[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]
奴隷は貴族の持ち物なので奴隷が奴隷を殴ってはいけません!

「ぼうりょくってなーに?」という純粋なキョトン顔。キラキラと輝く瞳は、子どもの頃から四股・テッポウ・すり足で身体を鍛えてきた者だけがまとう無垢な透明さをたたえています。仮面ライダーが悪の組織によって改造手術を施された際、脳だけ後回しにしてしまったように、肉をつけることで手一杯な哀しい肉体改造超人…それが力士。

19日、両国国技館では緊急の研修会が行なわれていました。予定では「クリスマスと正月はノンビリしたいし」「年明けはすぐ初場所だから」「来年2月くらいでいいかなー」とゆったりと構えていたものを、急遽前倒して実施することになった「付け人に関する特別研修会」。昨今の大相撲暴力事件簿において貴ナントカが連チャンでやらかした、付け人への暴力にだけスポットを当てて「付け人は殴ったらイカンぞ」と改めて身体に叩き込むための会合です。

↓ちなみに、もともと19日には貴景勝の優勝パレードをやる予定で準備していましたけれど、プチ嫌がらせでぶつけてみました!

「パレードやるっす」
「ダメだよ、その日研修会やるから」
「パレードやるっす」
「ダメだって、研修会だから」
「パレード…」
「お前のとこの問題だからな」
「パレード…」
「貴ナントカがすぐ殴っちゃうから」
「わざわざみんな呼ぶんだから」
「お前がこないとダメだろー」
「逆にお前らだけ2回やりたいくらいだわ」
「パレード別の日にするっす…」
「じゃ、19日ヨロシク」

パレードと研修会のどちらが大事か、考えるまでもありません!

パレードなど別にやらんでもよろしい!


勝手にパレードなど予定しているヤツがいて本当に困ったものですが、大事な大事な研修会は国技館でたっぷり15分行なわれました。講師には「何気ない気持ちでやった暴力」に対して絶対反対の立場をとる八角理事長と、弟子3人をゴルフクラブ(アイアン)や自らの拳で殴ってケガを負わせ警視庁に呼び出されたことで知られる春日野巡業部長があたるという「相撲取り本気モード」。「何気ない気持ちでフルスイングしたアイアンで人間は死ぬことがある」という重たい現実を、たっぷりと身体に叩き込んでやったことでしょう。

研修会では、暴力を知り尽くした超一流の講師の言葉を15分も頂戴したといいます。これは世間一般では「少し短いのではないか?」という反応もあるかもしれませんが、相撲取り時間(※犬の6歳は人間で言うと40歳みたいな話)では、「一日の取組が約1分×十五日間」という計算によって「15分=約2ヶ月分の労働時間」に相当するロングラン研修です。一般的サラリーマンで言えば「8時間×20日×2ヶ月=320時間」ほどやったに相当する大講習です。これ以上を相撲取りに強いるのは無理です。身体も脳もついていけません。あんまり長いと痩せちゃいそう!

↓八角理事長からは「何気ない暴力」につづく新たな名言、「付け人は師匠の弟子、絶対に暴力をふるってはいけない」が飛び出していますよ!

「では、ワシの内弟子に対しては殴ってもええかな?」
「ワシがワシの弟子を殴るのはええかな?」
「飼い犬を殴るのはワシの権利やんな?」

ダメですよ!誰が相手でも!

すみませんね、中世の身分社会を引きずってまして!



僕が貴族であったなら、やはりこうした暴力に対しては厳しく対処したことでしょう。奴隷がふたりいて、バイトリーダーに相当する兄奴隷が新米の弟奴隷の仕事ぶりに苛立ち暴力をふるおうものなら、烈火のごとく怒ります。そしてこう言ってやります。「俺の持ち物を殴るな!」と。そして、改めて所有者であるところの貴族様がアイアンを握りまして、仕事の至らない弟奴隷と、それを正しく指導できずあまつさえ貴族様の所有物である奴隷に手をあげた兄奴隷をボコボコにします。

「うへー、絶望的中世感…」

江戸時代の文化を現代に受け継ぐ大相撲は、「きっと中世ってこんな感じだったんだろうなぁ」という想像力をフルに働かせて、その時代の風を再現しようとしているのです。相撲取りがマンションから稽古場に通い、普段はナイキのウェアなどをまとってトレーニングに励み、合間にサプリメントなどを摂取していたら何となく拍子抜けですよね。そこを察して、夢を壊さないようにしてくれている。ここだけ中世。ここだけ江戸時代。タイムスリップ系の物語では、主人公が野蛮な中世民に刀で斬られそうになったりするじゃないですか。あの世界観を「伝統」として受け継いでいるのが大相撲なのです。

↓「付け人にこういうことをしてはいけないリスト」も作っておきましたよ!
(1)付け人は師匠の弟子であり、関取は、師匠から付け人への指導を任されているのであって、付け人は決して関取の小間使いではないこと。

(2)付け人に対して絶対に暴力を振るってはならず、関取と付け人は互いに感謝の気持ちをもって接すること。

(3)付け人を夜遅くまで連れ回すことなどはしないようにし、付け人の翌日の稽古に影響を与えることがないように気を付けること。

(4)関取は、付け人の模範となる言動を行わなければならないこと。



「付け人と付け人の間の暴力は?」とか聞いてはいけない!

