タント〔photo〕ダイハツメディアサイトより

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「軽乗用車のスーパーハイトワゴン」が売れるワケ

2019年の上半期(2019年1〜6月)には、日本国内で229万台の乗用車が販売された。この内の35%を軽乗用車が占める。

タント〔photo〕ダイハツメディアサイトより

1980年頃の軽乗用車比率は20%前後だったが、1993年に背の高い初代スズキワゴンRが発売されると、ライバル車も登場して比率が増え始めた。1998年に軽自動車の規格が改訂されて、ボディサイズが今日と同じになると、30%前後まで増えた。その後さらに増加して今では35%に達する。

そして軽乗用車の販売総数の50%近くが、全高を1700mm以上に設定したスライドドアを備えるスーパーハイトワゴンだ。

従って国内の販売ランキングの上位車種も、今は軽乗用車のスーパーハイトワゴンが独占する。

2019年上半期の順位を見ると、1位はホンダN-BOX、2位はスズキスペーシア、3位はダイハツタントで、トップ3車はすべて軽乗用車のスーパーハイトワゴンであった。

さらに4位も日産デイズ&デイズルークスだから、上位車種は軽乗用車で占められる。5位になって、ようやく小型/普通車のトヨタプリウスが入った。

このように軽乗用車のスーパーハイトワゴンが好調に売れる背景には、複数の理由がある。

安全装備も大幅充実!

まずクルマが生活のツールになり、実用重視で選ぶユーザーが増えたことだ。

前述のように軽乗用車の比率は、1980年頃は約20%だったが、2000年頃には30%に達している。時間が経過するほどユーザーの意識が実用指向に傾いてきた。

1990年代の中盤には、スライドドアを備えたミニバンが続々と登場して、ファミリーカーの定番になっている。そうすると1990年以降に生まれたユーザーは、ミニバンに親しんで育った。中高年齢層にとってクルマの基本形はセダンだが、今の30歳以下の年齢層はミニバンだ。

そうなると軽乗用車のスーパーハイトワゴンが選ばれやすい。

N-BOXやスペーシアを見れば分かる通り、ボディは小さくても背が高く、後席のドアはスライド式になる。

3列のシートが欲しい時はミニバンを選ぶが、2列なら軽乗用車のスーパーハイトワゴンで十分だ。空間効率が抜群に高く、後席を畳めば大人用の自転車も積める。「軽乗用車では狭いから小型/普通乗用車を選ぶ」という判断にはならず、軽乗用車で完結する。

スペーシア〔photo〕スズキメディアサイトより

軽乗用車の選択に抵抗感がなくなったことも普及した要因だ。

1980年頃までの軽乗用車は車内が狭く、内装の造り、走行性能、乗り心地などに不満を感じたが、今のN-BOXやスペーシアは立派になった。車内は広く、質感や走りにも不満はないから、選ぶ時の抵抗感も薄れた。

関心の高まった安全装備が大幅に充実したことも、軽乗用車が選ばれる理由だ。

歩行者を検知できる緊急自動ブレーキの装着は当たり前で、車間距離を自動制御するクルーズコントロールなど、ドライバーの疲労を軽減させる運転支援機能も備わる。

この価格はおトクだ

ちなみに先ごろ大幅なマイナーチェンジを行った日産スカイラインのターボエンジン搭載車とか、トヨタエスティマなどの緊急自動ブレーキは、いまだに歩行者を検知できない。

安全装備は小型/普通乗用車よりも、軽乗用車の方が先進的と感じさせるほどだ。

このほか軽乗用車の売れ行きには、クルマの価格が全般的に高まったことも影響した。今は安全装備や環境性能の向上もあり、クルマの価格が10年前の1.2倍くらいに上昇している。

例えばファミリーカーの定番とされたセレナ/ヴォクシー/ステップワゴンなどのミドルサイズミニバンは、10年前なら買い得グレードの価格が210〜220万円だったが、今は250〜260万円だ。これでは予算を超過することもあるだろう。

軽乗用車のスーパーハイトワゴンも値上げされ、タントXは10年前の価格が121万8000円、 2019年7月にフルモデルチェンジされた新型のXは146万3400円だ。この値上げ率も1.2倍で、以前の軽乗用車に比べれば高価だが、ディーラーオプションのカーナビや諸費用を加えて総予算は170万円くらいだ。250〜260万円のミドルサイズミニバンにカーナビや諸費用を加えて、300万円に達するのに比べると、予算を大幅に削減できる。

タントX〔photo〕ダイハツメディアサイトより

クルマの使われ方の変化もある。

今は昔と違って妻も運転するから、ほとんど休日しか乗らない夫に比べると、使用頻度が圧倒的に高い。ファミリーカーはクルマを毎日の買い物に使い、家計の管理も担当する奥様目線で選ばれ、軽乗用車の普及を促した。

所得の伸び悩みも影響している。平均所得は1990年代の終盤にピークを迎え、そこから減少に転じた。リーマンショックの影響を受けた2009年に最も下がり、今は増加傾向だが、20年前の水準には戻っていない。

所得が減ってクルマが値上げされたら、サイズを小さくするしかない。小さなクルマに乗り替える「ダウンサイジング」の背景には、ユーザーの切実な経済事情があり、その結果として軽乗用車は売れ行きを伸ばした。

「全高1790mm」をどう考えるか

ただし売れ筋カテゴリーになる軽乗用車のスーパーハイトワゴンには、欠点も多い。

まず全高が代表車種のN-BOXで1790mmと高い。1600〜1700mmになるハイトワゴンのN-WGNは1675mmだから、N-BOXは100mm以上も背が高い。

そうなると車両重量は、N-BOXのG・Lホンダセンシングが890kgだから、N-WGN・Lホンダセンシングの850kgに比べて40kg重い。背が高ければ空気抵抗も増える。

