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●10年前と今では子育て方法が違う

今や一人に1台の所持が当然のようになったスマートフォン(スマホ)。中には用途ごとに2台、3台を持ち歩いている人も珍しくない。ちょっとした仕事用のメールからおいしいご飯屋探し、さらには暇つぶしのための動画やゲームアプリなど、この「小さなパソコン」は私たちのさまざまなニーズに対応してくれる。

そんななか、近年このスマホを育児に活用するパパ・ママも増えてきた。自宅で日常的に子どもにスマホをいじらせたり、公共の場で泣きじゃくる乳幼児に動画を見せてなだめさせたりといった具合に使うケースが散見される。

「発育面を考えれば、スマホの使用は子どもにとってよくないはず」と思いつつ、かんしゃくを起こしている我が子を落ち着かせようと、ついスマホの力を借りてしまっているパパ・ママもきっといるはずだ。

では、幼少期からスマホに触れることは子どもの発育にどのような影響を与えるのか。そして、子どもはどのようにスマホと付き合っていくべきなのか。小児科医で、自身も2児の母である竹中美恵子医師にうかがった。

○子どもが2歳になるまで公共交通機関は避けた

――友人・知人から、「電車内やデパートで子どもが突然泣き出すとすごく慌てて困ってしまう」という話をよく聞きます。

家の中でならまだしも、幼い子どもを持つ親なら誰しもが悩まされる問題ですよね。最近は女性の社会進出も進み、ご自身のキャリアを考えるとブランクをあけるわけにはいかないと、子どもを持たない選択をする女性も増えてきているのが現状です。

このような選択をする人もいるなかで、日本での子育ては海外に比べ非常に息苦しくなっています。実際私も、仕事が終わった後にみんなで話し合うカンファレンスには保育園に子どもを迎えに行ってから絶対に出席しなければいけませんでした。でも、乳飲み子が泣き出すと、「うるさいから出ていけ」と言われ、「じゃあどうしたらいいのか」と、おやつを持っていったり、抱っこ紐で踊りながらカンファレンスに参加したりといった経験があります。

――先生ご自身もとても苦労なされたのですね。

そのことがトラウマになり、子どもが2歳頃になるまでは、新幹線や公共の乗り物に乗るのが恐怖となり、ほとんどタクシーや自家用車移動だったことを思い出します。「泣いたら眠いかお腹がすいているかのどちらかでは?」といったことを言われますが、実際に子育てをしてみるとそんなに甘いものではありませんでした。

お腹を満たしても、寝かそうとしても、機嫌が悪いときは大泣きするのが子どもです。後から聞くと、「お菓子を落として悲しかった」とか「ママの口調が怖かった」など、大したことではないケースが多いのですが、公共の場でそんなことを丁寧に話している暇はありません。周りの視線を気にしつつ子どものことも気にしていたら、1人泣き出して2人目も泣き出す……。ノイローゼになってしまいますよね。

○子どもはスマホからさまざまなことを学ぶ

――そんなとき、スマホに頼ってはいけないのでしょうか。

私は頼るべきだと思います。誰も「スマホに子育てをさせよう」と思って頼っているわけではなく、仕方なく頼らざるをえない状況で頼っている場合の方が多いのではないでしょうか。

実際問題として、スマホを育児に使うお母さん方への世間の目は非常に冷たいものですが、大人もテレビやラジオを見聞きするように、子どももスマホから新しい情報を得て学びます。最近は知育アプリもありますし、都市では体験できないようなことを疑似的に経験できたり、生活の知恵を学べたりできます。中には、スマホで英語の歌を歌えるようになった子もいました。

確かに、長時間の使用は視力低下などが懸念されますが、近年はパソコンでアプリを使用して教育する保育園や幼稚園も出てきています。今からのメディア社会を考えれば、スマホを使用して悪いことは一つもないと思います。

