ミスジ180gの看板メニュー「やっぱりステーキ」

 かつて贅沢の代名詞だったステーキは、2013年に登場した「いきなり!ステーキ」のおかげで、いつでも気軽に安く楽しめるようになった。

 いまや、多くのステーキ店がしのぎを削っているが、今年は業界地図が塗り替えられそうだ。沖縄発の「やっぱりステーキ」が、噂されてきた東京進出を、ついに果たそうとしている。

「税込み1000円で200gのステーキ」「ライスとスープ、サラダは食べ放題」という驚きの価格設定で出店を続けてきた「やっぱりステーキ」。沖縄を中心に出店し、現在12道府県に48店舗(姉妹店含む)を展開する。

 1月下旬、都内での “第1号店” の店舗探しをする、「(株)ディーズプランニング」の義元大蔵社長(44)に密着した。待ち合わせたのは、吉祥寺(武蔵野市)。駅から徒歩5分の物件を下見する。

 まだ別の店舗が営業中で、外から見るだけだが、「十分によし悪しはわかります」と義元社長。

「いちばん大事なのは立地。人の流れ、外から看板がどう見えるか。ここは、あまり人の流れがよくなさそうですね」 

 早々と見切りをつけて、次の物件へ移動した。

「やっぱりステーキ」は、2015年2月、沖縄・那覇市の松山に1号店をオープンした。カウンター6席の小さな店はすぐに人気を集め、沖縄県内で店舗を増やしていった。 

 まずは、いちばん気になっていることを直撃。「やっぱり」というネーミング、「いきなり!」のパクリですか?

「それ、よく言われるんです。でも、パクってません。偶然なんですよ。もともと、僕が飲んだ後の締めにステーキを食べるのが好きで、いつも『今日の締め、何にする? やっぱりステーキか』って言ってたのを、そのまま屋号にしただけなんです」

 その「いきなり!ステーキ」からは、かつての勢いが失われつつある。

 2019年11月には、国内にある489店舗の約1割を「2020年春までに閉店する」と発表。運営会社であるペッパーフードサービスの株価は、ピーク時(2017年11月)の8230円から、1000円前後にまで落ち込んだ。値上げにより、“お得感” が薄まったことが、理由にあげられている。

「とはいえ、(客が)入っている店も、まだまだありますからね。やっぱり『いきなり!』さんは、すごいんですよ。いまのように、気軽にステーキを食べるというスタイルを広げたのは、『いきなり!』さん。我々は、感謝しかないです」

 次に向かったのは代々木。閉店したばかりの居酒屋だ。
「ここはよさそうですね。“気” がいいですよ」

 直営店だけでなく、FC(フランチャイズ)店舗の物件も、すべて義元社長が現場に足を運んで決めてきた。

「客が入る物件は、すぐにわかります。『ここにキッチンがあって、お客さんがここに……』という光景が浮かぶんです。

 たとえば、福岡にある『親不孝通り店』。あの場所は、じつは毎年のように店舗が変わる物件だったんです。不動産屋もすすめないし、近隣の飲食店も『あそこはダメだ』という場所でしたが、私は即断しました。フタを開けたら、大行列です」

 直感だけではない。もちろん近隣の店、最寄り駅の乗降者数、人の流れ、看板を置く場所など、基本的なデータを考え抜いたうえで判断する。

「基本的には、居抜き物件を選びます。そのほうが、初期費用を抑えられますから」 

「ここは厨房の位置がそのまま使えるかも」とご満悦の義元社長

 義元社長の前職は、飲食のコンサルティング会社の社員だ。

「飲食店のコストで大きいのが、人件費。これをいかに抑えるか。うちは券売機を使い、ライスやサラダはセルフサービス。これだけでも、バイトが少なくてすみます。お客さんが自分で必要な量だけ取るので、食品ロスも少ない。

 溶岩プレートで自分の好きな焼き加減で食べていただくので、職人に頼る必要もないんです」

 ここにきて、東京進出を決めたのはなぜか。

「まず、何人ものオーナーさんから、『東京でやりたい』という希望があったこと。

 そして2019年都内に、溶岩プレートを使い、サラダとスープが食べ放題で1000円という、うちとそっくりのスタイルのステーキ店ができたこと。飲食業界ですから、ある程度は仕方ないとはいえ、あまりのパクり方です(苦笑)。これはもう、やるしかないと」

 しかし、家賃も桁違いに高い東京で、勝算はあるのか。

「当然です。うちの場合、20坪程度の狭い店舗でも、年間1億円近い売り上げがあります。そうなると、家賃の高さはそれほど問題になりません。十分に利益が出るんです」

 3件めは飯田橋、4件めは水道橋。いずれも飲食店の居抜き物件だが、それぞれ15分程度で次々に判断を下した。

「まあまあ。70点です。十分に利益は出せるレベルの物件でしたが、東京で最初の店ですから、インパクトを求めたい。100点……いや、150点の物件が必ずあるはずです」

 2月中には物件を決め、4月か5月に、東京第1号店をオープンさせる予定だ。

「ライバルは、『いきなり!ステーキ』さんではなく、『吉野家』さん、『すき家』さんの牛丼店。あとはラーメン屋さん。それくらい気軽に入れる店にしたい。

 サラリーマンのランチ、1000円なら週に1回くらいは来てもらえそうじゃないですか。この業界、まだまだ伸びる余地があると思いますよ」

 やっぱり、気軽に美味しくステーキを――。その日が待ち遠しい。

(週刊FLASH 2020年2月25日号)