野中郁次郎氏が明かす「知識創造がうまくいく組織」に共通する特徴
いまや「イノベーション」はあらゆる業界の注目ワード。目まぐるしく変わる市場環境で生き残るために、多くの企業は今日もイノベーションの萌芽を懸命に模索している。そのイノベーションを組織的に生み出すための方法論として、世界的にも注目されているのが、野中郁次郎 一橋大学名誉教授が提唱する「知識創造理論」だ。では、組織の中で「知識創造」を実践するためには、何がポイントとなるのだろうか? ある東証一部上場企業が知識創造理論を実践してみたところ、理論の“生みの親”である野中教授自身も驚く結果が明らかになったという。その結果とはいったい……?
野中教授にとっても意外だった、
ある大手企業の「知識創造」実践結果
武田 前回では、野中先生が提唱されている「知識創造理論」を簡潔におさらいしていただきました。
野中 組織的に知識を生み出すためのSECIモデルには、「共同化(Socialization)」「表出化(Externalization)」「連結化(Combination)」「内面化(Internalization)」の4つのプロセスがあります。
武田 そして、この4つのプロセスを回していくことで、暗黙知と形式知の変換がなされ、組織的に知識を創造していくことができる、というわけですね(本ページ末尾の図参照)。
野中 SECIモデルができた後、エーザイ株式会社の内藤(晴夫)社長から「知識創造に興味がある」と連絡をいただきました。これがきっかけとなって、エーザイでは、従来の人材開発部門を「知創部」と名付けて、この理論を実践することになったのです。
武田 SECIモデルを応用して本当に知識が創造されるのか、実証実験をされたわけですね。
野中 SECIモデルの4つの各プロセスを、定量的に計測できるように設計しました。それぞれどのくらい実践できているか、5段階の簡単な尺度で点数化してもらったわけです。
僕の仮説では、暗黙知が形式知化する「表出化」のプロセスと、形式知を暗黙知化する「内面化」のプロセスがカギだと考えていました。
武田 暗黙知から形式知、形式知から暗黙知という変換点が重要だと。
野中 ええ。ところが実際にやってみると、たとえその2つのスコアが高くても、必ずしも知識が創造されるわけではありませんでした。そして、いちばん重要なのは共同化(Socialization)だということがわかったんです。