ゴリラが目印のゴーゴーカレーが「クセになる味」を生み出す源とは(編集部撮影)

ラーメンと並ぶ日本の国民食と言えばカレーだろう。大手チェーンはカレーハウスCoCo壱番屋で、1400店舗余り。ほかにもカレーショップC&C、日乃屋カレーなど、名が知られているところは多いが、店舗数はC&Cで約20、日乃屋で約50店舗と、ぐっと少なくなる。カレーはそもそもインド発祥の料理だが、日本では小麦粉を炒めたルーを使うなど、独自に発達した。そのせいか、シンプルな調理法なのに対しレシピも多く、味わいへのこだわりも多様化している。その分、個人店を含めて多様な店舗が生息する市場と言えるだろう。

カレーチェーンとしては国内に72店舗と、店舗数では第2位に位置するのがゴーゴーカレーだ。黄色地になぜかゴリラのロゴを配した看板からも見て取れるように、多様な市場のなかでもダントツに個性的な方針で、独自の路線を貫くチェーンである。店舗展開は北陸や関東が中心なので、有名な割には「実際には食べたことがない」という人も多いかもしれない。

今回は、知っているようで知らないゴーゴーカレー、いったいどのような企業なのかについて、運営するゴーゴーカレーグループに取材した。

金沢カレーブームの火付け役

ゴーゴーカレーの特徴はまず、金沢カレーのチェーンであるということ。金沢カレーとはどういうものかというと、同社も会員として名を連ねる金沢カレー協会がその特徴をホームページに掲載している。これによると、ルーは濃厚でドロッとしており、ステンレスの皿に、付け合わせの千切りキャベツとともに盛られる。ルーの上にはカツがのっており、その上にソースがかかっている。フォークあるいは先割れスプーンで食べる……などが金沢カレーであるらしい。


定番のロースカツカレー800円(上)とトッピングてんこ盛りの兼六カレー1000円(編集部撮影)

ゴーゴーカレーでは、この定義に当てはまる定番のロースカツカレーを800円で提供。カツの大きさがほぼルーを覆うほどにボリュームたっぷりであるのと、キャベツや福神漬けは食べ放題なのでお得感がある。なお、CoCo壱番屋のロースカツカレーは774円だ。そのほか、チキンカツカレーや、エビフライカレーなどもメニューにラインナップされている。サイズは特小から特大まで5段階設け、トッピングを組み合わせられるなど、アレンジが利くのもゴーゴーカレーの特徴と言えるだろう。なお、ゴーゴーカレーはフランチャイズ展開をしており、価格やサイズ、サービスの方法など、店舗によって異なる部分もある。

しかしゴーゴーカレーの独自性が光るのは、なんといってもそのエピソードにおいてだ。創業者であり代表取締役の宮森宏和氏は、もと旅行会社のサラリーマン。野球の松井秀喜選手のニューヨーク・ヤンキース入りに感動して開業を決意、2004年5月5日、新宿にゴーゴーカレー1号店を立ち上げた。松井選手の背番号55にあやかっての、55へのこだわりはすさまじい。「ゴーゴー」の店名ももちろんだが、ルーを作る工程が55あるほか、5時間煮込んだルーをさらに55時間寝かせているという。さらには、資本金5500万円、年商55億円など、普通は操作が自由に利かなそうな数値にも、55の背番号が紛れ込んでいる。

ロゴマークをはじめとするブランド戦略も強烈だ。


ゴーゴーカレーグループ常務取締役管理本部長新村栄一郎氏(編集部撮影)

「ゴリラは、松井選手の愛称ゴジラから。ゴジラだと著作権上の問題があったため、1字違いのゴリラにしました」(ゴーゴーカレーグループ 常務取締役管理本部長新村栄一郎氏)

赤色と黄色の配色や、ロゴマークのゴリラを囲む円などは、ほかのブランドを彷彿とさせなじみ深い。

新店舗オープンのたびに、555人に対し55円でロースカツカレーを提供する、ホームランデーにトッピング無料券を配るなどの宣伝戦略も、同チェーンの認知度を高めた。

「莫大な広告費を払うことを考えれば効率はよいですよね。マスコミにも取り上げていただけました」(新村氏)

つねにニューヨーク展開が念頭にあった

1号店オープンから3年後の2007年には、いち早くニューヨーク上陸も果たした。これは、松井選手にあこがれて独立開業した宮森氏の念頭に、つねにニューヨーク展開があったことが理由だ。現在はアメリカに7、ブラジルに1と、海外店舗を増やしている。10月25日にはテキサス店がオープンし、アメリカでは8店舗となった。

ニューヨーク店は快調で、街中でひときわ目立つ黄色の看板の前に、行列ができていることも珍しくないという。インド料理のカレーとは異なる日本のカレーは、海外の人にも人気があるのだ。

近隣に大きな展示会場があり、最大級のコミック・アニメの展示会「コミコン」が開催されるときなどは客数も大きく伸びる。日本と異なりデリバリーも多い。デリバリーを合わせると、平均して1日に300食が出るそうだ。

