「“声優のお約束”にとらわれない芝居をしようと思った」――映画『君の名は。』島崎信長インタビュー

撮影/アライテツヤ 取材・文/照沼健太

声優になる前から、新海監督の作品に触れていた。
――『君の名は。』への出演は、オーディションで決まったんですね。
そうです。主演の神木隆之介さんたちの名前は発表されていたので、それも含めて想像を膨らませてオーディションに臨みました。新海監督の作品はもちろん観ていたので、出演が決まったときは嬉しかったです。
――新海監督の作品でいちばん印象に残っている作品というと?
やっぱり『秒速5センチメートル』ですね。初めて観たのは高校生の頃かな…? 当時はまだ声優になりたいと考えていなかったので、単純に「すごく絵がキレイだな」とか「キャラクターの表情が豊かだな」とか思いながら楽しんでましたね。新海監督はすごく繊細でステキなものづくりをされる方だなと感じました。
――本作は、都会に住む高校生・立花 瀧と、田舎町に住む女子高生・宮水三葉が夢の中で入れ替わるところから物語が始まります。最初に台本を読んだとき、どう思いましたか?
とにかく「良い話だなー!」と思いました(笑)。
――いや、本当に良い話ですよね(笑)。
はい(笑)。台本には「ト書き」という、そのキャラクターや場面の状況を説明する文章が載っているんですが、『君の名は。』にはそのト書きがびっちり書き込まれていて、台本自体もすごくおもしろかったんですよ。それと、台本と一緒にVTRもいただいたんです。
――VTR?
はい、制作中の映像なんですけど、新海監督がキャラクターのセリフを全部吹き込んでいたので、完成品に近いような映像で。
――監督が演技もされていたんですか?
はい。口パクのガイドとしてだけじゃなく、きちんと芝居ものせられていました。だからそのVTRを見て、普通に感動しちゃいましたね。
――その時点で映画を一本観ちゃった、みたいな。
ええ。「良い話だなぁ」ってしみじみ思いました。

もしも女の子と身体が入れ替わったら…?
――瀧と三葉が入れ替わりを繰り返すうちに近づき、そしてときにすれ違う。そんな様子に観客はハラハラドキドキしたり、切なくなったり、いろんな感情が生まれると思います。島崎さんはふたりの関係性についてどう思いましたか?
ときめきましたね。ときめきますよね!?
――ときめきますね(笑)。
“果てしない距離があるのに一番近いところにいる”っていうのがいいですよね! どうしようもなく抗えないものがふたりのあいだにはある。それにも関わらず、互いの距離を詰めていこうとする姿に感動しました。
――抗えないもの…?
たとえば、時間とか。どんな感情も時間が経つと薄れていきがちですよね。だから時間って、どちらかというと、強い感情を薄めたり、距離が離れていったりしていくものというイメージが僕のなかでは強いんですけど、このふたりにとっては違うという。



――相手になって生活をするうちに、ふたりの絆は深まっていくのかもしれませんね。
自分の身体を相手に預けるって、よく考えたらとんでもないことですよね(笑)。相手がどんな環境にいるのか、どんなことを考えているのか、身をもって理解できるから当然、ふたりの距離は近づいていくよなぁと思います。
――相手のことを考える時間が必然的に長くなりますもんね。
そうそう。自分が相手らしく振る舞うために、相手ならこう考えるのかな、こんな行動をとるかなって想像するだろうし。そのうちにだんだんと惹かれ合っていくんでしょうね。“理解すること”や“共感すること”って、恋愛にすごく近い感情なんだと思います。

――三葉になった瀧が胸を触ったり、瀧になった三葉が女子力を発揮したりとコミカルなシーンもありますが、もし、島崎さんが一日だけ女性と入れ替わることができたら……何をしたいですか?
「女の人だけのときにどんな話をしてるんだろう?」っていうのは気になります。人それぞれだと思うし、環境によっても違うと思うけど。役者としても気になるんですよね、女の人同士が会話をしているときの雰囲気って、どんなふうなんだろう…って。
――男性からしたらビックリするような話をしていたりして…(笑)。
アハハハ。おもしろそうだけど、ビビっちゃうかもなぁ(笑)。…まぁ、やっぱり瀧と同じく、身体の違いをいちばん気にすると思いますけどね!(笑)
――そりゃ触りますよね(笑)。
うん、そりゃ気になるよねっていう(笑)。でも、身体が入れ替わるっていうファンタジーやSFに近い要素も、アニメならではの表現だなと思いましたね。
――アニメならでは?
たとえば、見た目は瀧で中身が三葉の場合、見た目は男性だけど女性らしい動きになりますよね。それを役者さんがやるとしたら、まず女性の所作から身につける必要があるんじゃないかなって。
