「白戸家」シリーズのCMカット。元の家族のリビングを訪問する竹内涼真(写真:ソフトバンク)

あなたのお気に入りCMは、何位にランクインしているだろうか?
CM総合研究所が毎月2回実施しているCM好感度調査は、東京キー5局でオンエアされたすべてのCMを対象として、関東在住の男女モニターが、好きなCM・印象に残ったCMをヒントなしに思い出して回答するものだ。
最新の2017年10月後期(2017年10月5日〜 2017年10月19日)調査結果から、作品別CM好感度ランキングTOP30を発表。その中から、CM総研が注目するCMをピックアップして、ヒットの理由に迫る。

「白戸家」CM終了か、ざわつく視聴者

【1位〜10位】

調査期間中、東京キー5局からオンエアした3161作品のうち、作品別CM好感度1位はソフトバンク『SoftBank』の「白戸家」シリーズ、「元の家族を訪問」篇となった。樋口可南子と上戸彩のCM撮影中に、突然「元の家族の皆さん、お疲れ様でした」と古田新太と竹内涼真が乱入してくる。「私たち、替わっちゃうの?」といぶかる上戸に、「いや、僕の口からは」と思わせぶりに返答する竹内。新しいお父さん役の犬たちが連れてこられると、「本当に白戸家終わっちゃうの?」と上戸が不安げにつぶやく。

この作品に先駆けて放送された「10年間ありがとう・ダイジェスト」篇は、寂しげで郷愁を誘う音楽が流れる中、これまでの10年間の白戸家CMの名シーンをダイジェストでつなげた。その他、CMの撮影現場で上戸彩と樋口可南子がスタッフから花束をもらい、「10年間ありがとうございました」とねぎらいの言葉をかけられる作品や、新しい家族として古田、竹内、杉咲花が登場する作品など、いよいよ「白戸家」シリーズ終了かと思わせるムードを醸し出していた。

アンケートモニターからは、「白戸家がどうなるのか、気になる」という感想が圧倒的に多く、視聴者も出演者と同様に驚きながらも半信半疑のようだ。シリーズの終了(?)に対する意見としては、「悲しい」「寂しい」と残念がる気持ちのほうが、「楽しみ」「期待している」を大きく上回っている。

ところで、10年続く人気シリーズ「白戸家」のルーツをたどると、2006年の「予想外」シリーズに遡る。スーツ姿のダンテ・カーヴァーが出演し、シャープのAQUOS携帯の画面操作の動きと、当時ソフトバンクがボーダフォンを買収したことに掛けて「予想外」と表現した。

初めて『SoftBank』のCM作品が月間CM好感度のナンバーワンに輝いたのは、2006年11月度の「全員がスパイ」篇。極秘会議中に「スパイは出ていけ」と社長が発すると全員が退席、まさかの全員がスパイだったという意表をつくストーリーだった。

2007年に新料金プランの「ホワイトプラン」が発表され、さらに家族間の国内通話が24時間無料になる「ホワイト家族24」の新料金プランから、ホワイト家族→「白戸家」がスタートする。母が樋口可南子、娘が上戸彩、父が「犬」、兄が「外国人」のダンテ・カーヴァーという「予想外」な家族「白戸家」のCMはいきなり大ヒット。

その後はタイムリーな時事ネタや旬なゲストの登場、他業種とのコラボ、イベントやメディア連動など、テレビCMのあらゆる可能性に挑戦しながら、60回を数える作品別月間CM好感度ナンバーワンを獲得する国民的人気シリーズとなっていった。

「白戸家」のCMを2007年の立ち上げから手がけている、シンガタのクリエイティブディレクター、佐々木宏氏は「白戸家は、実は結構低予算のかなり短時間で苦し紛れに作ってスタートした企画だった(笑)」と2012年に語っている。ソフトバンクの孫正義社長から「家族同士通話24時間無料のCMを大至急作れ」と言われたものの、複雑な料金サービスを短い秒数の中で説明するのは困難な作業だ。

しかし、佐々木氏は電通のプランナー、澤本嘉光氏と「とはいえ、やっぱり面白くしたい」と粘り「いっそお父さんを犬に」「ダンテをお兄ちゃん役に」「声だけは華麗なる一族の北大路欣也さんに」など、それまでバラバラに契約していたタレントを強引に家族にしたり、斬新で大胆な提案をしたようだ。この企画に「GO」を出した孫社長の慧眼もさることながら、「白戸家」は佐々木氏や澤本氏の想像を超えて、まさに予想外に大化けしたCMシリーズとして成長していくこととなった。

