日本人の主食といえば、言うまでもなく「お米」です。我々は、お米に育てられたと言っていいでしょう。

そして、違う意味でお米に育てられたのはこちら。


この「ナゴヤダルマガエル」は、広島県の絶滅危惧I類に分類される希少なカエルです。

そんなこのカエルが生息する田んぼで育てられたお米『ダルマガエル米』が、現在話題になっています。



絶滅危惧種「ダルマガエル」が住む田んぼでお米を栽培


そもそも、なぜダルマガエルが絶滅危惧種になったかをご説明しましょう。元々、川の近くにある湿地に住んでいたのがカエル。その周りに人間が田んぼを作っていき、カエルの側も田んぼでの生活には対応できていました。
しかし近年の日本の稲作では稲の茎を必要以上に増やさないために、田から一度水を抜いて乾かす「中干し」を出穂期前に行います。実は、この「中干し」とダルマカエルの繁殖期は同時期だそう。要するに、水を抜かれるとオタマジャクシが干からびて死んでしまうのです。

ここからは、『ダルマガエル米』を販売する「広島市安佐動物公園」飼育・展示課の林さんにご説明していただきます。
「ダルマガエルはトノサマガエルと特徴が似ているんですが、ジャンプ力はトノサマガエルより劣ります。要するに移動力が乏しく、田んぼに依存しているカエルです」(林さん)

しかも、2003年にはダルマガエルの自然生息地であった水田が開発のために埋め立てられることに。そこで、“移転先”として別の田んぼが決定し、人間の手によってダルマガエルの引っ越しが行われました。


移転先の田んぼでも稲作は行われるのですが、「中干し」を必要としない品種を選ぶことでダルマガエルの生活にも配慮。こうして、『ダルマガエル米』は滞りなく栽培されます。

ちなみに今期、『ダルマガエル米』として選ばれた品種は「あきろまん」です。


「お米には『食味値』というのがあり、ダルマガエル米の値は82でした。ただ、あくまで皆様の個人的な感想となりますが『同じ82のお米より味に深みがある気がする』と感じる方もいらっしゃるようです」(林さん)

ダルマガエルが住むおかげで、無農薬でお米を栽培できる


実は、ダルマガエルの方もただ住んでるわけじゃない。栽培する農家に、ちゃんとメリットをもたらしています。何しろ、ダルマガエルは多くの虫を食べてくれる。


結果、この田んぼで育てられる『ダルマガエル米』は無農薬で栽培することができるのです。

一方、田んぼでダルマガエルが生活していても、農家の側にデメリットが生じることはないとのこと。
「農家の皆様も、ダルマガエルの“生息しやすい環境づくり”に意義を感じていらっしゃるようです」(林さん)
ちなみに、ダルマガエル米を栽培している田んぼは5枚あるそう。


その範囲なら農家の皆さんにとっても支障はないし、「カエルの鳴き声も微笑ましい」と感じていらっしゃるようです。

“売る側”も“買う側”も、意義に感じている


ここで気になるのは、『ダルマガエル米』販売のスタート時から比較するとダルマガエルの数は増えているのか? ということです。
「はい。放流をしない年でも、新しいダルマガエルは生まれています」(林さん)


あらかじめ育てていたオタマジャクシを田んぼに放すなど、ダルマガエルの保護活動に取り組んでいる広島市安佐動物公園。現在では、地域の小学生に協力してもらいつつ放流を行うなど、地元ぐるみの活動になっています。

そして、それはお米を購入する消費者側も同様。
「『ダルマガエル米』は普通のお米より価格が高めに設定されているのですが、それを超えて購入していただく方も多いです。やはり、『自然環境保護に参加している』ということを意義に感じられる方が多いようですね」(林さん)

そんな『ダルマガエル米』は、「広島市安佐動物公園」以外にも広島県世羅町にある道の駅で販売されています。価格は、1袋(2kg)で1,500円(税込)。
「在庫状況次第なのですが、当園にご連絡いただければ通信販売も対応させていただきたいと思います」(林さん)

絶滅危惧種に指定されるカエルとともに育った『ダルマガエル米』。このお米を食べれば、人間とダルマガエルが自然に共存していると実感できそうです。
(寺西ジャジューカ)