有村架純が抱いた危機感――『3月のライオン』で見せる“ギアチェンジ”
「え? 有村架純? ちょっと違うんじゃね…?」――。これが、映画『3月のライオン』キャスト発表時の、原作ファンの多くの反応ではないだろうか? 映画が公開されればその不安や疑念は、驚きと称賛へと変わるはずだ。4月からはNHK連続テレビ小説『ひよっこ』のヒロインとして“朝の顔”を務めることになる、押しも押されもせぬトップ女優。その大仕事の前に、今後の女優人生においても、大きな転換点となるかもしれない“ギアチェンジ”をしっかりと行い、新たな魅力と確かな存在感をスクリーンの中に焼きつけている。

撮影/川野結李歌 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.



本人も驚いたオファー。それでも「楽しみだった」



――『3月のライオン』は羽海野チカさんの人気漫画を原作に、悩める高校生プロ棋士・桐山 零(神木隆之介)が、いくつもの出会いを通じて自分の居場所を見つけていく物語です。有村さんが演じるのは、家族を事故で失った零が引き取られた幸田家の長女、つまり零の義姉である香子ですが、キャスティングが発表されたときは「意外」という声が多かったかと…。



そうでしょうね。びっくりしましたよ、私も(笑)。どうして私なんだろう? って。原作のビジュアルと似ているわけではないし、性格も、いままで演じてきた役のイメージとは全然違うので、不思議で仕方なかったです。

――香子は自身もプロ棋士を目指していましたが挫折し、プロ棋士である父(豊川悦司)の愛情が、才能のある零に傾いていったことで家庭が壊れてしまったこともあり、零に対しつらく当たります。強く、攻撃的な女性で、ここ数年、演じてきた役柄とはかなり違いますね。

演じるのが楽しみでもありましたね。ここ最近、タイプは違えども、まっすぐで一生懸命な女の子の役が続いていたので、役としての幅を出すことに煮詰まっていて…危機感みたいなものが芽生えていたんです。そういう意味でも、私にとってリフレッシュにもなったし、改めてお芝居が楽しいって思える役でした。



――これまでとは「違う」と感じる香子という役に対して、どのようにアプローチしていったんでしょうか?

原作を読んで、私なりに香子の性格を理解し、こんな雰囲気で、こんなしゃべり方かな? と想像して、香子のような女の子に近い人物像が描かれている、参考になる作品はないかと探したりもしました。

――現場に入って、実際に演じてみていかがでしたか? 「イケる」と手がかりをつかんだ瞬間はありましたか?

自分の信じた香子をやるしかない、という思いで演じていました。最初のシーンが、零のマンションを訪れて「久しぶりねぇ、零」と声をかけるシーンだったんですけど…。

――ねっとりとへばりつくような香子の口調が印象的でした!

そこで、零とのふたりの空気感というのができて、「あぁ、この感じかも」という感触はありました。現場の雰囲気も、楽しくはあるんですけど、一種独特というか、ちょっと異様な重苦しさがありましたね。



――香子は零に対し、ただ攻撃的なだけではなく、いろんな感情が見え隠れします。ときにクスリと笑わせるようなやり取りもあったり、シーンごとに微妙に異なる距離感があり、何とも言えないモヤッとした空気が漂っています。

零に対して、あてつけのように嫌味ったらしく振る舞いつつ、なぜそれでも零のもとを訪れるのか? 本当は素直になりたいし、零とも家族でいたいし、自分のことを忘れてほしくないと思ってるんですよね。だから、寂しさや孤独を感じたとき、香子は零のところに行くんだと思います。

――ただ、そこで素直になれないからこそ、攻撃的にもなるし、それでもふと家族の情愛のようなものが垣間見えることもある。とはいえ、ふたりの間に血のつながりはなくて…。

神木くんとも「姉弟でも、恋人でもない、友達でもない“何か”に見えたらいいね」と話してました。零に対して時折見せる優しさは、香子の本心でもあるし…香子も香子なりに、自分の中で戦ってるんですよね。そういういろんな気持ち――グチャグチャした感情を見せられたらいいなと思ってました。



“悪女”ではなく「ほっとけない」愛しい女の子



――不倫相手である棋士の後藤正宗(伊藤英明)との関係性も重要ですが、零とのシーンと後藤とのシーンで、接し方を変えた部分はありましたか?