――スマホを活用した育児は時代に即している、ということでしょうか。

10年前と今とでは、子育ては異なります。私もかつて抱っこばかりしてたら、「抱きグセがつくからやめた方がいいよ」と見知らぬ人に言われ、内心、「あなたの子どもじゃなく、私の子どもです。私が決めるので放っておいて」と思った経験があります。

この記事を読まれている方の大半は、実際に育児をされているパパ・ママでしょう。子どもの親はあなたです。あなたが「良い」と思うことは、人になんと言われようと良いのです。スマホ使用も、利用時間を決めたり、「一つのテーマが終わるまで」「電車を降りるまで」といった具合にルールを設けたりして使えば、全く問題ないと思いますよ。周りの言うことは気にしないようにしましょう。

子どもは飽きやすい生き物です。スマホを使用する前に例えば、持ち運びできるおもちゃで遊ばせてみたり、小さな絵本を読ませてみたり、簡単なゲームなどをさせたりして、それでもダメであれば、気分を変えるためにスマホに力を借りるのもありでしょう。

●子どものスマホ使用がもたらすメリットとデメリット

――なるほど。ただ、乳幼児時期からスマホを使用するとなると、少なからず子どもの発育に影響も出てくると思いますが、その点についてはどのようにお考えでしょうか。

これはメリットとデメリットがそれぞれあります。まずメリットとして「大人が教えるのを忘れがちなことを学べる」という点が挙げられます。

例えば、「知らない人についていっちゃダメ」「いざというときにどうやって助けを求めるか」「赤信号のときは止まれ」など、大人からすれば「常識的すぎて教えていないこと」を教えてくれる知育アプリも最近はたくさんあります。もちろん、色や数字、文字、歌などの一般的なものも子どもたちはスマホから学べます。

また、実際に餅つきをした経験がない我が子が餅つきの真似をしたとき、臼の中の餅をこねる動作をしたことががありました。「どこで覚えたの? 」と尋ねると、「動画でやっていたよ」と。このような経験から、「育児におけるスマホ利用は一概にすべて否定的に考えるべきではない」と実感しました。

私の友人の子には、アプリをいろいろな語学で聞いた結果、5カ国語が話せるようになった子もいました。安全なものをチョイスして見せれば、子どもの教育にとってプラスになることもあります。

「使用前にお母さんと一緒に番組をチョイスする」「不適切な動画が見られないようにスマホにセーフサーチなどのロックをかける」「クレジットカードのようなお金が絡む情報はスマホ内に入れないようにする」といった工夫を事前にしておくといいですね。

――確かに「赤信号で止まる」なんて、大人からすると当然すぎて「教えないといけない」という発想に至らないかもしれませんね……。盲点でした。ではデメリットとしてはどのようなことが考えられるのでしょうか。

長時間のスマホ使用に伴う視力低下やスマホへの愛着障害が考えられますね。そのほか、「攻撃的になる」「抱っこを好まなくなる」「スマホで学んだ汚い言葉使いをまねる」「教えていないフレーズを口に出す」「じっとしていられない」「話を落ち着いて聞けない」「会話が一方的になる」「視線が合いにくい」「すぐに叩いたり蹴ったりする」などがあります。

また、子どもは授乳中にお母さんの顔を非常によく見ています。お母さんが授乳しながらスマホばかりいじっていると、子どもも「それが当たり前」と思ってスマホに依存するようになり、表情が乏しく、人の言うことを聞かなくなる傾向があります。

○子どものスマホ使用、限度時間の目安は?

――大人でもスマホのゲームアプリに没頭するあまり、日常生活に支障が出る「ゲーム依存症」が問題視されているぐらいなので、子どもにも過度の使用による弊害が出てくるのは、ある意味で当然ですよね……。一日の使用時間の目安はあるのでしょうか。

おおよそ、「2歳以上では2時間まで」が一つの目安になるのではないでしょうか。それ以下の年齢のお子さんですと、一回の視聴を15分程度にとどめたうえで、一日に2〜3回までといったところでしょうか。

