トヨタと日産の2社寡占状態が続く救急車の世界。そのなかで新興メーカーのベルリングが新型救急車「C-CABIN」を発表しました。現場の声を聞いて車体を大幅に改良した革新的救急車について、ポイントを聞いてきました。

見た目は「ハイメディック」にそっくり でも車内は別モノ

 消防車両の新興メーカー、ベルリング(横浜市港北区)は2020年11月18日(水)、東京豊洲において自社開発の新型救急車「C-CABIN」を報道公開しました。


東京豊洲のチームラボプラネッツTOKYOで展示されたベルリングの新型救急車「C-CABIN」。ベースはトヨタの「ハイエース」スーパーロング(2020年11月18日、柘植優介撮影)。

 一見すると「C-CABIN」は、従来の救急車とそれほど変わっているようには感じません。ベルリングの飯野 塁社長は、「C-CABIN」の特徴として「車内スペースの拡張」「現場の隊員が本当に必要とする安全性と使いやすさの追求」「電動ストレッチャーの標準搭載」「車内隔壁の設置と新型コロナウイルス対策」の4つを挙げていました。

 ひとつ目の車内スペースの拡張については、「C-CABIN」はトヨタの「ハイエース」スーパーロングをベースに開発しているものの、車内スペースを最大限広くするために、車体ルーフおよび右側面を取り外し、FRP(繊維強化プラスチック)構造に変更しています。

 これによりボディが薄くなり車内空間が広がったことで、ストレッチャーを車体中央部に配置すれば、従来の救急車ではなし得なかった「ストレッチャー右側への救急隊員の回り込み」が可能になりました。またストレッチャーを右側に寄せれば、そのぶん左側部分の床面積が広くなるので、救急隊員の活動もしやすくなるとのこと。

 飯野社長の話では、ボディの拡張と、ストレッチャーの左右両側アクセスができるようになったことで、従来の救急車と比べて床面積で1.5倍程度広くなっているといいます。なおルーフおよび右側面を作り変えても、車体剛性は維持しているとのことです。

車酔いしやすい人も安心の前向きシートを装備

 2つ目の、現場の隊員が必要とする安全性と使いやすさに関しては、車内で最も目に付く、救急隊員および同伴者用のシートにその理念が表れていました。

 従来、ヘッドレストのある背面付きシートは一つしかなく、ほかはベンチシートでした。対して「C-CABIN」では、4つのシート全てが独立式メディカルシート(バケットシート)になっており、左側に並んだ3つのシートは90度可動し前を向くことができます。また座面の跳ね上げ機構を有しているため、座面を上げればその分、活動スペースを確保することができます。

 さらに4つのシート全てが3点式シートベルトを備えるため、従来の救急車では、患者室の隊員および同伴者用シートが2点式シートベルトだったのと比較して安全性が大幅に向上しています。加えて天井部分に握りパイプを配置。走行中に立った状態で活動する隊員の安全も配慮されていました。


新型救急車「C-CABIN」の患者室内。中で立つのは柏市消防本部から来た2名の女性救急隊員(2020年11月18日、柘植優介撮影)。

 3つ目の電動ストレッチャーの搭載は、女性隊員の活躍の可能性を拡大することにも関係しているといいます。それについては、会場でストレッチャーなどの実演を行うために、千葉県の柏市消防本部から駆け付けた女性救急隊員の説明でも触れられていました。

 話によると、車内からストレッチャーを積み降ろしするのは40〜50kgのダンベルを上げ下げするのに似ており、救急隊員や消防隊員は腰を痛めないよう気を使いながら活動しているとのこと。

 飯野社長は、電動ストレッチャーならば、積み降ろしで腕力に頼る部分が減るため、男性隊員と比べて力の弱い女性隊員でも無理なく積み降ろしが行え、それによって女性隊員の活躍できる領域が広がるのではないか、ということでした。

新型コロナにも対応 救急隊員の感染リスクも低減

 4つ目の車内隔壁の設置と新型コロナウイルス対策については、千葉県の流山市消防本部から来ていた女性救急隊員が実際の事例として、新型コロナウイルス患者を搬送した際の話をしていました。

 それによると、患者室と運転席が隔てられていない場合、感染のリスクがかなり高いことが分かったといいます。そのため、新型救急車、すなわち「C-CABIN」では隔壁があることが心強いと話していました。

 飯野社長によると、従来の救急車は、運転席と患者室でコミュニケーションがとれるよう、空間がつながっているのが普通だったそう。しかし「C-CABIN」では開発中に新型コロナが発生したことで、感染の疑いのある患者を搬送する際には、運転席および助手席の隊員に感染リスクが生じないよう隔壁を設けることにしたといいます。

 さらに運転席・助手席部分と患者室との間に気圧の差を発生させ、患者室内の空気はHEPAフィルターによってろ過するようになっているとのこと。またリアクーラーの吸気口も患者室に一体化する構造を採用し、空気の循環にも配慮することで感染を防止するようにしているそうです。


電動ストレッチャーの積み降ろしのデモンストレーションを実演する女性救急隊員(2020年11月18日、柘植優介撮影)。

 関係者の話では、「C-CABIN」はあくまでもコンセプトモデルの位置づけで、今後、現場の使用状況をさらにフィードバックさせて発展させていくとのこと。また現時点でベースはトヨタの「ハイエース」のみの展開であるものの、将来的には他メーカーの車両でも架装できるようにするほか、高規格準拠救急車以外の、たとえば軽自動車規格の救急車や病院を始めとした各種医療機関が使用する救急車などにも展開していくとのことでした。

 ベルリングでは2022年の量産化を目指しているそうです。はたして「C-CABIN」が日本の救急車を変える存在になるのか、注目です。

※誤字を修正しました(11月19日14時30分)。