そこは意識しましたね。先ほども言った香子の抱える“寂しさ”って、後藤には奥さんがいて、帰る場所がある。でも自分にはない。「だから仕方なくあんたのところに来たのよ」って感じですよね(苦笑)。その寂しさの裏返しで、零に対しては攻撃的にもなるし、「私を忘れたら許さないわ」という気持ちがある。

――その一方で、後藤に対しては?

後藤さんには、零ほどには入り込めない“何か”があって…。香子は後藤さんのすべてを知っているわけではなく、むしろ、知らないことのほうが多いくらいなんでしょうね。でも、一緒にいて居心地がいいし、心のよりどころでもあり、失いたくないんですよね。だから、どこかで一線を引いて彼女なりに我慢しているところもあって…。



――そもそも、香子が抱える寂しさ――先ほどおっしゃった「帰る場所がない」という思いは、家庭環境に起因しています。棋士の家の子に生まれ、父親に愛されるには将棋で強くなるしかないという宿命を背負い、それでも思い通りに強くなれずに挫折して…。

すごくつらいですよね。愛されたくて、子どもの頃から一心に将棋に打ち込んできたのに、その父親から「もうこれ以上は無理だからあきらめなさい」と言われてしまう…。

――残酷な挫折ですね。

私自身、脚本を読んだとき、悔しさや「零のせいだ」と恨む気持ち以上に、「あ、見放されちゃったんだ…」という寂しさのほうが大きかったです。心にポツリと穴が開いたような感覚。「愛されてないんだな、私…」という気持ちで、すごくつらかったろうなと思いました。



――香子という役に対して「有村架純、初の“悪女”挑戦」という、わかりやすい報じられ方をされていますが、そう考えると彼女は決して“悪い人”ではないんだなと感じます。

香子はヒロインではないし、映画の中で特別何か目立つことをしなくてはいけないという登場人物ではないと思っています。ただ、私自身、香子に対して「ほっとけない」という気持ち、愛おしさを感じながら演じていました。それを見てくださる方々にも感じていただけたら、うれしいですね。

――改めて、ご自身で完成した作品を見て、これまでとは違う自分、見たことのない自分の新たな一面を発見することはできましたか?

正直、見るまですごく不安でした。話し方や動きも、やりすぎていないか? とってつけたようなものになっていないかと。でも、映画を見ながらふと「あ、こういう子、もしかしたらどこかにいるかも」って思えたんです。その瞬間にちょっと安心しました。まだまだ決して満足はしてませんが、これまでとは違う一面を残せたのかなと思います。



有村流 メンタルコントロールの秘訣とは…



――映画の中で、香子も零も自分の才能に向き合うという瞬間があります。有村さんは将棋とは違えど、芸の世界に身を置いていますが、“才能”とはどういうものだと思いますか?

難しいですね…。「才能とは努力だ」という言い方もできるかもしれないけど、でもやはり、生まれ持った“何か”って絶対にあると思うし、周りに対して「あぁ、これは私には絶対にできない」と、その人だけの才能を感じることはありますね。

――以前、主演された映画『夏美のホタル』でも、「才能とは覚悟だ」というセリフがありましたね。

そうですね。あれは本当にいいセリフだなと思います。

――有村さんはその“覚悟”と言えるような、精神的な強さはお持ちですか?

そんなに心が折れるタイプではないなと思います。自分なりに、気持ちを上げるようにはしています。



――実際、壁にぶち当たったり、苦しいとき、どうやって自分の気持ちを上げるんですか?

そこは“戦い”ですね。やっぱり日々、落ちるときは落ちるし、ネガティブになるときもあるんですよ、どうしても。でも、落ちていくのが気持ちいいかと言われると、気持ちよくない。どこかで自分で考え方を変えて、うまくコントロールして上げていくしかないんです。

――「落ちるときは落ちる」けど、どこかで歯止めをかけるしかない…。「○○を食べる」とか「お風呂に入る」といった“解決法”というよりは、セルフコントロールで自分に言い聞かせる感じ?

「いつまでもこんなウジウジしてたら、仕事にならへん!」って(笑)。



唯一無二の立場…自分の代わりがいないという“責任感”



――芸能の世界の結果や実力は、将棋のように白黒はっきりとつくわけじゃないですよね。もちろん興行収入や観客動員数、視聴率という数字はありますが、それがイコール実力ではない。ご自身なりに、どのように“結果”を判断し、受け止めているんですか?

