写真=iStock.com/Milatas

写真拡大

「ルール」や「常識」に従ったままでいいのでしょうか。人間関係に気をつかって「お人よし」を演じていれば、心はどんどん疲弊していきます。エッセイストで講演家の潮凪洋介氏は、「同調圧力によってもたらされる『愛想笑い』は不毛な人間関係の産物。『愛想笑い』を必要としない対人環境をつくることが大切です」と説きます――。

■愛想笑いをやめても摩擦を感じることはない

米メリーランド大学で「笑い」を研究しているロバート・プロヴァイン教授によると、ジョークやユーモアなどによって引き起こされる笑いは、笑い全体の1〜2割程度で、残るほとんどの笑いは平凡なコメントのあとや日常的な会話を終わらせるときに生まれるそうです。また、他者といるときは、1人でいるときの30倍よく笑うという研究結果もあります。

すなわち、笑いとはコミュニケーションを円滑にするための手段なのです。多くの日本人が無意識に用いている「愛想笑い」はその典型でしょう。

仕事上で愛想笑いをやめるとどうなるでしょうか? 目先のことだけを考えると、マイナスは大きいと考えられます。「場の雰囲気」にそって愛想笑いをするのも、1つのスキルだからです。

とりあえず愛想笑いをしておけば、場の雰囲気が険悪になることはありません。しかし、私は20代の頃、あまりに寒い上司のギャグに笑えなかった記憶があります。そのときは会話センスのひどい上司から、「キミはユーモアがないな。面白いことには明るく笑わなきゃ」と注意され、悔しい思いをしました。

一方で、どれだけつまらない上司のギャグに対しても愛想笑いをする同僚がいました。いわゆる「いい人」であり、場の空気を読むのがうまいのです。本音を隠して愛想笑いをする努力が実り、その同僚は上司の覚えもめでたかったようです。

■「自分も上司のようなつまらないオヤジになる」

愛想笑いができる人間になるべきなのか、無理をして笑うことはない自分を貫きとおすべきなのか。一時期は迷いがありました。結果、自分の言動は不自然なものになっていたようです。ある日、友人たちと集まる機会があったのですが、その場で「あれ、突っ込みが甘いんじゃない?」「最近、おかしくない? 愛想笑いはやめなよ」とダメ出しをされてしまったのです。

少なからずショックを受けましたが、そのとき、自分がどうすべきかがはっきり見えました。「自分がいるべき環境」と「そうではない環境」をしっかり判断することに決めたのです。「愛想笑いを続けていたら、自分も上司のようなつまらないオヤジになるかもしれない」と考え、愛想笑いに対する拒否反応は確固たるものになりました。

つまらないギャグに強制的に愛想笑いを求めた上司と同じ匂いがする人と関わり合うのを徹底的に避けるようになりました。良い仕事をするため、良い人脈を形成するため、良い人生を送るためです。会社は辞めました。我慢してあの会社に残っていたら、自分も上司のような人間になっていたかもしれません。そう考えるとぞっとします。

私は仕事上での愛想笑いはやめました。それでも現在、私は自分にぴったり合った対人環境で、自分らしく振る舞い、なんの摩擦を感じることもなく仕事をしています。

■愛想笑いをすると「頼りない男」と見透かされる

愛想笑いをしなければいけないような職場、あるいは愛想笑いを苦痛に感じるような職場は、あなたがいる場所ではありません。また、愛想笑いはビジネス・仕事のみならず、プライベート、特に恋愛にも悪い影響を与えることが多いのです。

柔和な表情で女性の話を聞けば、女性に好印象を与えることができます。しかし、なんでもかんでも笑っていればいいというものではありません。単なる「いい人」は、女性が間違ったことを言ったり、人として良くない振る舞いをしたりしたときにまで愛想笑いを浮かべて、結果、女性から頼りない男であることを見透かされます。

モテる女性は男性の愛想笑いに慣れていて、本音では、愛想笑いに疲れています。むしろ、的確なダメ出しを待っているのです。

男性からすれば、ダメ出しをすることで「女性を傷つけたり、気まずいムードになったりしないか?」と気になることもあるでしょう。親密度が高くない場合では、特にその不安が大きくなるのも理解できます。不安が大きいのであれば、ダメ出しは控えてもいいでしょう。しかし、見境なく愛想笑いをするのは、避けなければいけません。

