普段、何気なく「気合」を入れるシーンがあるだろう。ビジネスパーソンであれば、これから新規の営業開拓へ乗り出すときや、プレゼンテーションに臨むときなど数知れない。主婦であれば、たまった家事を短時間で片付けなければならないときや、寝不足でも朝早く起きて家族の弁当づくりに励むときなどがあるだろう。

そんなとき、「よっしゃ!」などと大きな声を上げると、なんだか気合の入り方が違う気がする。そもそもなぜ声を出すと気合が入りやすいのだろうか。その謎を解くために、面や小手などを打つときに大きな声を上げる剣道にヒントがあるのではないかと予想した。そこで剣道の達人に、気合と大声との関係を聞いてみた。

剣道の打突(技)では声を挙げるのが必須条件!?



よく、剣道の試合で「め〜ん!(面)」「こて!(小手)」などの声をあげて打つシーンが見られる。しかし、それはただパフォーマンスのために声をあげているのではないのである。噂によれば、声をあげないと打ったことにならないというが、それは本当なのだろうか。確かめるべく、全日本剣道連盟事務局に聞いてみた。

「剣道では、面や小手などを打つ際に『有効打突(ゆうこうだとつ)』の要件があります。これは剣道試合審判規則の第12条に書かれています。そこには、『充実した気勢、適正な姿勢をもって、竹刀の打突部で打突部位を〜』とあります。この『充実した気勢』というのは、打とうとしている部位に対し、面や小手などの声を出すということも含んでいます」
第2節 有効打突
[有効打突]
第12条 有効打突は、充実した気勢、適正な姿勢をもって、竹刀の打突部で打突部位を刃筋正しく打突し、残心あるものとする。
「剣道試合審判規則 第2章 試合」


このように、剣道では、打突といういわゆる技をかけるときに、声をあげることを「気勢(きせい)」というらしい。気勢とは、辞書で引くと「意気込んだ気持ち。勢い。元気。 」と出てくる。大声をあげることで、この「気勢が充実」していることを表現することになるようだ。

ところで、「気合」を辞書で引いてみると、「あることに精神を集中してかかるときの気持ちの勢い。また、それを表すかけ声。」とある。「気持ちの勢い」というところからして、「気勢」とは深いつながりがあると考えて良さそうだ。

大きな声を上げたほうが気合を入れやすいのはなぜ?


そこで、なぜ大声をあげながら打つと「充実した気勢」が実現されやすいのかを全日本剣道連盟事務局に聞いてみた。

「大きな声を出すと体内で反響の効果があるといわれています。特に頭蓋内では、このことで、脳が活性化されるということです。
剣道では、相手を制したり、自分の士気を高めたりするために声を出すこともありますが、科学的にいうならば、大きな声を出すことは、脳が刺激されて、集中力が高まるともいえます」

大声を上げて脳が活性化されることは、剣道において集中力が高まるなどの効果が期待できるようだ。それは普段、我々の生活の中で「よっしゃ!やるぞ!」などと大声をあげながら気合を入れることにも通じるにちがいない。実は、脳が刺激され、これからなすべきものごとへの集中力がより高まっていたようだ。

今後は、脳を活性化させたい、集中力を高めたいというときにこそ、大きな声をあげて気合を入れてみてはいかがだろうか。
(石原亜香利)

取材協力/全日本剣道連盟事務局
http://www.kendo.or.jp/