不本意配属で超早期退職する新入社員も少なくない (写真:夢見る詩人/PIXTA)

新型コロナウイルスの感染拡大により、新卒向け合同説明会が中止となり、リーマンショック時のように内定取り消しも発生している。一方、このような先行きが不透明な状況でも、新入社員の超短期離職は発生している。

「希望と違う」で増える超短期退職者

筆者の運営しているUZUZでは、毎年4月になると「配属先が希望と違った」という「配属ガチャ」による超短期離職者が増える。その内訳が最も多いのは「勤務地が希望と違うため(引っ越しが伴う)」という理由だが、「やりたかった業務内容ではないため」という理由で退職する人も一定数いる。


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「配属ガチャ」とは、入社時(特に新卒入社)の配属先が希望とは異なり、会社の意向で決められてしまうことを指す。配属される側からすると、辞令が出るまで配属先がわからない状況が、ソーシャルゲームの「ガチャ」のように感じることから生まれた言葉だ。

希望の部署に配属されたり、上司や教育担当に恵まれた場合は「アタリ」、希望してない部署に配属されたり、評判の悪い上司や教育担当に当たってしまえば「ハズレ」といったように、入社後の自分の運命が、ガチャのように偶然によって決まってしまうことに対する皮肉も込められた表現となっている。

【配属ガチャによる退職事例(UZUZ登録者の声)】
地元で働けると選考時には聞いていたが、実際に入社したら地方配属となってしまった。

配属により実家を出ざるを得なくなったが、思ったよりも出費がかさみ、実家で暮らしながら働いた方が良いと考えて退職した。

希望していた仕事があり、その仕事ができるものだと思っていたが、配属された仕事は希望と全く違った。

入社してから3年くらいで転職しようと思っていたが、地方配属となってしまい、転職がしづらくなることを懸念して退職することにした。

配属ガチャは、新入社員の3割が入社して3年以内に辞めてしまう一つの要因だと考えられるが、どうしてこのような仕組みが存在しているのか? そのメカニズムを組織人事に詳しい組織人事コンサルタントの秋山輝之氏に語ってもらった。

時代に合わなくなってきた「配属ガチャ」という仕組み

――単刀直入にお伺いします。秋山さんは「なぜ配属ガチャによる短期離職が発生する」とお考えですか。

それは企業の思惑と新入社員の思惑にズレが生じているからだと思います。企業(特に大企業)は、新入社員には長く会社で働いてもらいたいし、成長してもらって、将来的には会社を担う存在になってもらいたい。しかし、最近の傾向として、新入社員はずっと一つの企業に所属するとは考えておらず、転職も視野に入れて、その会社で市場価値を高められればいいと考えている。

この思惑のミスマッチが配属ガチャを生み出してしまい、新入社員の短期離職につながっていると私は考えています。

確かに最近は「市場価値」というキーワードを多く耳にします。若者のキャリア志向は「終身雇用型」ではなく「ジョブ型」が主流となっているからかもしれません。ここ数年で、企業に依存せず、仕事を通じて自身の市場価値を上げ、安定や好待遇を手に入れようとするキャリア構築の流れは強くなっているように感じます。


会社に滅私奉公しても、不景気になればリストラされる可能性もあるし、一つの会社で長く同じ業務を行っていると潰しがきかなくなる。そして年齢を重ねるごとに転職が難しくなると考えているのだと思います。

また、年収を上げる手段として転職が一般化しており、昔のように「転職=悪」というイメージが変わってきています。それも、若者を中心に「企業主義」ではなく「個人主義」の傾向を強めた一因だと考えています。

――そうした時代の流れもある中、なぜ企業は相変わらず配属ガチャをやり続けるのでしょうか。

信じられないかもしれませんが、企業は良かれと思って配属ガチャをやっています。企業は、新入社員を安全な環境で育て、成功体験を積んでもらいたいと考え、その最適な配属先を決めています。

配属ガチャの問題は、大きく分けると「勤務地」と「職種」に分けることができます。勤務地に関しては、企業としてはもちろん希望に沿った配属をしたいが、新入社員を育成しようとすると、教育担当が必要になる。そうなると、教育担当がいる勤務地に新入社員を分散して配属しなければならず、希望が集中している都市部ばかりに配属するわけにもいきません。必然的に希望にそぐわない地方配属も一定数出てしまいます。

企業からすると、欠員が出たためとか、人員が必要な部署へ配属しているといった側面もありますが、一方では新入社員をしっかり育てるために各拠点の教育担当の元に分散して配属している側面もあるのです。また、新入社員の定着率が高い優秀な教育担当の元に優先的に配属する傾向がありますが、その教育担当が地方にいる場合は自ずと地方配属が増えてしまいます。

職種に関しても、企業は企業なりに良かれと思って配属先を選んでいます。企業としては、どの新入社員にも将来は戦力になってもらいたいと考えており、広く企業内の仕事を経験してもらうため、ジョブローテーションを行います。

特に大企業では、上位者として活躍するにはゼネラリストになるべきという根強い考えがあるため、さまざまな職種を経験させます。日本経済新聞の「私の履歴書」を見てもわかるように、大企業のトップのほとんどは、都市部の営業で配属されたと思ったら、製造現場、地方の営業、人事など多種多様な職種を経験しています。

つまり最初に配属される職種は、あくまでも「最初の職種」でしかありません。次々にいろいろな職種を経験し、企業内でのゼネラリストになるためのキャリアパスが用意されています。大企業だと8年間(22歳で新卒入社して30歳になるまで)のキャリアパスが複数種類も用意されていることが一般的でしょう。ある大手食品メーカーでは、30歳までに最低2つの事業部での業務経験を積めるよう、キャリアパスを設計しています。