テレビの話になってしまいますが、幼い子が集中できる分数で番組を完結させ、なおかつ子どもが興味を抱くように一つの番組を3〜4つの展開で構成させている番組もあります。親御さんがお子さんと一緒にテレビをご覧になるなかで、こういった条件に合致する番組があれば、積極的に見させるのもいいでしょう。

私も2歳から高校生になるまで毎日、特定の教育番組を見て育ちました。子どもの教育に必要な要素もふんだんに盛り込まれており、小児科医の立場からしても推薦できます。

スマホの動画やテレビの視聴は一回あたり30分までにしておき、見終わったらダンスを踊るとかご飯を食べるなどして、子どもの目のためにも休憩を必ず取らせるようにしましょう。

――「スマホを見る際のルール作り」が大切だということですね。

そうですね。ルールという点では視聴時間の制限もそうですし、見る番組や動画を決めることも重要です。また、ご飯を食べながらなどの「ながら見」は、一つのことに集中できなくなる可能性が懸念されるため、見るときは見るだけ、食べるときは食べるだけに集中させるようにしましょう。その代わり、今日あった面白い話をしたり一緒に料理を作ってみたりと、子どもを退屈させないようにするのが大切ですね。

「子どもの1カ月は大人の1年」とも言われるほど貴重です。幼少期に豊かな心を育てられるよう、コミュニケーションの時間を減らさない努力をパパ・ママがしましょう。

●スマホを育児に有効活用するためのコツ

――これまでにお話をうかがってきたなかで、使い方次第でスマホは育児にとってプラスになりそうだなと感じました。育児をするにあたり、スマホをより有効活用させるにはどうしたらよいのでしょうか。

まずは、子どものスマホ依存を防ぐため、パパやママが子どもの前でスマホをいじりすぎないようにしましょう。親の背を見て子は育ちます。そして「時間を区切って」「親子でルールを決めて」スマホを使用するように約束すれば、ルールを守る教育にもなります。

また、可能な限り、お母さんも一緒にスマホを見て時間を共有してあげてください。子どもの頃の記憶というのは長く残ります。見ているものに対して共通の話題ができ、話のネタにもなるのでますますよいと思います。

子どもと一緒に居られる時間は本当にわずかです。「あれもしてあげたかった」「これもしてあげたかった」などと悔やむ前に、「今、この瞬間」に我が子と十分にスキンシップを取ってあげてください。家事なんて、やらなくても死にません。部屋が汚れていても、ゴミがたまっていても、子どもがわかる時期になれば、それをゲーム感覚でやれるときが来ます。

つらいときにスマホで救われるお母さんはたくさんいます。実際に私もそうでした。小児科医が自分の子どもにスマホを見せていることに驚かれている方もいらっしゃいましたが、私自身は子どもにとって役立つアプリもあったので、活用しない手はないと考えて見せていました。

スマホは「敵」ではなく「味方」です。上手に使用すれば、親も子どもも頼れる存在になります。過剰な使い方や誤った使い方をしなければ、「活用はむしろすべき」と子育て中の私も考えていますよ!

※写真と本文は関係ありません

○取材協力: 竹中美恵子(タケナカ・ミエコ)

小児科医、小児慢性特定疾患指定医、難病指定医。「女医によるファミリークリニック」院長。

アナウンサーになりたいと将来の夢を描いていた矢先に、小児科医であった最愛の祖父を亡くし、医師を志す。2009年、金沢医科大学医学部医学科を卒業。広島市立広島市民病院小児科などで勤務した後、自らの子育て経験を生かし、「女医によるファミリークリニック」(広島市南区)を開業。産後の女医のみの、タイムシェアワーキングで運営する先進的な取り組みで注目を集める。

日本小児科学会、日本周産期新生児医学会、日本小児神経学会、日本小児リウマチ学会所属。日本周産期新生児医学会認定 新生児蘇生法専門コース認定取得、メディア出演多数。2014年日本助産師学会中国四国支部で特別講演の座長を務める。150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加する「En女医会」に所属。ボランティア活動を通じて、女性として医師としての社会貢献を行っている。