ishikobus

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ーパソコンやスマホの普及で手紙を書く機会が少なくなった。一文字入力しただけで予測変換し、あっという間にメッセージが完成し、ボタン一つで送れる。多くの人に一斉送信までできてしまう便利な世の中だ。しかし、手書きの筆跡、筆圧などから読み取れる感情は消えてしまった。 時間を短縮する道具は増え続けているのに『時間がたりない』という感かっくはなくならない。時間を短縮することで逆に何かをなくしてしまったのではないだろうかとさえ思ってしまう。ー(イシコ『人生がおもしろくなる!ぶらりバスの旅』本文より)

(写真上)座席ではなく、ベッドが三列並ぶ長距離バスが走るベトナム ダナン。

こう綴るのは、veritaで”和ペリティーヴォ”を連載していたイシコさん。ヒット作『世界一周ひとりメシ』『世界一周ひとりメシ in JAPAN』、『世界一周飲み歩き』に続く待望の新刊が幻冬舎から発売となった。冒頭の一文は、本書からの抜粋だ。今回のテーマは、バス旅だ。誰もが分かってはいるけれど、時間と場所に縛られてしまう雑多な日常生活の中で、忘れてしまいがちなみずみずしい感覚の扉を、笑いあり、切なさありの、イシコさんならではの視点とセンスで開いてくれる珠玉のエッセイだ。

本書は、気温四十度のブルキナファソでバスのクーラーが壊れた話や、マレーシアで体験した大揺れの阿鼻叫喚バス、高速バスで日本縦断挑戦など、国内外を問わず、イシコさんがバスで旅した経験をもとに生まれた20のエッセイを収めている。並びは時系列でもないので、気に入ったタイトルから読み始めても問題なく、ちょっとしたすき間時間に手に取って開いてみるのにもおすすめだ。

これまでも世界中を旅する中で特異な体験をもとにトラベローグ(「旅」の表現)を追求し、数々の本を上梓してきたイシコさんだが、バスを舞台に展開する今回の新作では、日常を離れて旅をすることの奥深さや、人々とのつながり、人生を俯瞰した著者が自身の内面世界に触れるシーンがとても印象的に描かれている。それはバスという移動手段に流れるある種独特な時間と、そこに乗り合わせた人々との一期一会が、車内空間の中に凝縮されるためかもしれない。自分のスタイルでバス旅を楽しめるようになれば、あなたも旅の上級者。新たな旅の新境地を味わえるバスによる旅先案内書としてもおすすめの一冊だ。

(写真右)阿鼻叫喚の大揺れバスを味わったマレーシア キャメロンハイランド

人生がおもしろくなる!ぶらりバスの旅』 イシコ著/幻冬舎/640円+税

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