楽天の則本昂大は、6月1日の巨人戦で7試合連続2ケタ奪三振を達成し、野茂英雄(当時・近鉄)が持っていた6試合連続2ケタ奪三振の記録を26年ぶりに更新した。ちなみに、ここまで(6月19日現在)則本の奪三振率は12.07%で、これは日本歴代1位のペースである。「いま日本でいちばん三振の取れる投手」の輝きは増すばかりである。


連続2ケタ奪三振は8試合で止まり、世界記録更新はならなかった楽天・則本昂大 与田剛投手コーチに、ここまでの則本のピッチングについて尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「楽天の投手コーチになって2年目になりますが、解説者時代に見ていた則本というのは、勝ちと負けがイーブンになる投手という印象がありました。もちろん、打線との兼ね合いも影響しますが、ここぞという場面で踏ん張れない傾向がありました。そうしたことを踏まえ、昨年、則本と『コントロールを重視していこう』という話をしました。インコース、アウトコースのライン出しをしっかりする。それができれば、勝ちが増えて、負けは減っていくだろうと」

 則本はここまでリーグトップの8勝(2敗)をマークしている。与田コーチは「見逃しの三振率は増えていませんが、ライン出しが奪三振の増加につながっていると思います」と言った。

「明らかなボール球が間違いなく減りましたよね。ボール先行になったとしても、打者が意識せざるを得ないコースに投げることができている。特に、変化球がベースの上にきています。打者というのは、ボールがベース上にくると、どうしてもバットを振ってしまう。加えて、則本は変化球の精度も高いので、そう簡単には打てません。バッターにしてみれば、途中までほとんど真っすぐにしか見えないはずです。そこから落ちたり、曲がったり……。それに変化球を意識するとドーンと真っすぐがくる。そこの見極めが非常に困難な投手ですよね」

 さて今回、則本が2ケタ奪三振の記録をつくるたびに新聞紙上などで登場したのが野茂英雄氏だ。”現役選手”が”往年の名選手”の記録を掘り起こす――これは野球というスポーツの素晴らしさのひとつだと思う。

 ここで野茂氏が「日本球界」に残した三振にまつわる記録をいくつか紹介したい。

2ケタ奪三振/70回(パ・リーグ記録)
シーズン2ケタ奪三振/21回(歴代1位・1990年)
4年連続奪三振王(歴代3位・1990〜1993年)
シーズン奪三振率/10.99%(パ・リーグ記録・1990年)

 与田コーチは、野茂氏と同期入団(ともに89年ドラフトで1位指名)で、アマチュア時代には全日本のメンバーとして世界を相手に戦った仲間でもある。

「僕にとって野茂は常に憧れの男なんですが、今回、則本が記録を更新するたびに『(野茂は)こんな記録も残してたんだ』と新たに知ることができました。わずか5シーズンで2ケタ奪三振が70試合もあったとか(笑)。野茂は年下で、プライベートでは気軽に電話したりすることもあるのですが、やっぱりとんでもない投手だったんだなと再認識させられました。その野茂の記録に、コーチという立場ですが、則本の横にいて挑むことができた。感慨深いものがありますよね」

 球史に残る”ドクターK”のふたりを知る与田コーチに、則本と野茂に共通点があるのか聞いてみた。

「野茂は体のサイズが大きいですが、則本は野球界では大柄とはいえません。リリースも野茂はかなり上から投げてきますが、則本はスリークォーターなど、いろいろと違いはありますが、共通している点を挙げるとすれば、真っすぐの威力です。スピードガン表示もともに150キロを超す真っすぐを投げますが、それよりもふたりとも打者が”怖さ”を感じる真っすぐを投げますよね。打者は『速いボールに詰まりたくない』という心理が働くので、そこを意識してしまうとボール球に手を出したり、コースの見極めができなくなったりします。ふたりにはそういった強みがあると思います」

 さらに与田コーチは、「ふたりとも強いハートがある」と言った。

「ストライクゾーンは、かなり細かく分割すれば12分割までいきます。そこから9分割、6分割……と広くなっていくのですが、ふたりは4分割ぐらいで、ときには2分割で大胆に投げられる勇気がある。相手が真っすぐを待っていようが、お構いなくストライクゾーンに投げ込んでくる。もちろん、強いボールを持っているからこそできることだと思いますが、気持ちの強さという部分での共通点はありますね」

 則本は6月15日のヤクルト戦で連続2ケタ奪三振の記録が「8」で途切れ、世界記録達成はならなかった。ファンは再び則本の”奪三振ショー”を期待するだろうが、与田コーチは慎重にこう語った。

「則本がいちばん望むことは何なのか。そこを毎試合、きっちりと確認しながら手助けをしていきたい。最優先はコンディションですが、ここまではトレーナーの方たちのおかげで順調にきています。もちろん、チームの優勝に向かって投げていますが、こういう”記録”というのは、もう一方の欲が出るところです。本人も気持ちのコントロールが難しいと思うので、そこをしっかりサポートしてきたいです。シーズンが終わって、彼がいちばん喜べる数字の手助けができればと。それが僕のいちばんの仕事だと思っています」

 プロ野球は交流戦が終了し、勝負どころの夏を迎える。稀代の”奪三振マシーン”となった則本は、どんなピッチングを見せてくれるのだろうか。

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