陸上自衛隊のヘリコプターが訓練中に不時着、大破しました。飛行中のエンジン停止を想定した訓練と見られますが、そのような状況でもすぐには墜落させない、ヘリやティルトローター機などに特有の緊急着陸の技術があります。

「空中でトラブル時の着陸訓練」とは?

 2019年6月21日(金)午前10時ころ、陸上自衛隊立川駐屯地内飛行場(東京都立川市)において、陸上自衛隊東部方面隊所属の主力多用途ヘリコプター、UH-1J「ヒューイ」が不時着、大破するという事故が発生しました。幸いにも搭乗中だったパイロット2名に怪我はありませんでした。


陸上自衛隊のUH-1J多用途ヘリコプター(画像:陸上自衛隊)。

 6月22日現在、事故についての調査報告はまだ公表されていないため、原因について断定することはできませんが、一部報道によると、空中におけるトラブルを想定した着陸訓練を行っていたとされます。もし、これが事実であるならば、大破機は「オートローテーション」と呼ばれる、エンジン停止状態における緊急着陸訓練を実施していたと見られます。

 ヘリコプターは万が一エンジンが停止してしまった場合でも、メインローター(回転翼)それ自体に巨大な運動エネルギーが保存されているため、即座に墜落に至ることはありません。十分な対気速度(前進速度)と高度さえあれば、ゆっくり降下する「オートローテーション」が可能です。

「オートローテーション」の仕組み

 ヘリコプターの機種やエンジンが停止した状況などによっても異なりますが、オートローテーションを行う場合は一般的に、ある程度の対気速度を維持し、メインローターの迎え角(空気に対する翼の角度)を小さくし回転数を落とさないようにしつつ、比較的高い降下率で前方に向かって高度を下げます。

 そして地面に接近したならば機首を大きく上げ減速、同時にメインローターの迎え角を高め、得られる揚力を大きくすることで降下率を小さくする「フレア」と呼ばれる操作を行います。フレアによって対気速度はほぼゼロとなり、機体や搭乗者を傷つけることなくゆっくりと軟着陸することができます。オートローテーションとはヘリコプターを“竹とんぼ”化するとも言い換えることができます。


陸上自衛隊のCH-47J輸送ヘリコプター。2基のエンジンを搭載する(画像:陸上自衛隊)。

 CH-47「チヌーク」のような大型ヘリコプターやV-22「オスプレイ」のようなティルトローター機でも、オートローテーションは可能です。ただし「チヌーク」や「オスプレイ」のような大型機では、オートローテーションを行うために必要な速度と高度に厳しい制約があり、低空・低速時では致命的な状況に陥りやすい弱点があります。

 そのためある程度の大きさ以上のヘリコプターでは、オートローテーションが必要な状況、すなわち動力喪失という最悪の事態に至らぬよう複数のエンジンを搭載することが普通であり、自衛隊が保有するヘリコプターの多くは2基から3基のエンジンを搭載し、1基が停止しても飛行を継続することができます。

大破機には何が起きたと考えられる?

 一方で今回、大破したUH-1Jには1基しかエンジンがありませんから、オートローテーションに備えた訓練は比較的、重要となります。UH-1Jは幸いにも、これまで飛行中のエンジン停止を主要因とする不時着・墜落事故が発生したことはありません。今回の大破事故においては、報道されたようなオートローテーション訓練中のものであったとするならば、実際にはエンジンは停止させず出力だけを下げた状態で行ったものと考えられます。

 現時点において事故原因を断定することはできませんが、2名のパイロットが負傷しなかった事実や、テールブーム(機体後方のテールローターへつながる部分)が大きく破損している状況から、フレア時において何らかの原因でテールストライク(尾部接地)が発生し、不時着に繋がったのではないかと筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)は推測します。


UH-1J多用途ヘリコプターは乗員2名に加え、最大11名が搭乗可能。(画像:陸上自衛隊)。

 なお陸上自衛隊はこれまで、主力ヘリコプターとしてUH-1シリーズを約50年にわたり運用、初期型のUH-1B、大型化したUH-1H、独自の国産型UH-1Jと調達を重ねてきました。UH-1B、UH-1Hはすでに全機が退役、また2019年にはUH-1Jの後継となる第4代目のUH-2(プロトタイプのXUH-2)が初飛行しています。UH-2は名称こそ異なりますが同じUH-1シリーズの血を継承した発展型であり、見た目も非常によく似ています。一方で近年の島しょ防衛重視の流れから、エンジン停止が致命的事故につながりやすい海上での作戦を見越し、双発化(エンジン2基搭載)されるなど、大きく設計が見直されています。

【写真】UH-1J後継機、XUH-2


スバルとベル・ヘリコプター(アメリカ)の共同開発によるUH-2プロトタイプのXUH-2。2019年3月8日、陸上自衛隊航空学校本校のある明野駐屯地(三重県伊勢市)へデリバリーされた(画像:陸上自衛隊航空学校)。