米国の玩具小売大手トイザラスは経営破綻したが、日本のトイザらスは健闘している(撮影:今井康一)

米国の玩具小売大手トイザラスは、2017年9月に日本の民事再生法に相当する連邦破産法11条(チャプター11)の適用を申請して経営再建を進めてきた。だが、スポンサーが見つからないため、3月15日に米国内735店を閉鎖し、米国事業を清算すると発表した。
日本で事業を営む日本トイザらスは、米国本社が85%出資するアジア統括会社の傘下にある。米国の破綻を受けて、取引先に対し「日本を含むアジア事業は今回の米国事業の清算プロセスに含まれておらず、日本での事業は今後も変わらず継続する」という内容の説明文を送付している。
日本トイザらスは本当に大丈夫なのか、ディーター・ハーベル社長に聞いた。

日本事業は順調で、投資スピードを加速できる

――米国本社は破綻しました。日本トイザらスは大丈夫ですか。

米国と違って日本は堅調に推移している。日本法人は2017年4月から米国本社が85%、香港を拠点にアジアで小売業を展開するファン・リテーリングが15%出資するトイザらス・アジア・リミテッドの傘下にある。米国本社と資本的なつながりはあるが、事業や財務的には独立している。今後はスポンサーが入ることで、アジアと日本はむしろ投資スピードを加速させられる。


ディーター・ハーベル/1962年、オーストリア生まれ。コカ・コーラ(独)に入社後、1997年に日本コカ・コーラに赴任。日本コカ・コーラのバイス・プレジデント、ギャップジャパンのCFO、アディダスジャパン、リーボックジャパン社長、ラコステジャパン社長を経て、2017年9月より日本トイザらス社長(撮影:今井康一)

昨年9月のチャプター11以降、取引先とは頻繁に話をしている。米国の親会社に対する心配があるのは理解しているが、日本事業は独立しているので大丈夫だということを伝えている。取引先や銀行の理解は得られている。

――確かに日本法人の業績は米国に比べると健闘しています。ただ、2014年1月期は大きな赤字を計上しています。数年に1度、不良在庫を処理する必要があるからでしょうか。

私の就任前の出来事だが、もちろん把握している。詳細は言えないが、米国との関係での一時的な費用であり、日本の在庫管理はうまくいっている。


――今後、スポンサーを募るのは日本事業単独になりますか。アジア全体になりますか。

カナダ事業は新しいオーナーの下で独立することが決まった。まだはっきりとは言えないが、アジアも同じ方向になるだろう。

――米国事業の破綻はアマゾンの台頭で、小売業界などが苦境に陥るいわゆるアマゾン・エフェクト(アマゾン効果)が原因と言われています。

そうは思わない。アマゾンに限らず、小売業で競合の“エフェクト”があるのは当たり前だ。米国がああいう事態に陥ったのは、自分たちの側に原因がある。米国法人には約50億ドルの有利子負債があり、毎年4億ドル以上の金利負担が重くのしかかかっていた。そのため、コスト削減が優先でサービスが圧縮され、店舗のリニューアルも満足にできなかった。ビジネスへの投資ができず、イノベーションを起すこともできなかった。

米国事業は重い債務負担が足かせに

――なぜそうした状況が続いたのですか。

2005年にベイン・キャピタルやコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)など3つのファンドによる買収で米国本社は非上場化した。この買収はLBO(レバレッジド・バイ・アウト=買収先の資産などを担保に資金を調達するM&A手法)だったため、買収資金などで約50億ドルの有利子負債を負うことになったのは先に述べたとおりだ。

LBOは、一般的に資産売却やリストラに加え、数年後に再上場することで財務改善を図る。しかし、トイザラスはリーマンショックで再上場の機会を逃し、金利負担が重いまま、事業への投資が十分にできず競争力が低下した。

ビジネスとは長距離走のようなもので、勝つためにはランナーが健康であることが一番大切だ。だが、重い債務負担で足に鎖がついたようにスローダウンを強いられた。アマゾンも含めてスピードアップしていく競争相手とそうした状況で戦わねばならなかった。

競合のことは考えるが、より大切なことは競合ではなく、お客様にとって一番よい環境を提供できるか。われわれが見るべき相手はアマゾンではなくお客様だ。お客様の立場から考えて、付加価値を提供できているか。人気の玩具を提供できているか、お店は子供たちが楽しめる場になっているか、ママに有用な情報を提供できているか、スタッフは質問に答えられているのか。



トイザらス港北ニュータウン店は、ベビーザらスを併設する。幼児期に購入頻度が高いおむつは顧客の来店頻度を高める戦略アイテムであり、競争力ある価格で提供している(撮影:今井康一)

――日本ではやるべきことができていますか。

日本は米国とは違う。運営する161店で顧客に集中できている。

私は昨年9月の社長就任前に各店舗を回ったが、お客様に商品の説明ができる知識を持ったスタッフがいる。財務体質も良好だ。この先3年間で無借金になる可能性もある。

新規出店やリニューアルといった投資も日本法人が独自に行える。日本でも、アマゾンだけでなく家電量販店なども玩具を扱っており、米国同様に競争は激化している。だからこそ、子ども達が遊びやすい店、買いやすい店にする努力を続ける必要がある。イノベーションを怠れば負けてしまう。

