成金がもらえない。助成金は私立大収入の約1割を占めるため、各大学はこれを順守した。

入学者を減らすということは合格者を減らすことにつながる。結果、入試が激化した。受験生は併願校を増やすことで乗り切ろうと対策をとったが、昨年あたりからそれが緩み始めた。少子化が進むことで、たくさん併願しなくても合格できるようになったからだ。

そのうえ、コロナ禍の影響で昨年はオープンキャンパスや、大学が集まって開催される合同説明会などが実施されず、受験生は志望大学の情報収集に苦労した。関心の高い第1志望、第2志望は調べても、志望順の低い大学の情報収集には手が回らない。「知らない大学は受けない」という行動から併願校数が減ったとみられる。

また、感染予防の観点から何度も受験に行くのを避け、共通テストの成績だけで合否が決まる方式や、全学部統一試験などを受ける受験生が多くなった。全学部統一試験とは、全学部が同じ問題で1日に試験を行い、その際に第2志望や第3志望の学部にも出願できる方式だ。一度の受験で、何度も合否判定が受けられるわけだ。

推薦やAOで年内に大学を決める受験生が増加

3つ目は年内に合格を勝ち取った現役受験生が多かったことだ。コロナ禍の影響で、年明けに入試が行われるかどうかわからず、不安から年内に行われる総合型選抜(旧AO)や学校推薦型選抜で合格を決めた受験生が多かった。

ただ、これらの方式は、志願者が大きく増えたわけではない。総合型選抜では出願資格に当たるさまざまな活動が、コロナ禍によって制限されたこともあり、出願資格が大学の条件を満たさない場合もあったようだ。大学によっては年明けに入試が行えるのかどうかの不安があり、年内入試で多めに合格者を出して入学者確保を目指した。人気だったのは指定校推薦だった。

4つ目はコロナ禍による地元志向の高まりだ。坂口氏は「難関大には地方からの受験生が来ているが、それ以外では地元の国公立大で十分との考えが強まった」と指摘する。では、地方の大規模大学に志願者が集まったかというとそうでもない。「例えば、コロナの感染者が多かった福岡にある大学では、九州の他県の受験生から敬遠された面もあり、地方によって事情は違った」(坂口氏)。

5つ目は各大学のコロナ禍への対応だ。昨年の大学1年生は急きょ、オンライン授業中心に変わった。前期だけでなく、後期もオンライン授業の大学は東京圏を中心に多かった。入学式は中止、1年生がキャンパスを訪れる機会はほとんどなく、健康診断のときだけ行った、まったく行ったことがないとする学生もいたぐらいだ。

クラブ・サークル活動やアルバイトもできず、友人ができない1年生も多くいた。小中高などでは昨年から対面授業を再開しているが、大学だけがいまだにオンライン授業中心だ。自粛というより萎縮が続いている。これが受験生に地元志向が強まっている理由でもある。

受験生にとっては、今年4月以降もオンライン授業中心なら、家から離れた大学に進学する意味があまりない。感染拡大地域にある大学に進学して、感染するのは避けたいとの考えもある。大学生活は単に授業を受けるだけではない。キャンパスでの友人や教員との対話や課外活動も重要だ。だが、その機会がないとしたら、実家から通学できる地元の大学に進学したほうがいいということになる。

そこで気になるのが、各大学のこの4月からのコロナ禍への対応だ。入試前に「原則、対面授業」と公表した私立大で、志願者が増えたところが目立った。12位の龍谷大学、23位関西学院大学、26位駒澤大学、29位上智大学などだ。こうした対応をしなかった大規模大学が志願者を減らしていると考えることもできる。オンライン授業のメリットはたくさんあるが、やはりキャンパスに通って授業を受けたいと願う学生が多いということだ。

