野中郁次郎(のなか・いくじろう)  1935年(昭和10年)、東京に生まれる。早稲田大学政治経済学部卒業。富士電機製造株式会社勤務ののち、カリフォルニア大学経営大学院(バークレー校)にてPh.D.取得。南山大学経営学部教授、防衛大学校社会科学教室教授、北陸先端科学技術大学院大学教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授などを歴任。一橋大学名誉教授。著書に『組織と市場』(千倉書房、1974年。増補新装版、2014年)、『失敗の本質』(共著、ダイヤモンド社、1984年。中公文庫、1991年)、『知識創造の経営』(日本経済新聞社、1990年)、『アメリカ海兵隊』(中公新書、1995年)、『知識創造経営のプリンシプル』(共著、東洋経済新報社、2012年)、『戦略論の名著』(編著、中公新書、2013年)、『実践 ソーシャルイノベーション』(共著、千倉書房、2014年)、『全員経営』(共著、日本経済新聞社、2015年)、『知的機動力の本質』(中央公論社、2017年)、『日本の企業家 7 本田宗一郎 夢を追い続けた知的バーバリアン』(PHP経営叢書、2017年)などがある。

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いまや「イノベーション」はあらゆる業界の注目ワード。目まぐるしく変わる市場環境で生き残るために、多くの企業は今日もイノベーションの萌芽を懸命に模索している。そのイノベーションを組織的に生み出すための方法論として、世界的にも注目されているのが、野中郁次郎 一橋大学名誉教授が提唱する「知識創造理論」だ。では、組織の中で「知識創造」を実践するためには、何がポイントとなるのだろうか? ある東証一部上場企業が知識創造理論を実践してみたところ、理論の“生みの親”である野中教授自身も驚く結果が明らかになったという。その結果とはいったい……?

野中教授にとっても意外だった、
ある大手企業の「知識創造」実践結果

武田 前回では、野中先生が提唱されている「知識創造理論」を簡潔におさらいしていただきました。

野中 組織的に知識を生み出すためのSECIモデルには、「共同化(Socialization)」「表出化(Externalization)」「連結化(Combination)」「内面化(Internalization)」の4つのプロセスがあります。

武田 そして、この4つのプロセスを回していくことで、暗黙知と形式知の変換がなされ、組織的に知識を創造していくことができる、というわけですね(本ページ末尾の図参照)。

野中 SECIモデルができた後、エーザイ株式会社の内藤(晴夫)社長から「知識創造に興味がある」と連絡をいただきました。これがきっかけとなって、エーザイでは、従来の人材開発部門を「知創部」と名付けて、この理論を実践することになったのです。

武田 SECIモデルを応用して本当に知識が創造されるのか、実証実験をされたわけですね。

野中 SECIモデルの4つの各プロセスを、定量的に計測できるように設計しました。それぞれどのくらい実践できているか、5段階の簡単な尺度で点数化してもらったわけです。

 僕の仮説では、暗黙知が形式知化する「表出化」のプロセスと、形式知を暗黙知化する「内面化」のプロセスがカギだと考えていました。

武田 暗黙知から形式知、形式知から暗黙知という変換点が重要だと。

野中 ええ。ところが実際にやってみると、たとえその2つのスコアが高くても、必ずしも知識が創造されるわけではありませんでした。そして、いちばん重要なのは共同化(Socialization)だということがわかったんです。

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