ホンダN-BOX〔photo〕gettyimages

背が高く重いボディは、さまざまな機能に影響を与え、まずは燃料消費量が増える。N-BOXのG・LホンダセンシングのJC08モード燃費は27km/L、N-WGN・Lホンダセンシングは29km/Lだ。N-BOXの燃料消費量は、N-WGNに比べて7%ほど増えてしまう。

背が高くボディが重ければ、動力性能も悪化する。N-BOXやスペーシアのノーマルエンジン搭載車は、平坦な街中を走る時には不満を感じないが、峠道や高速道路の長い登り坂ではパワー不足を実感する。

そこでスーパーハイトワゴンの全車にターボが用意され、動力性能が1Lエンジン並みに高められてパワー不足を解消するが、価格も上昇するからノーマルエンジン車を選ぶユーザーが多い。

その点でN-WGNのような全高を1700mm以下に抑えたハイトワゴンは、スーパーハイトワゴンに比べるとボディが軽く背も低いから、動力性能も不足しにくい。

操舵感覚や走行安定性にも違いがある。

N-BOXの全高は前述のように1790mmだから、全幅の1475mmを大幅に上まわる。全高は全幅の1.2倍だ。

この比率を5ナンバーサイズの小型車(全幅:1695mm)に当てはめると、全高が全幅の1.2倍なら2mを超えてしまう。5ナンバーミニバンの中で特に背の高いセレナでも全高は1865mmだから、N-BOXのボディは相当に縦長だ。現行型は操舵感と運転感覚をかなり改善したが、それでも腰高な印象は否めない。

このようにスーパーハイトワゴンは、動力性能と走行安定性で不利になる。広い車内を生かして4名で乗車すれば、走りは一層辛くなってしまう。

N-WGN、ワゴンR、ムーヴ…

スーパーハイトワゴンの後席に装着された人気の高いスライドドアにも注意点がある。

開閉時にドアパネルが外側に大きく張り出さない代わりに、手動式では操作に体力を用意する。そこで電動機能を装着すると、価格は片側で5〜6万円、両側なら10〜12万円ほど高まる。

車両重量はさらに重くなる。電動式は開閉速度を高めると危険が生じるため、少しゆっくりと動くから、ユーザーによっては乗り降りに時間がかかると感じるだろう。

子供の飛び出しにも注意したい。横開きドアは、開いた時でも斜め前方が塞がれるが、スライドドアは大きく開放される。従って飛び出しを誘発しやすい。特に路上のコインパーキングに駐車した時は危険が伴う。

右側のドアを開けば外側は車道で、スライドドアは開閉時の張り出しが少ないため、右脇を走るクルマからドアを開いたことが分かりにくい。開口部が開放的だったり、開閉時にドアパネルが張り出さないのはスライドドアのメリットだが、路上に駐車した時などは安全を阻害する欠点になり得る。

そしてすべてのユーザーが、スライドドアを便利に使いこなすわけでもないだろう。子供を抱えた状態で乗り降りするような機会がなければ、横開きドアでも問題はない。

荷室の広さも同様で、後席を畳んで自転車を積むような使い方をしないのであれば、N-WGNのような全高が1600〜1700mmのハイトワゴンでも満足できる。ハイトワゴンは、スーパーハイトワゴンに比べると、動力性能、走行安定性、燃費が優れ、価格は同等の装備を持ったグレード同士で比べて15万円は安い。

そうなると軽乗用車を選ぶ時は、まずN-WGN、ワゴンR、ムーヴのような全高が1600〜1700mmのハイトワゴンを検討すると合理的だ。

そこで室内高に不満を感じたり、スライドドアが欲しいと思った時に、N-BOX、スペーシア、タントなどのスーパーハイトワゴンを候補に挙げる。

足元空間はどうか

また軽乗用車の中では背が低いスズキアルトやダイハツミライースでも、車内は意外に広い。プラットフォームはスペーシアやタントと共通で、空間効率が優れているからだ。

身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は、アルト、ミライースともに握りコブシ2つ分を確保する。ミドルサイズハッチバックのマツダ3は1つ半だから、足元空間の前後方向はアルトやミライースが広く、大人4名が快適に乗車できる。

この2車種であれば、全高も1550mm以下に収まり、立体駐車場を利用しやすい。最小回転半径もアルトであれば4.2mだから、街中での取りまわし性は抜群だ。

さらに車両重量は700kg以下だから、スーパーハイトワゴンに比べて約200kg軽く、燃費効率が究極的に高まって動力性能も向上する。アルトのJC08モード燃費は37km/Lだから、ハイブリッド車のアクアと同等だ。

価格は歩行者を検知できる緊急自動ブレーキなど各種装備を標準装着して110万円以下だから、燃費と併せて経済性がきわめて優れている。短距離移動が中心ならばファミリーカーとしても使えるから、必要に応じてアルトやミライースも検討したい。

このほかにも軽乗用車には、軽商用車をベースにした荷室が際立って広いエブリイワゴンやアトレーワゴン、SUVのジムニーやハスラー、スポーティクーペのS660やコペンなどを選べる。ボディサイズやエンジン排気量を共通化しながら、多種多様の商品をそろえるのも軽乗用車の魅力だ。スーパーハイトワゴンに限らず、幅広い車種を検討したい。

そして軽乗用車は、すべての車種が日本のユーザーと道路環境を対象に開発されている。運転した時に感じる説得力は、海外向けになった小型/普通乗用車に比べると格段に強い。軽乗用車を運転した経験のない読者諸兄も、機会があったら販売店などで試乗されると良いだろう。新車需要の40%近くを占める理由がお分かりいただけると思う。