YouTubeは、認証プログラムを変更して一部クリエイターの認証を取り消すとした9月19日の発表について、方針を大きく転換した。しかし、この発表は、Google傘下のYouTubeに代わる、ビジネスとして成り立つオーディエンス数や収益性を備えた動画プラットフォームがまだ現れていないことを、クリエイターたちにあらためて思い出させた。一方で、YouTubeに対抗するプラットフォームの育成を期待し、YouTube向けに制作した動画をほかのプラットフォームに安価に同時配信することが模索されている。

デジタル動画パブリッシャーのジェリースマック(Jellysmack)は、YouTube向け動画をFacebookやSnapchat(スナップチャット)向けに編集して両プラットフォームを受動的収益源のようなものにする取り組みを、YouTubeのクリエイターたちとはじめている。ジェリースマックは2〜3年ほど、Facebookページに投稿した動画を最適化する独自ツールの開発に取り組んでいた。アナリティクス企業のチューブラー・ラボ(Tubular Labs)のデータによると、ジェリースマックが運営するビューティー・スタジオ(Beauty Studio)は2019年8月、Facebookで2億6900万ビューを獲得している。そして2019年第1四半期、ジェリースマックは開発したツールをYouTubeスターたちに提供するプログラムを開始した。事業の多角化のためFacebook進出には関心があるが、YouTubeチャンネルの管理も必要なのでなかなか時間がとれないというユーチューバーが対象だ(8月にはミックス先にSnapchatを追加した)。ジェリースマックはまた、動画をFacebookページ向けに編集するのを支援するほかに、Facebookで動画を広告として宣伝するのに資金を投資して、クリエイターのFacebookにおけるオーディエンス獲得にも協力している。

ジェリースマックのCEOのマイケル・フィリップ氏によると、いまはクリエイターの動画についてFacebookが販売する広告の収益をジェリースマックとクリエイターとで分け合っており、Facebook上の動画についてジェリースマックが直に広告を販売することはできない。フィリップ氏は、収益を具体的にどう分けているのかは明かさなかったが、「Facebookで月に何十万ドル」と稼ぐ参加クリエイターも出てきていると教えてくれた。クリエイターたちの動画を最適化ツールで処理していくと、ジェリースマックがFacebookページに投稿しないようなコンテンツについても、ツールが対応できるようになっていく。いずれジェリースマックのオリジナル番組でスターになるようなクリエイターたちとの関係構築につながることをフィリップ氏は期待している。

Facebook苦戦の理由



このジェリースマックのプログラムがYouTubeスターやそのマネージャーからみて魅力的なのは明らかだ。「簡単にお金になる」と、タレントマネジメント企業のセレクト・メディア・マネジメント(Select Media Management)のパートナー、アダム・ウェスコット氏はいう。「ただ、検証されていない部分が少し残っている。またFacebookだとインプレッション単価(CPM)がYouTubeにかなわない」。

FacebookがFacebookの動画クリエイターを奨励する一方でYouTubeスターの取り込みに苦戦しているのには、ふたつの理由がある。ニュースフィードをスクロールしていく受動的なオーディエンスとは対照的な、YouTubeのような意図的なオーディエンスがFacebookで継続して大量に得られるのか、YouTube中心のクリエイターからすると不安だというのがまずひとつ。さらに、そうしたオーディエンスがFacebookにいたとしても収益が伴わず、少なくともFacebook向けオリジナル動画の制作やYouTube向け動画をFacebook向けにする編集に見合うようなものにはならないだろうというのがある。YouTube動画とまったく同じものをFacebookに投稿することはできるだろう。理論的には良いのだが、実際問題としてどうなのかがわからない。「簡単そうだが、マネタイズの点であまり儲けにならないのが本当のところだ」と、タレントマネジメント企業のデジタル・ブランド・アーキテクツ(Digital Brand Architects)のタレント担当バイスプレジデント、クリスティーナ・ジョーンズ氏は語る。

YouTube中心にやってきたクリエイターたちは、Facebookに進出しようとするとジレンマに陥る。2017年以来、構築したコンテンツ戦略に磨きをかけ、YouTubeで390万人の登録者を集めているリジー・カプリ氏は、この成功をFacebookでも再現したいとは思っている。しかし、Facebookは「まったくの別物を学ぶ」ことになるため、YouTubeチャンネルのときと同じように時間と労力が必要になることはわかっていると話す(同氏はジェリースマックのプログラムに参加していない)。リジー・カプリ氏によると、たとえば、YouTube動画は通常10分を超えるので、3〜5分の動画のパフォーマンスがよいFacebook向けに編集する必要がある。加えて、FacebookのオーディエンスのプロフィールがYouTubeのオーディエンスと比べてどうなのかを判断し、それを考慮して動画をFacebook向けにカスタマイズする必要もでてくる。Facebookでチャンネルを成功させるのに必要な労力がわかるので、「そのための処理能力がいまはない」こともわかるのだと、同氏は語った。

受動的収益源にはなる



一方、「Infinite」の名で知られるクリエイターのカイラス・カニンガム氏は、Facebookでチャネルを大きくする時間はおそらく作れると語る。ただ、その必要がないのだ。カニンガム氏はジェリースマックのプログラムに参加している。「(ジェリースマックに)任せる」ことができている理由について、「結局のところFacebookページの運営方法は向こうがわかっていて僕はよくわからない。僕にわかるのはYouTubeだ」と同氏は説明した。

カニンガム氏はFacebookを知ろうとしたことがある。2018年のはじめ、試しにゲーム関連の動画をFacebookにアップロードするようにしたところ、フォロワーは2万人ほどしか集まらなかった。2016年に真剣に取り組みはじめたYouTubeで集まった登録者数が1200万を超えているのと比較すると、かすむような数字だ。そこで2019年4月ごろから、ジェリースマックと提携してYouTube動画を新しいFacebookページ向けに編集するようにした。そのFacebookページは現在、200万人がフォローしている。

ジェリースマックのツールによる編集内容は、タイトルやサムネイルなど、なんでもクリエイター側でカスタマイズできる。しかし、カニンガム氏はたいていツールによる最適化をすべてそのままにしている。ツールでは多くの場合、YouTube動画の最初と最後が削除され、アスペクト比が修正される。元の動画がYouTube向けに横長に作られているのを、スマートフォンを縦に持った時により見やすいようにするためだという。

カニンガム氏はFacebookでたくさんのフォローを集めたが、視聴数も収益もYouTubeのほうが多いのは変わっていない。YouTube動画は視聴数も広告収益もFacebook動画のおよそ2〜3倍だという。しかし、YouTube向けの動画をFacebook向けに作り直す力仕事をジェリースマックがやってくれることを考えると、Facebookの視聴数と収益は、ほとんどすべてが利益にあたる。こうしてジェリースマックによって、いわば受動的収益源になったFacebookは、カニンガム氏のコンテンツ戦略で、徐々に積極的な役割を果たすようになってきている。「YouTube向け動画の制作中に、時折Facebookのことを考えるようになった」と、カニンガム氏は語った。

Tim Peterson (原文 / 訳:ガリレオ)