将棋盤の裏に刻まれた「血溜まり」に隠された武士たちの覚悟

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皆さん、将棋は好きですか?筆者も子供の頃から父や兄らと親しんで来ましたが、ルールを知っている程度であまり強くはありません。

さて、そんな将棋の道具である将棋盤(しょうぎばん)も、分厚い一枚板に足のついた本格的なものから、最近では折りたためる板や、マグネット式で列車などの移動先でも駒がばらけず便利なものまで、色々あります。

ところで、その本格的な将棋盤の裏面に、四角い凹みが刻まれているのを見たことがありますか?

この部分、正式名称は「音受け」と言って、将棋盤に駒を指した(置いた)時にピシッ!と良い音が響く効果と共に、将棋盤の材木がこの凹みから呼吸(水分を調整)して、過度な膨張や収縮を防ぐ効果があります。

そうした合理的な理由と加えて、この凹みにはまた別の理由があるのですが、それは「血溜まり」という異名に隠されています。

真剣勝負、投げ出すべからず

将棋盤の裏に刻まれた凹みは当然ながら下を向いているため、血が溜まりそうにもありませんが、なぜ「血溜まり」と呼ばれるのでしょうか。

ここに血が溜まるようにするには、凹みが上を向かなければなりません。

将棋盤の裏に刻まれた凹みが上を向く状況……と言えば、考えられるのは「将棋盤を引っくり返した状態」。

かつて、戦の代わりとして生み出された将棋は、時として負ければ「国を失う」リスクがありました。

となれば、勝負がいよいよ不利となった者が、つい逆上して将棋盤を引っくり返してしまうこともあったでしょう。

すると、この凹みに刃が植えてあって、将棋盤を引っくり返した者の髻(もとどり。髪)をつかんで前に引き倒し、その胸に刺さった刃から血が伝って溜まったことから「血溜まり」と呼ばれ、凹みの中に刻まれた突起は刃の名残と伝わっています。

たとえボードゲームとは言え、将棋は国や御家の命運を賭けた真剣勝負ですから、それを投げ出した者に対しては相応の制裁があって然るべき……そんな武士たちの価値観が表わされています。

真剣勝負に口出し無用!

他にも将棋は「口出し無用」として、口出しした者の首を刎ねてこの凹みに載せる習わしがあったとも言われます。

しかし、それだと対局が終わるまで将棋盤を引っくり返す訳にいかず、首を載せるのを待たねばなりません。

どうせ戦で殺されたと思えば、自分の命と引き換えに口出しをしても、それで将棋≒戦に勝てるのであれば手柄となるため、両陣営が口出し合戦を始めかねず、実際のところは疑問です。

ついでに将棋盤の足ですが、あの独特なデザインは「山梔子(クチナシ)」の花を表しており、勝負に「口(出し)無し」という駄洒落だそうです。

しょうもない、とも思いますが、真剣勝負の前なればこそ、駄洒落を笑い飛ばすくらいの余裕で臨むことが必要なのかも知れません。

将棋というと、つい盤上で繰り広げられる譜面(戦い)にのみ目をとられがちですが、将棋盤の下にも武士たちの覚悟やユーモアが込められていると思うと、その独特な価値観が偲ばれようというものです。