もちろん現在欠員しているという理由だけで配属されるケースもあります。また、新入社員を幹部候補としてふるいにかけるために「タフアサインメント(負荷をかかける配属)」をあえて行うケースもあります。負荷のかかる配属を経験することで新入社員を鍛えるだけでなく、その能力を選別するために行う配属は、どちらかというと一方的な企業都合の配属に思えるかもしれません。

――企業の思惑はわかりました。でも、時代の流れとしては「ジョブ型」の採用・配属に移行していったほうがいいように感じるのですが、企業はこの流れに対応していくと思いますか。

このままの流れが続けば、「ジョブ型」への移行は進むと考えています。インターンシップ選考や、ある程度業務内容が決まった採用枠を持っている中小企業に入社することで最初の配属から自分の希望する職種に就くことができます。


ベクトル副社長の秋山輝之氏は、大手流通業の企業人事出身の組織人事コンサルタントで、「採用と退職」という切り口から設計する人事戦略・制度構築のプロフェッショナルだ。上場企業を中心に170社の人事制度設計に携わっている (撮影:UZUZ)

その職種での就業経験を積むことで、専門的なスキルや実績を携えて、大企業やもっと条件の良い企業に転職し、年収を向上させるキャリアプランを考えている若い人は増えてきています。

そうなると、大企業も優秀な新入社員が採用できなくなるので、変化を求められます。私のクライアントの大企業では、転勤をなくしたところもあります。採用をエリアごとに行うことで、エリア内での限定配属が可能となりました。

しかし、この採用方式は景気が良い状態では実現できるのですが、景気が悪くなると採用できないエリアが出てきてしまう可能性はあります。景気が悪くなると地方拠点の業績が悪化するため都市部でしか採用できなくなる恐れがあるからです。そうなると、地方在住で地元での就職を希望する人には採用枠がなくなってしまう場合もあります。

いままでも何度も「ジョブ型」が広まった時期はあったのですが、不景気になる度に元に戻っていった歴史もあります。不景気になると、大企業人気が復活し、「終身雇用型」もある程度盛り返すのではないかと考えています。

希望通りの配属を勝ち取る「ハイカツ」

――最近は、配属を有利に進めるための活動「ハイカツ」が注目されています。どうすれば配属先を少しでも自分の希望通りにできるのでしょうか。

配属に関して、自分の希望を叶えたいのであれば、人事に対して何度も口頭で伝えることが大事です。伝えるチャンスは、内定連絡、内定式、配属決定のときです。エントリーシート(履歴書)に希望を書いている人もいますが、エントリーシートは書類選考時にしか見ていないので、配属時にはほとんど忘れられています。

また、最初の配属で自分の希望通りにならなかったとしても、そこで諦めないことが重要です。配属が希望と違ったからといってすぐに退職するのではなく、入社後に職場や人事に希望を伝え続けることが重要なのです。

今はどの職場でも転職による退職が多く、1〜2年と待つことなく希望の部署に異動できることも少なくありません。そのためにも自分の希望を伝え続けることが重要なのです。

もちろん、自分の希望を叶えるためには、伝え方を工夫する必要はあります。例えば、どのように伝えればいいかというと、下記がポイントです。

企業にもメリットがある伝え方を意識する(例:自分の武器はコミュニケーション能力であり、アルバイトでの販売経験もあるため、営業として競争の激しい都市部に配属してもらいたい)

多少厚かましくなっても、自分の希望をストレートに伝える(ただ、伝えるのであれば内定後の方が安全。選考中に伝えてしまうと配属難易度が高い分、評価がマイナスになる可能性あり)

最終手段としては、内定辞退や退職を切り札としてほのめかす(これは最終手段ですが、希望が叶わないことで内定辞退や退職するくらいなら、事前に伝えたうえで少しでも可能性を見出す)

このような点を工夫し少しでも自分の希望に沿った配属となるよう努力することも、理想のキャリアを手に入れるためには必要だと考えています。

今だからこそ超短期離職はできるだけ避ける

ここまで配属ガチャによる短期離職が発生する背景を解説してきた。確かに自分の希望に沿わない配属となると、落胆もするし、辞めたくなる気持ちもわかる。

何を隠そう筆者も入社3年目に希望に沿わない配属となって辞めようとした過去がある。

ただ、そのときに「1年間はやってみよう」「ここでも何かしら学ぶことはあるはず」「異動させた上司を後悔させてやる」と気持ちを切り替えて、1年間は仕事を続けた(結局、今の会社立ち上げの話が魅力的すぎて飛びつくように辞めてしまったが……)。

しかし、今の状況はちょっとした感情で辞めるにはあまりにも市況が悪い。新型コロナウイルスの感染拡大により、景気は悪化、軒並み企業は採用を見送るようになっている。このような状況では、正社員という立場を確保しつつ、目の前の仕事で身につけられるスキルや経験を手に入れて、景気がよくなってから自分の希望を叶える転職をしたほうがリスクを最小限にできる。

UZUZが創業した2012年当初、20代の若手人材のニーズは低く、短期離職した第二新卒はどの企業からもそっぽを向かれていた。今回のコロナ不況も同様か、それ以上の不況となると試算されている。

自分のキャリア、生活を守るためにも、ハイカツはやりつつも、希望と違う配属だったとしても根気強く目の前の仕事に取り組みながら次のチャンスを待ってもらいたいと思う。