「やってみたいけど、できない」、そんな気持ちを埋めてくれるのが、「YouTubeの動画」である。特に筆者が好きなのは、大食い動画。お気に入りの大食いYouTuberがいるほどハマっている。

日本だけでなく、世界各地で日々アップロードされ人気を集める大食い動画が、そこまで人々を引きつける魅力はなんなのか。そこで今回は、恋愛・夫婦関係の悩みからビジネス心理や病気など様々な問題相談を得意とする心理カウンセラー・近藤あきとし先生に、「大食い動画が世界的に流行した理由」を伺った。

YouTubeは、「一度はやってみたいけど・・・」を叶えてくれる夢実現の製造所


「お腹がはちきれるまで、美味しいものを食べたいと一度は抱いたことがあると思いますが、実際には体力的、金銭的に限度があるものです。そのため、『大食い』というのは、夢の実現として優先順位はあまり高くはないと思います」(近藤先生)

一般的な成人の胃の容量は1.5リットルと言われている。満腹になるまで食べようと思えば食べられるが、体重が気になったり、食べ過ぎて気持ち悪くなったり、お金がかかったり、大食いの代償の方は大きく着くので、大人になれば「大食いをしよう」という気持ちは薄れるものなのだ。

「しかも現代人は、常日頃から節制することを自分に課しているので、お腹いっぱい食べたい欲求に対して無意識的、意識的にも抑圧している状態にあると思います。そこで代替となるのが、大食い動画なのです。動画の中では、普通では考えられない量の食事をペロリと平らげる様子が映し出されます。観る側にしてみると、自分の中の隠れた欲求を疑似的に満たしてくれることが、言いようのない快感として感じられると思われます。また、『普通ではないこと』をした時に湧き上がるちょっとした背徳感や高揚感が満たされるという人もいるでしょう」(近藤先生)

視聴者は大食いYouTuberに対して、どんなことを期待しているのか


「とんでもない量の食事を表情を歪めずに平らげる姿は、アスリートとして人々を感嘆させ、感動を与えるのだと思います。ただ、別の面から見ると、不安やストレスとも関係しているかもしれません。ストレスで過食をしてしまうという人もいますが、満腹になることで、消化器官にエネルギーが集中し、一時的に緊張が緩むため眠気が襲います。自覚していないストレスを抱えていて緊張状態にある人が大食い動画を観ることで無意識的に、心身を緩めたいという欲求を満たしていることも考えられます」

無自覚のストレスを軽減させるために大食い動画を観て、スカッとした気持ちになる。実際、過食をすると「あんなに食べてしまった」という罪悪感が生まれ、それがストレスになるという悪循環に陥りやすい。大食い動画は、ストレスで過食をしてしまいやすい人にとっては、ヒーリング効果があるのかもしれない。

男性と女性で、大食い動画の見方に違いがあった!


「女性は、ダイエットに意識が向きやすいので、『自分の分まで食べて』と欲求を転嫁していると思われます。一方、男性は、「こんな量の食事を○分で食べるなんて!」と人間の限界を観たいという欲求があるのではないでしょうか」

ある有名大食いYouTuberの女性が、「意外にも視聴者さんは女性が多い」と言っていた。ダイエットに関心のある女性は、常に食欲を自制しながら生活している。思いっきり食べたい気持ちを満たしてくれるのが、大食い動画である。しかもスレンダーで、可愛く、食べ方も綺麗となれば、見ていて不快にもならず、憧れを抱きやすいのだろう。

大食い動画は、現代の一家団欒!?


「食事をしながら交渉をすると商談がまとまりやすいという『ランチョン・テクニック』と呼ばれる手法をご存知でしょうか? 人は食事中の方が相手に対して親密感や心地良さを抱きやすいと言われています。現代では人と人の関わりが以前より希薄になったと言われますが、インターネットの普及で画面の向こう側との双方向のコミュニケーションや視聴者同士の関わりが可能にになり、ネットを介した関係性に違和感のない人が増えているように思われます。昭和の時代なら家族みんなでテレビを囲んで団欒していた『お茶の間が』、パソコンの画面の前になったということかもしれませんね」

テレビタレントよりも、YouTuberの方が親近感のある憧れの人という新しいジャンルとして確立しているのだろう。「箱を開けば、いつでも会える。しかも好きな時に気軽にコミュニケーションを取れる」と言った利便的で、コスパの良い関係性が、現代人にマッチしているのかもしれない。
(カメイアコ)