■あなたが声に出した「ハハハハハ」が愛想笑いの音

なぜなら、愛想笑いは、本心からの笑いでないことが簡単にバレるからです。愛想笑いと、本物の笑いとでは、音が違います。試しに、「ハハハハハ」と声を出して笑ってみてください。いま、あなたが声に出した「ハハハハハ」が愛想笑いの音です。心から何かを面白がって笑うときの「ハハハハハ」とは明らかに違うことが自覚できるでしょう。

愛想笑いの音の不自然さは、当然、相手も感じるのです。女性が男性の愛想笑いを見抜いたとき、どんなことを考えるでしょうか。自分の気を引きたいがために、無理して自分に合わせている。そのように考えることでしょう。この時点で、女性の優位は明らかであり、主導権は完全に女性が握ることになります。これでは良好な恋愛関係どころか、良好な人間関係も得られません。簡単にバレるような愛想笑いはやめるべきなのです。

反対に、お互いに本心から笑えるような関係にあると、笑いで感情をコントロールすることができます。笑いで感情をコントロールできる夫婦は、ストレスを低下させることができて、いっしょにいる期間が長くなるという研究結果もあるのです。

仕事においても、恋愛においても、家庭においても、愛想笑いはやめましょう。どこにでもいる単なる「いい人」は愛想笑いがやめられず、我慢の日々を送り続けることになります。対して、「いい男」は愛想笑いから卒業して、自分らしい日々を送るのです。

■同調圧力は「ネガティブマインド」もうつす

愛想笑いは「同調圧力」と密接に関係していますが、同調圧力で注意しなければならないことには「ネガティブマインド」の感染もあります。

ネガティブマインドの持ち主は、周囲の人が「そうだよね、ひどいよね」と言ってくれるのを待っています。「いい人」は、「これで相手がスッキリするならいいや」と解釈して、ネガティブマインドの持ち主が発する愚痴や悪口に、不用意に相槌を打ってしまいます。

相槌を地獄耳でキャッチしたネガティブマインドの持ち主は、一気に同意者を運命共同体としてとり込もうとします。愚痴や悪口を聞いていても疲れるだけであったり、場合によっては心がすさんでしまったりするものですが、一度、ネガティブマインドの持ち主に絡めとられると、そこから脱出するのは難しくなります。

ネガティブマインドの持ち主は、ほぼ例外なく、執念深いものです。仲間と認識した相手を、ネガティブマインドで染め抜こうとします。

■愚痴や悪口は「汚染物質吸着剤」である

自己をしっかりと保つことのできない、ただの「いい人」はこの期に及んでも、「話を聞いてあげられるのは自分しかいない」と見当違いの解釈をして、ネガティブマインドの持ち主の相手をします。こうなると、もはや汚染物質吸着剤であり、心を病んでいくことになります。

自分の考えを抑えて、相手に合わせるのは「やさしさ」ではないのです。ネガティブな話には生産性がまったくなく、無駄以外の何ものでもありません。勇気を出して、ネガティブな話は遮断しましょう。話を切り替えてもいいし、無反応を決め込んでもいいのです。時には「悪口が長すぎ!」と苦言を呈してもいいでしょう。

それで関係が切れてしまっても、まったくかまわないのです。ただの「いい人」になって、ネガティブマインドに染まってはいけません。

大事なのは、自然体の自分を大事にすることです。それを実行することができれば、見透かされる愛想笑いをすることもなく、ネガティブマインドに感染することもない、のびのびと充実した人生を送ることができるのです。

----------

潮凪 洋介(しおなぎ・ようすけ)
エッセイスト・講演家
早稲田大学社会科学部卒業。主な著書に、『もう「いい人」になるのはやめなさい!』『それでも「いい人」を続けますか?』(ともにKADOKAWA)、『「バカになれる男」の魅力』(三笠書房)、『「男の色気」のつくり方』(あさ出版)などがある。

----------

(エッセイスト・講演家 潮凪 洋介 写真=iStock.com)