サスケ君のSASUKE勝利学 第5回  (第1回から読む>>)

こんにちは、森本裕介です。

 トレーニングも十二分に積んで、いよいよ迎えたSASUKEの収録当日。

 どんなに準備をしても、最終的にはここでの過ごし方が結果を左右する。……と言っても過言ではないほど重要なのですが、意外と軽視されがちです。今回は僕が競技の瞬間を迎えるまで、どのように過ごしているのかを紹介させていただきます。

■受付から勝負は始まっている

 僕の場合、近年の大会ではゼッケン100番や90番台など後ろの番号をいただくことが多いので、受付を済ませてから自分の出番がくるまで長いときで12時間くらいあります。さあ、この12時間をいったいどう過ごすのか。

 SASUKE収録は、受付→コース説明→競技開始という流れで進みますが、まず、受付開始時間よりもだいぶ前には会場の緑山に入るようにしています。なぜかというと、会場の隣の駐車場がわりとすぐに埋まってしまうからです。
 
 SASUKEの会場は屋外なので、特に冬場などは長時間の待機は非常につらいものがあります。長い待ち時間に「駐車場に停めた車の中で休憩したり、暖をとったりする」というのは僕に限らず多くの常連選手が採用している手段です。

 受付開始から1時間ほどで制作スタッフによるコース説明が始まりますが、これが特に大切です。何をするかというと、1stステージのコースをエリアごとに、シミュレーターの試技付きで説明してくださいます。
 
 SASUKEにはシミュレーターという、選手の安全を担保するためのテストスタッフが何人もいるのですが、皆、本番のコースを事前に練習しているので唯一ここが、本番前に生の模範演技が見られる時間ということになります。


森本が当日最重要視する、シミュレーターによる試技を見られるガイダンスの様子。必ず最前列ど真ん中に陣取る

 出場者の熱気、本番直前の緊張感……カメラもたくさん回っています。ある種お祭りのような空気の中、ここはもう最大の集中力でシミュレーターを観察します。

 
 ここで「何をすればクリアできるのか」という答えが明確に提示されるので、例えば新エリアが登場したときなどはこの段階である程度の攻略法を考えます。自分だけではわからない場合は近くの仲間に相談するなどして、有力選手の一番合意が取れるやり方というのを見つけ出します。自分だけが違うやり方を考えていたときなどは頭の中で軌道修正を行ないます。

 例えば、「フィッシュボーン」のバーが増えた回のときには、仲間内で僕だけがバーが増えたことによって変わる動きに気づいておらず、助言によって事なきを得たということもありました。コース説明における観察と情報収集というのは、その日の自分の競技結果にかなりの影響を及ぼします。

 また、このコース説明の際はエリアの付近に100人の出場者がひしめいています。ですから、僕はなるべく最前列をとるようにしています。後ろのほうに紛れてしまって大事なシーンを見逃してしまうというような事態を避けるためです。

■待ち疲れをしないために

 いざ、競技が始まっても自分の番がくるまでにはまだ10時間以上あります。

 SASUKEの1stステージは、だいたいひとり5分程度の収録時間を見越しています(選手と選手の競技の間にコースを拭いたり安全確認をしたりする時間が必ず挿入されるため)。仮にゼッケン50番だったとしても、ゼッケン1番の競技開始から約4〜5時間待たないと自分の出番にはなりません。

 この間、ずっと気を張ったり、ずっとコースに併走してほかの選手の応援をしたりしているわけにはいきません。僕もかつて経験があるのですが、自分の夢の舞台で、特設スタンドに観客が大勢いて、競技スペースの付近には軽食の屋台なども出ている。お祭りのような空間に舞い上がってしまって、一日中ほかの選手の競技を立って見ていたことがあります。

 が、案の定大変なことになりました。まるで何時間もディズニーランドを歩き回ったあとのような感覚で、足はパンパン。とてもじゃないけど普段のパフォーマンスなんて出せるわけがありません。


 ですから、当日発表された競技順を見て、一緒にトレーニングした仲間や有力選手の出番のときには必ずコースの近くにいて、それ以外の時間は適度に抜けて、借りてきたレンタカーの中でひとり、リラックスするようにしています。

 一方で、ゼッケンが早い場合は最初のほうの選手の競技をなんとなく見ているうちにいつの間にか自分の出番になっていて、スタッフに促されて、ろくにアップもできずに大急ぎでスタート位置に連れてこられて……という失敗をしがちです。誰の競技を見てどのタイミングでアップを始め、いつ戻ってくるのかなど、必ず綿密な計画を立てるようにしています。


本番前には全員揃っての準備運動もあるが、ゼッケンによってはこの後だいぶ空いてしまう。ベテラン選手は必ずスタートから逆算して個人でウォーミングアップの時間を取る

■観客席は絶対に見ない

 ゼッケン100番をいただいているときは、だいたい85番の方の競技が始まるくらいから。会場の緑山は観客席の後ろが原っぱのような空間になっているので、そこで軽くジョグをして、体が温まってきたら、一礼してスタートするところから丁寧に1stステージのエリアをイメージした動きを入れていきます。

 前回の第36回大会のときは、1stの通しの動きを10回近くやりました。しかも当日だとスタート音や実況の声も聞こえるので、それに合わせてできるだけアップのときから本番を意識していました。

 本番で気をつけているのは、(スタート位置に立ったときに)絶対に左の観客席を見ないこと。なぜかというと、観客の顔というのはイメージトレーニングの際にイメージしにくいからです。


 いざ本番で観客席を見て、「誰々が心配そうな顔をしている」「誰々が大声で応援している」など、普段の自分のイメージと少しでもギャップが生まれそうな要素、不確定要素は極力排除してしまう。ですから、当日お客さんから名前を呼ばれても絶対に見ません(笑)。客席の反対側、スタート位置から見て右手にオーロラビジョンがあって、ずっとそこを見るようにしています。

 だいたいいつも、1stステージの全景から入って最後にスタートの10秒前くらいから僕(競技者)の顔が映り始めるので、顔がアップになったらカメラを見て礼をする。これはもう、練習のときからまったく同じようにやっているルーティンです。


スタート地点から見て左手には大きな観客席が。森本は極力、こちら側を見ないようにしている

 もちろんこれは僕の例ですので、ほかの選手はその限りではないと思います。
 
 中には観客席を見たほうが、元気が出て良い、という方もいらっしゃると思います。最も重要なのは自分に最適な方法を知っておき、「いかに普段から本番の過ごし方を決めておくか」ということです。

 アップが終わったら、スタート地点の横の、選手が待機できる椅子に座ってじっと出番を待ちます。冬場の大会ではストーブが置かれているので、その前で筋肉が冷えないようにして、あとはひたすら「平常心」でいることをイメージします。

 僕の場合は、イメージトレーニングをするのはアップの段階でおしまい。出番直前はとにかく頭を空っぽにして、心をフラットな状態に保つようにしています。高揚感もない。不安もない。気持ちを盛り上げることも一切しない。その状態まで持っていければ、本番でも限りなく普段のパフォーマンスが発揮できるようになります。

■今週の格言:SASUKEは本番当日の過ごし方が命運を分ける

<プロフィール>森本裕介 Morimoto Yusuke
1991年12月21日生まれ、高知県出身。IDEC株式会社にソフトウェア・エンジニアとして勤務。7歳でSASUKEに目覚め、15歳のときに第18回大会(2007年)で初出場。2015年に史上4人目の完全制覇を達成。第35回、36回大会で出場者100人中唯一FINALステージに進出した、現役最強のSASUKEプレーヤー