小学校の必修になるだけでなく大人の間でもプログラミング熱が高まっている(写真:Getty Images)

そこには元日とは思えない光景が広がっていた。

2020年1月1日。東京・渋谷にあるビルでは、午前11時から100人以上がパソコンと格闘していた。その多くが20〜40代のビジネスパーソンで、職種はさまざま。取り組むのはプログラミングだ。1日10時間かつ7日間連続で、パソコン上の教材をこなす。期間は12月30日から1月5日まで。正月休み返上で習得に打ち込んでいたのだ。

この「TECH::CAMP(テックキャンプ)イナズマ」という超短期集中講座を開いたのは、プログラミング教室「テックキャンプ」を運営するdiv。イナズマはゴールデンウィークや夏休みなどの時期に行う。計70時間の学習を終えると、Webサイト制作の基本が身に付き、ツイッターなどのサービスの仕組みも理解できるという。

料金は約20万円。受講者が年末年始の休日という貴重な時間とお金をつぎ込んで学ぶのは、これからのビジネスパーソンにとって、プログラミングが重要なスキルや教養となりつつあるからだ。

「今後の素養として必要になる」

1月14日発売の『週刊東洋経済』は「今年こそ始めるプログラミング」を特集。あらゆる産業でITとの融合が加速する中、新たなビジネスを生み出したり、業務効率化を進めたりする際に役立つプログラミングの基礎を徹底解説している。


イナズマ受講者の1人で、メガバンクで法人営業を担当する男性(32歳)は言う。「金融業界ではデジタライゼーションが進んでいて、銀行にとって戦略の柱だ。業界で必要な知識になるし、3〜5年後のことも考え、武器を身に付けておきたかった」。彼は、2月からフィンテックのベンチャーに転職するという。

物流会社で営業を担当する男性(32歳)も受講者の一人。「会社でリベラルアーツの研修を受けたときに今後の素養として必要だと感じた。今まで学ぶ機会がなく英語より知識が足りない。ドライバー不足の解消に向けた業務効率化など、会社にいろいろ提案できるようになりたい」と話す。


「TECH:CAMP イナズマ」ではメンターが待機し、受講者は不明点をいつでも質問できる(写真は昨年12月30日の様子、撮影:尾形 文繁)

経営層がプログラミングを学ぶメリットも大きい。物流会社セイノースーパーエクスプレス執行役員の山之内大志氏(51歳)は、昨夏にイナズマを受講。「今までは、システムの開発側に『できない』と言われると、黙るしかなかった。受講後はエンジニアの言うことがよりわかるようになり、彼らへの説明の仕方も変わった」という。

社員にプログラミングを学ばせる企業も出てきた。大手総合商社の伊藤忠商事は2017年度から研修を実施している。「システムベンダーなどと適切に協働するための知識を習得してもらいたい。社員自らコードを書く場面は考えづらいが、プログラミングの概念やWebアプリの開発工程への一歩踏み込んだ理解を通じ、デジタルトランスフォーメーション関連の取り組みの迅速化を進めたい」(人材開発室長の清水淳氏)。

今年4月から小学校で必修化

今やほとんどの産業で、ITはビジネスのベースになっている。IT関連市場は拡大が続き、プログラマーなどの人材は足りない。2030年には約45万人不足すると予測されている。プログラミングを学び、ITをより活用できる能力を身に付ければ、仕事の幅が広がる。

子どもにとっても重要だ。今年4月から小学校で必修になる。ただしプログラミング言語を教えるわけではない。主な狙いは「プログラミング的思考」を身に付けさせること。コンピューターは順序立てて過不足なく命令しないと、思うように動かない。用意された命令をどう組み合わせるかを試行錯誤させ、論理的に考える力を養う。

プログラミング教育は、創造力や自ら学ぶ意欲を育むことにも効果があるとされる。保護者の関心も高く、需要拡大を受けてプログラミング教室は増加の一途だ。プログラミング教室の検索サイト「コエテコ」と船井総合研究所の共同調査によると、2018年の国内教室数は4457と2013年比で6倍。2023年に1万を超えると予測される。

プログラミングは、インターネットにつながったパソコンがあればすぐに始められる。「Scratch(スクラッチ)」のように、難しい言語を覚える必要がなく、無料で楽しめるものもある。

文系出身でも恐れることはない。IT企業におけるIT技術者の約3割は、大学の文系学部出身者だ。案ずるより産むがやすし。プログラミングの世界に早速飛び込んでみよう。

『週刊東洋経済』1月18日号(1月14日発売)の特集は「今年こそ始めるプログラミング」です。