不正を見つけても内部通報を勧めない理由

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いざというとき、自分の身を守ってくれるものは何か。その筆頭は「法律」だ。「プレジデント」(2017年10月16日号)の「法律特集」では、職場に関する8つのテーマを解説した。第3回は「内部告発・秘密漏洩」について――。(全8回)

■会社に裏切られ、8年間も法廷で争うことになった

2006年に「公益通報者保護法」が施行された。それを受けて、大手企業の9割以上が、社内の犯罪や不正行為と思われる事象に対して企業内部に通報窓口を設けている。

だが、内部通報は軽々しく勧められない。辞職を覚悟するくらいでないと、踏み切れないのが現状だ。私自身、勤務先のオリンパスに内部通報した結果、会社に裏切られ、8年間も、会社に勤務しながら会社と法廷で争うことになったからである。私はオリンパスを愛していたので耐えられた。私のように勤務をしながら会社と長年闘い続けられる人は、1000万人に1人もいないだろう。

私が超音波非破壊検査システムの営業チームリーダーを務めていた07年、当時の上司が重要顧客の特殊鋼会社から社員を引き抜こうとしているのを知り、6月にコンプライアンス室へ内部通報した。不正競争防止法違反の疑いがあり、会社の信用を損ねる懸念があったからだ。ところが、会社は動いてくれなかった。それどころか会社は、内部通報への回答書を社内メールで私に送信した際、なんと上司と人事部長にまで送り、通報した事実を漏洩してしまったのだ。

上司ににらまれた私は、「部長付」という閑職に左遷されたうえ、言語に絶する迫害を受けた。何度も配転を命じられ、無意味な仕事を強制された。「特別面談」と称して、密室で上司に恫喝されたこともある。私を退職に追い込むためだった。思い余って社長に直訴したところ、産業医の診断を迫られたが拒否した。会社は、私を「ノイローゼ患者」に仕立て、休職を画策していたらしい。

■期待できるのは、マスコミへの告発

私は08年2月、配転の無効と損害賠償を求め、会社と上司を提訴した。そこで気づいたのが、公益通報者保護法が「ザル法」だということ。企業は内部通報者を保護しなくても、罰せられない。だから、企業は内部通報者保護に緊張感がなくなる。しかも、内部通報者は具体的に犯罪や不正行為を明示しないと、保護対象にならない。

私は最終的には最高裁で勝訴した。だが、それは労働法で会社や上司の違法行為やパワハラが認定されたから。会社が定めた内部通報規定には、内部通報者の氏名などの守秘義務、不利益取り扱いの禁止などが明記されており、会社や上司の行為がその規定に違反すると判断されたのだ。公益通報者保護法は全くの機能不全であった。

公益通報者保護法が真剣に改正される動きは今のところなく、国が本気で内部通報者を守ろうとしているとは思えない。では、社内の犯罪や不正行為を知った場合、それを正すにはどうしたらいいのか? 公益通報者保護法は当てにはならない。行政に相談しても、効果は期待できないだろう。

そこで、安全度が高いのが新聞やテレビなどマスコミへの「正当な内部告発」。マスコミは、世論を動かす力を持っているし、「通報元」を厳重に秘匿する義務を負っている。しかし、何はともあれ、公益通報者保護法の実効力ある改正が急務である。

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濱田正晴
オリンパス人事本部教育統括部チームリーダー
2007年4月に上司の不正に気づき、08年2月に提訴。12年6月に最高裁で濱田氏の勝訴が確定。16年2月、名誉回復訴訟で和解。
 

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(オリンパス人事本部教育統括部チームリーダー 濱田 正晴 構成=野澤正毅 撮影=石橋素幸)