「3C」が今年の入試の特徴

こうした5つの理由から、志願者が激減した。駿台教育研究所進学情報事業部部長の石原賢一氏は「今年の入試のポイントは3Cだ」と総括する。最初のCはコンパクト(Compact)のC。受験生は自宅から遠く離れた大学を受けない、過度な安全志向でもなく実力相応の大学・学部を受け、併願校をたくさん受けずに受験スケジュールを圧縮した。次はコンサバティブ(Conservative)で、受験生は保守的だった。早稲田大学、上智大学、青山学院大学(19位)のように、共通テストを活用した入試方式は敬遠され、志願者は集まらなかった。国の進める大学入試改革に沿った入試変化に拒否反応があったということだ。

最後はチープ(Cheap)で、学費の安い大学・学部、受験料が安い大学に人気が集まった。

大きく志願者が減った中でも、志願者が増えた大学もある。2位の千葉工業大学は昨年より5438人、5.3%増えた。入試広報部の日下部聡部長は、共通テスト利用入試の検定料無料が志願者増加につながったと話す。「コロナ不況を考えての措置で、出願者は国公立大との併願者が多く、優秀な受験生もいて実志願者が増えた。来年も検定料免除は続けたいと思っており、受験生に寄り添った施策を打ち出していきたい」。

入試を受けやすくしたから志願者が増えるということではない。千葉工業大学は「ロボット」と「宇宙」の最新研究で知られている。同大学は東日本大震災後に福島第一原子力発電所に最初に投入されたロボットを開発したことで有名になった。

松井孝典学長が宇宙研究の第一人者だ。大学のパンフレットはマンガ『宇宙兄弟』とコラボしたものだ。ロボット、宇宙分野だけでなく、研究が広く深く進められているからこそ入試改革も効果がある。

入試改革が奏功した立教

MARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政)で唯一志願者増となったのが11位の立教大学だ。4167人、6.8%増だ。今年から実施した入試改革が受験生の支持を集めた。全学部全日程試験に改革し、併願日程を柔軟に組めるようにして併願者が増えたこと、英語の試験を外部英語試験の成績か共通テストの英語の成績にして、受験生の負担を軽くしたことが奏功した。

入学センターの和田務課長は「文、異文化コミュニケーション学部は英語が得意な志願者が増えたからだとみている。この改革に踏み切ったのは、1年生全員で英語のディベートの授業を導入するカリキュラム改革があり、4技能のマインドを学生に求めているから。そして、入試が大きく変わることを早くから周知したことも志願者増の要因かと思う」と分析する。

立教大学は、リクルート進学総研の高校生を対象にした「進学ブランド力調査」の、「入試方法が自分に合っている」という項目で、2019年の関東エリア16位から2020年は1位と一気に上昇した。

立教大学はコロナ対応も早かった。大規模大学の中で昨年の前期の授業をオンラインにすると早々に発表したのが立教大学だ。さらに、今年は1年生の授業を対面中心にしていくと発表している。

関関同立(関西、関西学院、同志社、立命館)では23位の関西学院大学のみ1.2%の志願者増だった。今年は神戸三田キャンパスにある理工学部を理、工、生命環境、建築の4学部に再編した。これが志願者増の大きな要因となった。「理系学部の再編では、学部をわかりやすくしたことと、全学日程の選抜で一度受験すると科目の配点を変えた2方式で合否判定が受けられるようにしたこともあって、志願者が4割ほど増え、それが全体の志願者増につながった」(入学センターの岡田隆次長)。

2022年度入試の受験生は、高校2年生のときの課外活動がほぼ止まってしまった世代だ。自己アピールのための英語民間試験の受検も難しく、大学が実施するオープンキャンパスなどにも参加できなかった。3年生になった今後もコロナ禍の状態が続けば、これからの入試準備がさらに厳しいものになる。大学も総合型や学校推薦型選抜の出願基準を変えざるをえないだろう。今年のように共通テストが追試験も含めて3回実施されるのかなども含めて、今後の入試制度の変更などにも例年以上に注意が必要だ。