それも本当に曖昧な世界にいるんだなって思います(苦笑)。はっきりしたものがないから、それが本当によかったのか? ダメだったのかは正確にはわかんない。たとえば、お客さんはあまり入らなかったけど、素晴らしい映画というのはいくらでもあります。そこはもう、自分で判断をつけるものではないんですよね。

――自分なりの目安や基準を持っているというわけでもなく?

そうですね。ないと思います。

――女優という仕事に対するモチベーションになっているものは何ですか?

自分がその作品に残したものが、誰かの心にちゃんと届いたとき――そういう声を聞いたり、身近な人から「よかったよ」と言ってもらえる。ただそれだけでうれしいし、この仕事をしていてよかったって思います。

――ご自身の成長や変化というのは、どのようにして測ってらっしゃいますか?

ふとした瞬間に、ちょっと気持ちの余裕を感じたりすると、「あ、いまちょっと周りが見えてるかも」と思えて、少しは自分も変われたのかなって感じますね。

――デビューからここまで、キャリアを積んでいくなかで自分が「変わったな」と感じますか?

感じますね。女優としての成長というのは、自分ではなかなかわかりませんが、お芝居への取り組み方、仕事への向き合い方は確実に変わったと思いますし、それは折々で「やっぱり昔とは違うんだな」と感じます。



――以前から、ずっと女優になりたいと思っていて、過去には何度もオーディションに落ちた経験もあると伺っています。それでも挑戦を続け、いまの地位まで登り詰めた有村さんなので、仕事への覚悟や姿勢というのは、デビュー当時からしっかりとお持ちだったんじゃないかと思っていましたが…。

それでもやっぱり変わりましたね。“責任感”ですかね…? 自分の代わりがいない――たとえば健康に気をつけたり、セリフをきちんと入れたうえで現場に来て、本番で100%の力を出すって、当たり前のことなんですけど、でもいま、この役でそれができるのは自分しかいないんだという責任感ですね。

――唯一無二の立場を任されるからこそ、責任も大きくなる。

広告で自分が“顔”になるというのもそうですよね。いま、自分はいろんなものを背負ってるんだなと。それを自分でしっかりと理解、自覚できているというのが、大事なことだなって思ってます。

――2月に24歳になりましたが、24歳というのは“20代前半の大人になったばかり”ではないですし、アラサーでもないですし…。

そう、すごく中途半端だなって感じてます(笑)。まずは25歳に向けて……そこを目指して、この24歳の1年をどう過ごそうかと考えている最中です。

――4月から放送が始まる朝ドラのヒロインという大仕事は、この“中途半端な”1年を過ごすうえで、ひとつの大きな支柱になるのでは?

24歳の年に参加する作品は、ほぼ『ひよっこ』のみになると思うので、すべてをここに捧げたいし、燃え尽きたいです。その後の25歳になるタイミングで出演する作品がどうなるのか…? すごく楽しみだし、大切にしたいので、そこに向けて頑張ります!



【プロフィール】
有村架純(ありむら・かすみ)/1993年2月13日生まれ。兵庫県出身。B型。2010年女優デビュー。2013年、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』で注目を集める。2016年には月9ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系)に主演。このほか映画『ストロボ・エッジ』、『ビリギャル』、『夏美のホタル』に主演。2017年は4月3日から放送のNHK 連続テレビ小説『ひよっこ』に主演するほか、映画『関ヶ原』(8月26日)、『ナラタージュ』(10月)も公開となる。
【Twitter】@Kasumistaff
【公式サイト】http://www.flamme.co.jp/actress/profile.php?talentid=11
【ブログ】http://ameblo.jp/kasumiarimura


■映画『3月のライオン』
【前編】3月18日(土)/【後編】4月22日(土)
2部作連続・全国ロードショー!
http://www.3lion-movie.com/index.php


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■応募方法:ライブドアニュースのTwitterアカウント(@livedoornews)をフォロー&以下のツイートをRT


■受付期間:2017年3月17日(金)12:00〜3月23日(木)12:00

■当選者確定フロー
・当選者発表日/3月24日(金)
・当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、発送先のご連絡 (個人情報の安全な受け渡し)のため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
・当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから3月24日(金)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただきます。3月27日(月)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。

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