佐々木氏は「ピンチはチャンス」という言い方は好きじゃなく、「ピンチはクイズ」なのだと言う。ピンチに遭ったら、少しでも楽しむことを考える。「ハイ、それでは問題です。こういうピンチは、どうやって逃れればいいでしょう?」と3択クイズにすると、つい答えてしまう。「誰かに言われたややネガなことをポジティブにとらえて100倍にして返すことでアイデアが化ける」のだとも話す。

白戸家シリーズの大胆な奇襲作戦

シリーズCMの課題は時間の経過とともにマンネリ化して急速に視聴者から飽きられてしまうこと、と前回「au『三太郎』CMが3年目でも飽きられない理由」に書いたが、まさに「白戸家」シリーズはこの壁と長年戦ってきた。そのたびにアイデアと勇気で何度もこの高い壁を乗り越えてきたが、10年目という節目に、大胆な奇襲作戦に出たようにも思える。

CMの注目点は「白戸家」シリーズの継続か、終了か。そのこと自体が大きなインパクトになるのは、10年続いた人気シリーズだからこそできること。まさに「ピンチはクイズ」。ハイ、それでは問題です。「白戸家は本当に終わってしまうのでしょうか?」と視聴者に問いかけている。

その後、「白戸家」シリーズの継続が発表されると、またまた大きな話題となった。案の定、視聴者は驚き、気にかかり、盛り上がる。否が応でも次の展開が気にかかってしまうのだ。今後も「新・白戸家」には目が離せない。

11月8日から放送を開始しているソフトバンクのCM「古田の説明」篇。

【11位〜30位】

12位はアマゾンジャパン『Amazonプライム』の「モーターバイク」篇がランクインした。放送から3カ月目となるが、依然として人気が高い。祖母が1人で暮らす田舎の古い家をバイクで訪れた孫の男性。迎えてくれた祖母の背中は小さく、老いを感じさせた。

バイクの前で微笑む若き日の祖父と祖母の写真を見つけた男性は、ふと思いつき、スマホであるものを注文する。翌日、祖母の元に届けられたのは、写真とよく似た星の模様のヘルメット。黄色に染められた菜の花畑の一本道を、孫が運転するバイクの後ろでヘルメットをかぶり、そっと孫の背中にほほを寄せる祖母。亡くなった祖父を思い出したのだろうか、目を閉じた祖母の笑顔が視聴者の胸を打つ。

『Amazonプライム』の「ライオン」篇、「ポニー」篇などの作品も手がけた博報堂のクリエイティブディレクター、はばき節子氏は、「今作は高齢化社会や高齢者の独り暮らしといった社会問題をテーマにした」と話す。「エモーショナルなCMは送り手側の一方的な意図が透けて見えると白けてしまう。できるだけ客観的に淡々と描くことで、どこかで本当に起こっている出来事だと感じてもらいたい」とも話した。

おばあちゃんに会いたくなるCM

リアリティを重視して起用したという孫とおばあちゃんの2人の演者の自然な表情に引き付けられた視聴者も多かったようだ。CMオンエアの直後から、「おばあちゃんに会いたい」「おばあちゃんの笑顔が見たくなった」といったコメントが多く寄せられ、はばき氏は「CMで描いた社会的なテーマを、「自分ごと」として受け止めていただけたことがとてもうれしかった」と語った。

おばあちゃんと孫のつながりを描いたCMには名作が多い。2013年から2014年まで放送された東京ガスの家族の絆シリーズの「ばあちゃんの料理」篇は、共働きの両親に代わって面倒を見てくれたおばあちゃんと孫のストーリー。成長を見守ってくれた祖母とその手料理の味の思い出が視聴者に共感を呼んだ。

三井不動産リアルティ『三井のリハウス』の亡くなったおばあちゃんは、孫娘にだけ姿が見える。祖母と住んでいた家を売ることになり、片付けをしている家族の元に現れていたずらをするお茶目なおばあちゃんは樹木希林が演じている。

孫にとっておばあちゃんは、親とは違う特別な存在だ。子供の頃の祖母は「優しくて」「話を聞いてくれて」「いつも味方になってくれて」無償の愛情を注いでくれる。孫が大人になって、祖母の弱々しく老いた姿に気づいて生の残り時間を思うとき、思い出への郷愁と思慕を切なく抱くことになる。こうした思い出がトリガーとなる感情が「おばあちゃん」CMに感動する理由なのであろう。