いずも型護衛艦の空母化改修に関して、「攻撃型空母」なのではないかという批判が上がっていますが、一貫してそれを否定している軍事アナリストの小川和久さん。自身のメルマガ『NEWSを疑え!』で今回は、「攻撃型空母」とは、空母単体で成り立つものではないということを具体的に解説。日本が本当に「攻撃型空母」を保有する場合の必要戦力も提示し、如何にそれが非現実的なことであるか明解に説明しています。

「攻撃型空母」とはどういった戦力なのか

読者の方から、護衛艦『いずも』のF-35B戦闘機を搭載できる方向での改修についてご質問がありました。マスコミなどが「攻撃型空母になる」と批判しているのは疑問だということです。

そこで、「攻撃型空母」とはいかなるものかをご説明し、日本が「攻撃型空母」を持つための条件を述べてみたいと思います。

空母打撃群(Carrier Strike Group、CSG)は、米海軍の戦闘部隊の一つで、航空母艦1隻とその艦載機、1隻以上の巡洋艦、2隻以上の駆逐艦、1隻以上の補給艦、1隻以上の攻撃型原潜で構成されるのが基本です。しかし、米海軍サイトに『打撃群は必要に応じて構成・廃止され、他のものと異なるかもしれない』とあるように、艦艇数は一定ではありません。

2006年までは空母を護衛する艦艇は6隻が基本でした。それが、高性能なアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦(イージス艦)への置き換えによって、基準の3隻の場合でも防空能力は高まっています。 米国の空母打撃群は全部で11個群ですが、横須賀を母港とするロナルド・レーガンの第5空母打撃群は、イージス・ミサイル巡洋艦3隻、イージス・ミサイル駆逐艦7隻を備える世界最強の空母打撃群なのです。これに4万トン級の補給艦と2〜3隻の攻撃型原潜がつきます。

空母打撃群の航空機は、空母が搭載しているものだけで戦闘機48〜52機、ヘリ、早期警戒機、輸送機など80機以上にのぼります。

ロナルド・レーガンの打撃群の場合、巡洋艦、駆逐艦、攻撃型潜水艦が搭載するトマホーク巡航ミサイルは300〜400発。さらにオハイオ級巡航ミサイル原潜の154発が加わると、合計500発前後の対地攻撃能力となります。これに48〜52機の戦闘機の対地攻撃能力が加わります。

これが「攻撃型空母」です。米国は2〜3個の空母打撃群を相手国に突きつけて、戦火を交えることなく相手を屈服させてきました。1996年3月の台湾海峡への中国の弾道ミサイル発射は、2つの空母打撃群を展開することによって収束しました。2つの空母打撃群の戦闘機の数と能力はオーストラリア、イタリアなどの空軍力を上回るものですから、中国といえども引っ込まざるを得なかったのです。中国が海空軍力の増強を進めているのは、このときの屈辱を晴らしたい面があることはいうまでもありません。

もちろん、空母打撃群を中心とする海軍以外にも、強力な空軍、海兵隊、陸軍が敵国への侵攻能力を備えています。これくらいの能力があって始めて、12月13日号に書いたように「戦争を終わらせる能力を備えた国」として、場合によっては先制攻撃も可能になるのです。

日本が「攻撃型空母」を保有する条件とは

そこで日本が攻撃型空母を保有する条件ですが、それは米国が許しません。日本が攻撃型空母と攻撃型原潜を持つことは、日本が軍事的に自立する証だからです。日本が日米同盟を選択している以上、その点を見逃してはならないのです。

それに、日本が日米同盟を解消して軍事的に自立し、攻撃型空母の打撃群を持とうとしたら、どんな事態が起きるでしょう。

横須賀にいるロナルド・レーガンは定員5680人で、うち2480人は航空要員です。これにイージス艦10隻、攻撃型原潜が2〜3隻と補給艦がついて空母打撃群を構成しています。人数の話をすれば、空母の5680人に加えて、イージス艦の乗組員320名×10、原潜の乗組員130人×3として、3500人ほどが必要です。つまり1個空母打撃群で約9000人が必要になるのです。

しかも、1個を即応態勢に置くには整備・点検に入るもの、教育・訓練に使うものと合わせて3個空母打撃群が必要ですから、その3倍で3万人弱の兵員を海上に配置しなければなりません。

海上自衛隊の場合、空母は5万トン級の通常空母、護衛艦も4〜5隻にします。それでも空母打撃群に3000人ほどの人員が必要です。3個ほどをオン・ステーションにすることを考えると、教育・訓練は合理化するとしても空母打撃群6個を整備しなければなりません。これだけで2万人ほど必要になります。現在の海上自衛隊の定員は約4万5000人。これを7〜8万人に増強しなければ、空母打撃群を保有することはできないのです。

もちろん、海上自衛隊の予算も現在の2〜3倍以上にする必要があるでしょう。いま以上に港湾を整備し、母港の近くに飛行場を建設し、戦闘機も多数そろえなければなりません。マン・パワーについては当然、徴兵制の実施も含めて手当てを考える必要があります。

以上を考えれば、『いずも』の改修に関する「攻撃型空母」という批判も、その反対側にある「空母保有論」も、リアリティに欠けていることは明らかでしょう。(小川和久)

image by: Kaijō Jieitai (海上自衛隊 / Japan Maritime Self-Defense Force) [CC BY 4.0], ウィキメディア・コモンズ経由で

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