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●フラッグシップの新スマホ2機種
既報の通り、韓国Samsung Electronicsは、スマートフォンの新製品「Galaxy S8」「Galaxy S8+」を発表した。縦長のディスプレイやホームボタンの排除など、デザインを一新した意欲作だ。しかし、今回Samsungがアピールしたのは、新スマートフォンだけではなかった。

○初めて物理ホームボタンを省略

今回の発表会のキーワードは「Unbox your phone」。ベゼルを極限までなくし、さらに18.5:9という縦長のアスペクト比を採用したGalaxy S8は、確かに新時代を思わせる新たなデザイン。LG電子がLG G6で縦長(18:9)を採用したため、縦長というだけではインパクトが薄いが、Galaxyとしては初めて物理的なホームボタンを廃し、感圧式のホームボタンを採用したほか、従来から採用するエッジディスプレイに加え、背面も同様にカーブさせたことで、より持ちやすさが向上した。

ディスプレイサイズは従来よりも大型化したにもかかわらず、縦長ディスプレイによって横幅が短くなるなど、もはやディスプレイサイズでは語れない領域に入ってきた。ディスプレイ大手でもあるSamsung、LGがそろって縦長ディスプレイを採用したため、今後スマートフォンで縦長が一般化すると見られ、未来のスマートフォンに先鞭をつけた、と言っていいだろう。

モバイル部門トップのDJ Koh氏が「スマートフォンの新時代のデザイン」と胸を張るのは事実だろう。実際、今後iPhoneを含めて追随する可能性は高く、スマートフォンは細長くなると考えられる。もともと、携帯電話は細長だったのが、ディスプレイサイズを確保するために横が広くなり、そして再び縦長に戻っている、ともいえる。

●18.5:9の縦長ディスプレイ、そのメリットは
完全に新しいフォームファクターだとアピールされるGalaxy S8/S8+だが、縦長ディスプレイのメリットは、縦に長いWebサイトやSNSのタイムラインの閲覧が快適になるという点と、動画視聴時により没入感を得られる点が強調された。指紋センサーが背面になった代わりに、虹彩認証や顔認証機能が搭載され、セキュリティポリシーに応じて選択できるようになっているのも見逃せない。

見た限り、顔認証は非常に高速に識別してロック解除が可能だが、一般的にセキュリティレベルはやや下がるとされている。現時点で詳細は確認できなかったが、写真などを使って解除できてしまう可能性もあり、認証速度とセキュリティレベルで判断するといいだろう。心配な場合はこの中で最も安全とされる虹彩認証を利用することになる。インカメラの辺りを見だけでロック解除され、速度も十分許容範囲。

問題点は、従来のデザインから一気に変更になった点だ。もともとGalaxyはそれほど端末デザインの継続性は重視されておらず、新モデルの度にケースなどは流用できなくなるので、従来通りと言えばそれまでだが、「縦長」デザインは今後も継続していく必要がある。

○縦長スマートフォンは定着するのか

同社はディスプレイの左右が曲面となるエッジディスプレイを長く継続してきた。エッジディスプレイの継続によって、本体デザインやエッジ部の利用方法も洗練されてきている。今回採用された縦長ディスプレイも、継続することでアプリやサイトなどがこれを利用した新しいインタフェースなどを開発してくるだろうし、スタンダードとしての定着を目指して欲しいところ。関係者も、やるからには継続するとも語るが、もちろんユーザーから全く受け入れられない可能性もある。個人的に使った限りは持ちやすく見やすく、縦長は基本的に歓迎すべき流れに思える。とはいえ、これが定着するかは今後の展開次第だろう。

コンパクトデジタルカメラが陥ったカメラの画素数競争は、スマートフォンカメラでも同じ流れになりそうだったが、これもSamsungのデュアルピクセル技術投入による画素数を抑えたカメラでも、使い勝手さえ良ければ受け入れられることが分かった。同様に縦長ディスプレイが市場に受け入れられるかどうかも注目したい。

●音声エージェント「Bixby」の存在感
こうした本体側の新機能に加えて、新たに登場したのが「Bixby」だ。GoogleアシスタントやSiri、Cortanaに近いエージェント機能であり、インテリジェントなインタフェースとして動作する。今回紹介されたのは大きく4つの機能で、「Talk」「See」「Recommend」「Remind」となっている。

Talkは、いわゆる音声エージェント機能。文脈を理解することで、地図アプリでレストランを検索した上で、「これをキャプチャーしてシンディに送って」と話しかけると、その情報をメッセージとして送信してくれる。「これ」を理解するとともに、複数アプリにまたがった機能を提供できるというのがポイントだ。

Seeとしては、画像解析機能を備えており、カメラに写った被写体を分析し、Amazonで商品を検索したり、Google翻訳で翻訳したり、Foursquare経由でショップなどを検索したりと、さまざまな画像検索機能を提供する。

Recommendは、Google Nowに近い機能だ。ユーザーの普段の利用や端末の情報などからさまざまな情報を提供する。Reminderも同様に、ユーザーの利用状況に応じてリマインダーなどの情報を提示する。

これに加えて、IoTとの連携機能も強化。Samsung Connectアプリを利用することで家庭内のIoTデバイスと接続し、複数のデバイスも一度に確認したり設定したりできるようになる。例えば同社製の冷蔵庫がリモートアクセスによって外出先から中身を確認することができるようになる、といった具合だ。同社も認めるとおり、対応言語の少なさを始め、まだ機能としても未成熟だし、サービスもそれほど多くはない。今後の拡大と機能改善が重要になるだろう。

○Bixbyはどこまで市場に食い込めるか

SiriやGoogleアシスタント、そしてAmazonのAlexaなど、音声エージェントは最近のモバイル・IoT製品のトレンドである。これにSamsungも参入していくことが、今回の最大のポイントだ。

Galaxyではなく、Bixbyという新しい名称を作ったのは、Galaxyにとどまらない、同社の製品で横断的に提供される機能という意味づけを持たせたのかもしれない。逆に言えばなじみがない言葉であり、市場に受け入れられるかは未知数とも言える。

先行する各社とは異なり、Samsungは家電メーカーとしての側面もあるのが大きな違いだろう。Amazonと同様に、スマートフォン用のOSを持たないプラットフォーマーとして、同社の電化製品を中心に、家庭内の環境を連携させていくのが狙いとみられる。API公開によるオープンな姿勢となるかは現時点で明らかではないが、米国で一気に広まっているAlexa、そしてSiriやGoogleアシスタントなどに加え、Samsungの参入でエージェント機能はさらに競争が激化するだろう。Galaxy S8がBixby拡大の起爆剤となりうるかどうか。今後のSamsungの戦略に注目したい。

(小山安博)