イノベーション――。日本トイザらスが力を入れるのが新しい基準の店作りだ。昨年9月にリニューアルした港北ニュータウン店(横浜市都筑区)がモデル店となっている。「それまで約3メートルあった棚を約1.6メートルと低くして店内の見通しをよくしました。入り口付近はベビー用品から玩具に切替え、さらに通路を挟んで男児玩具、女児玩具と分けてゾーニングをわかりやすくしました」と吉田健太郎ストアディレクター(店長)は説明する。「プレイテーブルを約10から20〜30に増やして子供たちが遊び易い店作りをしています」

イノベーションで商品の回転効率が向上

――店舗のイノベーションの具体例が港北ニュータウン店ですね。


トイザらスの港北ニュータウン店では、リニューアルを機に、子どもが玩具で遊べるプレイテーブルの数を増やした(撮影:今井康一)

どこにどんな玩具があるかをよりわかりやすくした。棚の上から玩具を取るのにはしごが必要だったが、今は子どもの目の高さに商品がある。プレイテーブルを増やしたことで楽しく遊んでもらえる。

こうした新しい店作りの考え方はアジアで共通している。シンガポールや香港、上海の店舗を参考にベストなやり方を日本に移植した。今後は日本のやり方をアジアで発信していくことになる。

――港北ニュータウン店のリニューアル効果を数値で教えてください。

昨年9月以降、来店客数も売上高も増えている。具体的な数値は言えないが、ベリーハッピーなパーセントだ。


港北ニュータウン店では、棚の高さを約1.6メートルと低くし、子どもの目線で商品を選べるようにした(撮影:今井康一)

――棚を低くしたことで店頭の商品数が減りますが、アイテム数を減らしたのですか、1アイテム当たりの商品数を減らしたのですか。

両方だ。商品数は減少したが、商品回転率は向上した。同時に物流も見直している。物流だけの効率性を考えるのではなく、店をサポートするための最適な物流という考え方で改革している。

――客の利便性は落ちませんか。

店頭にiPadを設置し、店にない商品はその場でオンラインでオーダーできる。スタッフがお客様の相談に乗りながらご案内することが多い。いわゆるロングテールはオンラインでの対応が適している。

――オンラインでの販売シェアはどの程度でしょうか。

公表していないが、オンラインのシェアが増えていることは確かだ。

――新しい基準の店作りを増やしていくのですか。

2016年以降に出店した小型店4店は新型店舗だ。港北ニュータウン店とマリノアシティ福岡店(福岡市西区)の2店はリニューアルで新型店舗に衣替えした。今年度は小型店を7〜8店オープンする。それらは新型店舗となる。リニューアル店の数はまだ固まっていない。米国の影響があるからだ。順次リニューアルを進めていくことになる。

日本トイザらスは米国トイザラスと日本マクドナルドの合弁で1989年に設立、1991年に国内第1号の荒川沖店(茨城県)をオープンした。当時の日本は、中小小売店の保護・育成のために大規模小売店舗法(大店法)によって大型店の出店が規制されていた。2店目となる橿原店(奈良県)には当時のジョージ・ブッシュ米大統領が視察に訪れる。日米貿易摩擦が激しい時代、小売業界の黒船とも呼べる存在だった。

ネットとリアルをうまく組み合わせていく

――日本トイザらスといえば、大店法改正の原動力にもなった大型店の象徴です。それが小型店を増やしているのはなぜでしょう。

確かに新店はほとんどが小型店です。昔は都心部から離れたところに大型店を出店することが多かったが、2010年以降はショッピングセンター(SC)内の店舗を増やしてきた。最近は、より都心部の小型店が中心となっている。それはお客様の人口動態の変化に対応した結果であり、お客様との距離を少しでも近くするためです。


日本トイザらスのハーベル社長は、競合に勝つためにも、店舗への投資の必要性を強調する(撮影:今井康一)

――オンライン販売が増えて店頭在庫が少なくて済むようになったことも小型店重点戦略に影響していますか。

それも一因だ。必要な在庫は店とオンラインのトータルで考えることができるようになったため、店が小さくても問題がないという側面もある。結果的に運転資金も圧縮できる。オンラインの便利さもあれば、店舗の良さもある。ネットとリアルをうまく使ってお客様と接点を持つオムニチャネル戦略が必要になる。

――米国と比べ、日本は実店舗の強みが打ち出しやすいと感じますか。

やはり米国とは違う。米国では車でしか店に行けないが、日本は自転車や電車で子どもだけでも店に来ることができる。

――日本の少子化は今後も進みます。先行きは厳しくありませんか。

少子化でも売り上げ規模を拡大することはできる。昔に比べて今の子どもの方が玩具をたくさん買ってもらえる。今後は勉強の興味をサポートする知育玩具や健康によい玩具に力を入れることも考えている。現在行っている店舗のリニューアルで終わりではなく、もっとよい店にする、もっとよいモノを提供するなど、毎年ベターベターにしていく。