高輪ゲートウェイ駅に導入される新型自動改札機には、新たにQRコードの読み取り部が追加されます。紙でも画面表示でもよいQRコードはICカードと違い、それ自体には情報を書き込めません。Suicaシステムのクラウド化がカギを握ります。

普及したQRコード決済 駅の自動改札機は?

 2020年3月14日(土)、JR山手線・京浜東北線に新駅「高輪ゲートウェイ」が開業します。JR東日本は高輪ゲートウェイ駅をグループの「ショーケース」として位置づけ、AIを活用した案内ロボットや様々な自律移動型ロボット、無人店舗など、最新のサービス設備の導入や実証実験を進める場にしたいとしています。

 そのトライアルのひとつが、車いすの利用者でも通過しやすいよう、ICカードのタッチ部分の形状を工夫した新型自動改札機の導入です。また、この自動改札機は従来のタッチ部に、新たに「QRコード」の読み取り部を設置します。JRはこの自動改札機を使用して、QRコードによる改札機利用のモニター評価実験を行う方針です。


駅の自動改札機(画像:PAKUTASO)。

 阪神電鉄も2020年3月から半年間の予定で、QRコードを用いた乗車券の実証実験を行うとしています。紙またはスマートフォン画面のQRコードを、IC専用改札機に取り付けた二次元バーコードリーダーにかざして入出場するものです。

 スマートフォンを用いたQRコード(二次元コード)決済はここ1〜2年で急速に普及し、小売店や飲食店、自動販売機などでも利用できるようになりました。しかしJR東日本の営業エリアでは、すでにICカード式乗車券「Suica」が普及しており、いまからQRコード決済を導入する余地は少ないようにも思えます。なぜ自動改札機にQRコードを採用しようとしているのでしょうか。

 ここでICカードとQRコードを対立的な概念として考えてしまうと話がややこしくなります。鉄道におけるQRコード決済の活用方法には様々な可能性が考えられますが、最終的な目的のひとつとして挙げられるのは、専用の設備を必要とする磁気券の廃止です。そのためにJRは、ICカードとQRコードがそれぞれ得意な分野を補い合うサービスの形を模索していると考える方が自然でしょう。

自動化された駅業務 すべてICカード化は難しい

 昔は鉄道利用時、窓口できっぷを買い、改札で駅係員にハサミを入れてもらい、下車時も駅員にきっぷを渡していました。鉄道事業者はこれらの駅業務を省力化するために機械化を進め、まずは入場券や単距離の乗車券の発売を、有人窓口から自動券売機に切り替えました。続いて自動券売機で発行するきっぷに磁気などでデータを入れることで、自動改札機で読み取って処理できるようにしました。

 JR東日本は、1990(平成2)年から本格的に首都圏で自動改札機の導入を進め、2001(平成13)年にSuicaを導入。これにより駅業務は大幅に省力化され、また自動券売機の台数も大幅に削減することに成功しました。


駅の自動券売機。最近は多機能タイプも増えている(2019年4月、伊藤真悟撮影)。

 もうひとつICカード導入で実現したのが、自動改札機のコストダウンです。磁気券への読み取りや書き込みを行う自動改札機は、接触部や可動部が多数ある精密機械の塊で、製造コストとメンテナンスコストともに多額の費用がかかります。一方、ICカード専用の自動改札機は、カードと通信するリーダー・ライター部があれば作動します。

 すでに都市部では鉄道利用の多くがICカードに移行し、磁気券の利用は少なくなりましたが、磁気券という仕組みが残る限り、現行の自動券売機と自動改札機を完全に廃止することはできません。

 磁気券の廃止にあたっては、すべての乗車券をIC乗車券に置き換えるという考え方もあります。しかしチャージ残高や使用履歴など様々な情報をカード本体に保持し、データを直接読み取り、書き込みをするICカードは、高速の無線通信が可能なだけでなく、セキュリティにも配慮した構造にする必要があります。

QRコード券、カギはSuicaのクラウド化

 Suicaはこうした課題を解決する技術として、ソニーが開発した非接触ICカードの技術方式「FeliCa」を採用しました。しかしカードの製造コストがかかるため、繰り返し利用する定期券などの利用はともかく、1回だけ利用するための乗車券には使いづらいという難点があります。そこで注目されるのが、どんな紙に印刷したものでも、あるいは印刷すらしなくてもデータの読み込みができるQRコードです。磁気券をQRコード券に置き換えてしまえば、自動券売機でなくても乗車券を発行できるようになり、自動改札機で磁気券のデータを機械的に処理する必要が無くなるからです。

 ただ、QRコードは磁気券と違って、自動改札機からデータを書き込むことができません。そのため券のデータはサーバー上に置かれ、QRコードは券のデータと利用者を紐づける「目印」として使われます。自動改札機で読み取ったQRコードはネットワーク上で処理され、入出場の管理や運賃のチェックを行い、同時に複製や偽造などの繰り返し使用を防止します。

 この仕組みを実現する上でカギとなるのが、JR東日本が進めるSuicaシステムのクラウド化です。2018年7月2日付の日刊工業新聞によると、今後Suicaシステムに、自動改札機の利用時にICカードを識別する固有のIDを読み取り、クラウドサーバー側で管理するIDと紐づいた情報を処理する機能を追加すると報じられています。

タッチレス・ゲートレスな自動改札機を目指して

 現在のSuicaはカード本体の情報を、自動改札機を通じて駅のサーバー(コンピューター)で処理し、そのデータをさらに上位のサーバーと同期・集約していく階層的な処理を行っています。しかし、通信技術や情報処理技術の進歩を背景としたクラウド化により、自動改札機でICカードのIDを読み取ることで、直接ネットワーク上のデータを処理することが可能になります。

 JR東日本が2019年度中に導入予定の「新たな新幹線IC乗車サービス」もこの仕組みを利用します。インターネットで乗車券・特急券を予約・購入したときにICカードを登録することで、自動改札機をタッチした際に、ICカードのIDと購入データを照合。ICカードにデータを書き込まずとも、チケットレス乗車が可能になるというわけです。QRコード券の仕組みも基本的にはこれと同様になると予想されます。

 将来的にはSuicaのデータも、カード本体からネットワーク上に移行し、ICカードとQRコードは、券を識別する固有のIDという意味で同じ役割になることでしょう。


都市部の駅にある自動改札機。利用者が多いため、短時間で膨大な情報を処理している(画像:PAKUTASO)。

 それではICカードは役割を終えてしまうのでしょうか。少なくとも当面はそのようなことはないと考えられます。高速、確実な通信が可能なICカードをわざわざQRコードで置き換える必要はありませんし、毎回スマホのアプリなどを立ち上げてQRコードを表示するよりも、ICカードをタッチする方が手軽なのは変わらないからです。

 おそらく、都市部で繰り返し利用する人向けにICカード、それ以外のローカルエリアやおトクなきっぷなどはQRコードと、併用されると思われます。

 Suica導入から間もなく20年。すっかり定着したように見えた光景も、確実に、一歩ずつ未来へ進もうとしています。