ナチスから降伏を迫られたノルウェー国王の3日間を描く『ヒトラーに屈しなかった国王』は12月からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開(東洋経済オンライン読者向けプレミアム試写会への応募はこちら)©2016 Paradox/Nordisk Film Production/Film Väst/Zentropa Sweden/Copenhagen Film Fund/Newgrange Pictures

第2次世界大戦において、アドルフ・ヒトラー率いるナチス=ドイツ軍は近隣諸国に対して侵略戦争を繰り広げ、数多くの悲劇をもたらした。数多くの国家がドイツ軍に屈する中、ヒトラーに「ノー」を突き付けた国家があった。それが北欧の国家、ノルウェーである。

12月に公開予定の映画『ヒトラーに屈しなかった国王』は、ナチス=ドイツから降伏を迫られたノルウェー国王ホーコン7世が、国の命運を左右する重大な決断をする様を描き出す。

ナチス=ドイツが侵攻、降伏を迫られる


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映画で描かれる時代は1940年4月。ノルウェーの首都オスロがナチス=ドイツ軍によって侵攻されてしまうところから始まる。その背景には、スウェーデンから鉄鉱石を輸入する際に経由することになる、ノルウェーのナルビック港のルートを確保したいという思惑もあったようだ。圧倒的な軍事力を誇るドイツ軍は、主要な都市を次々と占領、ノルウェーに降伏を求めた。

交渉にあたりヒトラーは、ドイツ公使のブロイアーに「政府の閣僚ではなく、国王に直接会って、降伏協定書にサインを求めよ」と命令する。サインしなければ、戦争はさらに続き、ノルウェー国民の命・財産が危険にさらされる。デンマーク国王である兄は、国民を危険にさらしたくないという思いから、先んじて降伏を受け入れている。信念をとるのか、国民の安全をとるのか……。ホーコン国王は究極の選択を迫られることとなる。

監督は『おやすみなさいを言いたくて』のエリック・ポッペ。主演は、『007』シリーズのミスター・ホワイト役でいちやく世界的に知られるようになった俳優のイェスパー・クリステンセン。彼は本作でプロデューサーとしてもクレジットされている。

映画は、重厚な歴史ドラマとして、ドイツ軍の侵攻とホーコン国王の行動と決断を、時系列に沿って一つひとつ丁寧に描いている。

昨年の夏に、原田眞人監督、役所広司主演による『日本のいちばん長い日』という映画が公開された。その作品では、「太平洋戦争を終結させるために、降伏という聖断を下した天皇がいかにして8月15日の玉音放送までの時を迎えたのか」を描き出していたが、この『ヒトラーに屈しなかった国王』は、まさに”ノルウェーのいちばん長い3日間”ともいうべき内容となっている。

”ノルウェーのいちばん長い3日間”を描く


ホーコン7世を演じるイェスパー・クリステンセンは、映画『007』シリーズで犯罪組織の幹部として登場する、ミスター・ホワイト役でもおなじみ ©2016 Paradox/Nordisk Film Production/Film Väst/Zentropa Sweden/Copenhagen Film Fund/Newgrange Pictures

ホーコン7世は1872年生まれ。デンマークの王子から、1905年に独立したノルウェーにおいて“国民投票”によって選ばれた国王となる。劇中でも「わたしはノルウェー史上初めて、国民から選ばれた王だ。この国は民主主義国家であるから、もっとも尊重すべきは国民の声である」といったホーコン7世のセリフがあり、つねに国民に寄り添ってきた国王であったことがうかがい知れる。

それゆえに自身が政治に介入してはならないという思いがある。非常事態で混乱している議会でも「君たちは国民から選ばれた。どんな状況下でも国を率いる責務があるのだ」と、叱咤激励する。

ちなみに映画で描かれた“3日間”の後に、国王とノルウェー政府はイギリスに亡命することになるが、ホーコン国王は、ラジオのBBC放送を通じて、国内に残るレジスタンスたちを鼓舞。国王退位を拒否し、ナチス=ドイツへの抵抗勢力として精力的に活動した不屈の人物として尊敬を集めた。1945年にノルウェーに帰国した際は、国民から熱烈な歓迎を受けたという。

さらに余談だが、ホーコン7世は日本とノルウェーのスキー交流の礎を築いた人物としても知られている。1909年、陸軍が八甲田山で行った冬季軍事訓練中に、210人中199名が遭難し死亡したという、高倉健主演の映画でも描かれたことのある事故だ。この事故を受けて、明治天皇にスキー板を贈呈。そこから両国のスキー交流が始まったといわれている。

1955年にはノルディックスキーに大きな影響をもたらした人物に与えられる、「ホルメンコーレン・メダル」を受賞している(この賞はのちに、日本人の荻原健司、船木和喜、葛西紀明らも受賞している)。

「民主主義度世界1位」の理由がわかる


ナチス=ドイツから逃れるため、国王や閣僚、議員らは、国内を転々とする ©2016 Paradox/Nordisk Film Production/Film Väst/Zentropa Sweden/Copenhagen Film Fund/Newgrange Pictures

日本とノルウェーは、1905年に国交を樹立して以来、第2次世界大戦時を除き、友好関係を築いてきた。外務省のホームページによると、日本とほぼ同じ国土面積だという。さらに、日本と同じ立憲君主国ということも、どこか親近感を抱かせるものがある。大ヒットアニメ『アナと雪の女王』もノルウェーをモデルに舞台設定がなされたといわれている。

そんなノルウェーだが、国連が3月に発表した2017年版の「世界幸福度ランキング」では、デンマークやアイスランドを押さえて1位となっている(日本は51位)。イギリス経済紙の調査機関「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット」でも、民主主義度が世界1位だと報告されている(日本は20位)。そんなノルウェーの民主主義の根っこにある部分とは何なのか。この映画にそのヒントが隠されているように思われる。

ノルウェー国家の礎を築いたホーコン国王を描いた映画とあって、本国ノルウェーでは空前の大ヒットを記録している。7人に1人が映画を観たというほどに社会現象化し、2016年の国内興行成績第1位を獲得した。ノルウェー版・映画アカデミー賞であるアマンダ賞で、作品賞をはじめ史上最多の8部門を受賞、さらにノルウェー国外の国際映画賞も受賞している。この作品のクォリティの高さに感動するのは、ノルウェー人だけではないことは間違いない。