眼疾患領域の医薬品開発を手がける窪田製薬ホールディングスは昨年、期待されていた治療薬候補の臨床試験が不調に終わった。共同研究先の大塚製薬との提携にピリオドが打たれたため、17年12月期の売上高はゼロの見通しだ。現在は協力相手を探しながら、開発費が10億円前後とこれまでより少なく市場成長も期待できるテーマに優先的に取り組む。

 大手企業にとって「一度、失敗した開発品に取り組むにはハードルがある」(窪田良会長兼社長兼最高経営責任者)。同社は自社単独の開発を進めながらウエアラブルの医療機器デバイスの研究など、新分野に挑む。「イノベーションを生むには、これまでの常識を全く外して考えることも大事」と窪田良会長は前を見据える。

 日本製薬工業協会によると、薬の候補として研究を始めた化合物が新薬として世に出る成功確率は約3万分の1という。VBにとって、開発パートナーを獲得できるかどうかは死活問題だ。大手企業の関心を引きつけながら、イノベーションの中心となれるか。それぞれの挑戦は続く。

医工連携
 医療ベンチャー(VB)の育成に向け、医療現場のニーズと企業の技術をマッチングする動きが広がっている。その『聖地』ともいわれるのが、医療機器の企業が集積する東京都文京区の本郷エリアだ。

 本郷エリアの歴史は明治時代にさかのぼる。東京大学医学部の前身である東京医学校の本郷移転で、医科器械関係の店が集まるようになり、次第に企業数が増えていった。医工連携組織「日本医工ものづくりコモンズ」(東京都千代田区)の柏野聡彦専務理事によると、本郷周辺には医療機器関連企業が400社以上ある。

 2013年から、企業の技術展示会「本郷展示会」が毎月のように開かれている。医療分野に参入したい全国のモノづくり企業と、本郷エリアの医療機器の製造販売会社がビジネスの種を求めて議論を交わす。

 モノづくり企業は、医療分野への参入障壁である「医師との関係構築や臨床ニーズの有無」(柏野専務理事)を、医療機器の製販会社と連携して克服する。医療機器の製販会社にとっても「得意分野を持ち寄り、それぞれの役割を決めて取り組む方が効率的」(フジタ医科器械の前多宏信社長)だ。

 人に処置しているようなリアルさを追求した医療用シミュレーターロボット「mikoto」を手がけるMICOTOテクノロジー(鳥取県米子市)の檜山康明社長は「ベンチャーはアイデアを出し、開発するのは得意だ」とエリアにある企業との連携に意欲的だ。

 コーディネート役を務める日本医工研究所(東京都文京区)の寺尾章社長は「1回の面談ですぐにマッチングすることは難しい。根気よく取り組んでほしい」と呼びかけている。

 支援する行政側も「ここ数年で医療系の専門部署を立ち上げる企業も出てきた」(宮崎県北部医療関連産業振興等協議会の杉本賢治郎氏)と手応えを感じている。

 エヌ・エス・エイ研究所(山口県宇部市)は山口県の支援を受け、リハビリテーション施設における体力検査「6分間歩行試験」(6MWT)のシステム開発に取り組む。

 同県の仲介を受け、本郷展示会でフジタ医科器械とマッチングしたことが開発のきっかけだ。フジタ医科器械が医療市場の分析や販売を、システムフレンド(広島市佐伯区)がオプションの測定システムを担当する。

 行政や支援機関などによるマッチングの場は充実してきた。今後は医工連携の好循環をいかに確立できるかが問われそうだ。

PMDAの近藤達也理事長に聞く
 日本で医療系ベンチャーの成功事例が少ない背景として、人材育成やメンターがほとんどいないことがある。戦略を描けなければ「テクノロジーで勝っても、ビジネスで負けてしまう」と、中尾理事は指摘する。産業振興には人材のすそ野拡大が必要だ。