「師匠から弟子への暴力は?」とか聞いてはいけない!

だって、師匠からのソレは愛のムチだから!

これも中世貴族的世界観から言えば当然の4ヶ条です。「付け人は師匠の弟子」であり、勝手に自分の小間使いになどしてもらっては困ります。中世ですので当然「階級が上のものは何をやっても許される」という大前提がありますが、だからと言って感謝の気持ちを忘れてはいけないし(道具にも感謝する心)、明日師匠が使うときに寝不足だと困るから無茶使いは厳禁だし(道具は大切にしましょう)、兄奴隷は弟奴隷を立派に育てないといけません(道具が古くなったら新しい道具に交換)。道具の調子が悪いからといって道具に当たってはいけません!

そして、このような道具に当たる行為を厳しく律するために、日本相撲協会では「暴力禁止規定」なるものを策定することとしています。研修会・理事会を経て公表された規定は、いちいちごもっとも、納得の内容ばかり。「暴力と社会との折り合いをつけていく」ためにも各力士には絶対に守ってもらいたいものとなっています。

↓一部を抜粋して公表されておりますが、このようなことを意識して正しい暴力に励んでもらいたい!
●第3条(定義)
「暴力」とは、身体に対して不当な有形力(物理的な攻撃)を加えることをいう。稽古、取組における正当業務行為と認められるものは、暴力に当たらない。

【意識しよう】
・物理的でなければOK(言葉の暴力等)
・不当でなければOK(理由があればやむなし)
・稽古、取組中はOK(ただし正常な範囲を逸脱するシゴキはNG、道具を使うのもNG、握り拳で殴るのもNG)

●第5条(懲戒処分)
禁止行為を行った協会員に対しては、その内容などに応じて懲戒処分を行う。ただし、年寄に対してはけん責以外の懲戒処分を行うものとする。
(1)けん責
(2)報酬減額
(3)出場停止
(4)業務停止
(5)降格
(6)引退勧告=速やかに引退届を提出しない場合は、懲戒解雇とすることができる
(7)懲戒解雇
禁止行為を行った者が、所属する部屋の師匠らに自主申告したときは情状を酌量して、処分を軽減、免除し、注意処分を行うことができる。

【意識しよう】
・暴力にピンときたならまず師匠
・ゴメンで済むから警察は呼ぶな
・番付に応じて世間が騒ぐぶん処分も重くなるぞ
 横綱⇒引退勧告以上
 貴ナントカ⇒引退勧告以上
 関取⇒出場停止1場所
 幕下以下⇒けん責、注意処分など
 未成年⇒将来性を鑑みて処分軽減
・なお、貴ノ岩は自己都合で勝手に辞めたので「出場停止1場所相当だから辞めるな」とか言って引き止めたりはしません



●第16条(コンプライアンス委員会など)
コンプライアンス委員会は理事長の委嘱を受けて、禁止行為または禁止嫌疑行為につき事実関係の調査を行う。理事長がその事案を危機管理委員会に委嘱した場合、この限りではない。禁止行為を認定した場合は、処分意見を理事長に答申する。

【意識しよう】
・外部委員3人、相撲取り6人の組織
・3対6だから基本的には相撲取りの意見でまとまる
・まとまった意見を相撲取りに報告する
・相撲取りが「問題ないと思います」と言い、相撲取りが「問題ないな」と判断する構造

●第19条(公表)
協会は禁止行為を行った者が未成年者である場合など公表すべきでない特段の事情がある場合を除き、原則として禁止行為を行った者の実名を含め、その内容などの概要を外部に向けて適切な時期に公表しなければならない。

【意識しよう】
・公表はする、公表はするがいつ公表するとは言っていない
・相撲取りが適切だと思えば5年後、10年後ということも可能だろうということ



土俵のなかでは物理で暴力!

土俵の外では精神で暴力!

オンとオフの使い分けをしましょう!



いかがでしたでしょうか、中世を現代に遺す大相撲という見世物は。「車輪の再発明」というのはたまに聞きますが、みんなが鉄器を使っているときに「ワシ、石の破片で物が切れることを発見」などと一時代前のものを新たに生み出したような感じもある暴力禁止規定が、まさか平成最後に出てこようとは。しかし、これでこそ大相撲。まともなものを見たいのではなく、「何でこの人たちはチョンマゲ・ふんどし・デブの三拍子なんだろう?」と首を傾げるような、奇異なるものであってこそ大相撲の価値もあるというものです。

これからも世間の風に毒されることなく、相撲部屋という密室のなかで伝統の継承に励んでいってほしいもの。コンプライアンスという外敵の襲来に苦戦はつづいていますが、可能なかぎり内々でことをおさめ、このままの大相撲をつづけていきましょう。生きた化石、それが大相撲の重要な価値であるという自覚をもって!



「へー、昔の社会ってこうだったんだ」という生きた見本、それが相撲!