「海外からの出店依頼は、実はたくさんあります。ただ、国によっては輸送に関する問題で、オリジナルのルーをそのままは持ち込めないので、簡単に展開を広げることができないんです。当社のルーは当社が非常にこだわっているもので、当然外部にレシピは出せませんので。ニューヨーク店の場合は店内の厨房でルーを仕込んでいます」(新村氏)

今後海外での出店を広げるために、OEM工場を設置することも検討している。

ちなみに、アメリカの店舗における価格は日本と同じ程度で、7〜8ドルに設定している。ニューヨークなどアメリカの都市部はそもそも物価が高いことや、特にマンハッタンでは日本の食事はラーメンでも10ドル以上が当たり前であることを考えると、かなり手の届きやすい価格だと言えるだろう。

ダイエットが気になる女性に敬遠されがち?

一方で国内では近年、70〜80店舗を上下しているようだ。客数については、実際の数字は言えないとのことだが、店舗平均で数百名に上る。特に金沢駅や秋葉原などが繁盛店だ。


カレーそれぞれのサイズや、トッピングを選ぶことができる(編集部撮影)

どのような客層が訪れるのだろうか。アプリ会員の構成費をみると、男性が圧倒的に多く、なかでも20〜40代がメインゾーンだ。これは、金沢カレーゴーゴーカレーのイメージによるものだろう。カツがのっており、見た目にボリューム感があるため、ダイエットが気になる女性に敬遠されがちなのだ。サイズやトッピングを選べることがもっと広まれば、女性の利用も増えるかもしれない。

来客数が安定している理由として、イメージ戦略が功を奏していることもあるが、客にとって、価格と味やボリュームのバランスがとれていることが挙げられる。実際に試食をしてみると、55時間寝かせたこだわりのルーは、「クセになる味」をうたっているとおり、甘いなかにもスパイスが効いた特徴的な味わいだ。店舗で揚げるカツも、衣がサクサクとして肉がやわらかく、かなりの大きさだが食べられてしまう。お得感のある価格に抑えながら、食材もできるだけこだわっているようだ。

「カツは厳選した肉を手仕込みしており、パン粉やソースはオリジナルブレンドです」(新村氏)


ゴーゴーカレー大手町日本ビルパークの店内。店舗の中では広めだ(編集部撮影)

なお、金沢カレーゴーゴーカレーでよくある「お客様の声」に「ルーが少ない」というものがある。ごはんとルーを食べる割合の計算がうまくいかず、最後にごはんが余ってしまうのだ。これに対しては、100〜200円で増量することで対応している。

ゴーゴーカレーは近年ではほかの企業とのコラボレーション戦略にも力を入れている。

「アニメやゲームとのコラボはかなり前から行っています。おかげさまで、他社さまからオファーをいただくことが多いです」(新村氏)

特に、55周年記念のコラボ依頼が増えているそうだ。何にでも55という数字を使ってアピールしてきたことが実を結んだと言えるかもしれない。

フランチャイズ展開では北陸や関東に加え、九州も視野に入れ、おいしいカレーを提供する、という理念に基づいて引き続き力を入れたいという。それに加えて、さまざまな別事業で裾野の拡大も図っている。


さまざまな種類のレトルトカレーが発売されている(編集部撮影)

レトルトの物販では、コラボやご当地ものなどの特製カレーから、「減塩カレー」「アミノ酸入りリカバリーカレー」など健康志向の商品を開発。

そのほか、2017年からは給食事業にも参入し、企業の食堂にゴーゴーカレーブランドのカレーを供給している。また近年、ネームバリューのある飲食店を入れるなど、高付加価値化してきているのがショッピングセンターのフードコートだが、同社もアリオへの出店を増やしているそうだ。駅、高速道路のサービスエリア、スキー場、遊園地など、確実に集客の見込める場所への展開も強化している。

思いの強さでここまで展開してきたゴーゴーカレー

「立ち上げ以来、『日本を元気にしたい、金沢カレーを広めたい』という熱い思いで運営してきました。ただこれまでは、いわば、社長と創業メンバーのやる気と根性だけで、事業としては感覚に頼っていた面があります。これからはもっと計画的に運営していく必要があります」(新村氏)

ゴーゴーカレー72店舗中、フランチャイズは39店舗。新村氏によると、カレー店は店舗での工程が少ないため、スキルが高くなくとも始められるほか、店によって味のばらつきが出ないというメリットがあり、フランチャイズに向く業態だという。同社ではこれまで、人柄を重視してフランチャイズオーナーを選んできた。店舗の立地も、フランチャイズに関してはオーナーからの提案というところも多かったようだ。

こうした形態も、今後は変わっていくのかもしれない。実際、今回の取材では来店客数や食材産地などの情報の開示についても、ある程度制限があった。今はそういった情報をどこまでオープンにするかが、企業姿勢として問われる時代である。

創業者の思いの強さでここまで展開してきたゴーゴーカレー。同社が迎える55周年はどのような姿だろうか。