数年前まで総本部で部屋住みをしていたR氏

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 分裂騒動で混迷を極める日本最大の暴力団・六代目山口組だが、その総本部の映像をテレビなどの映像で観たことがある人も多いだろう。

 神戸市灘区篠原本町の、閑静な住宅街の一角。坂の途中にある重厚で巨大な日本家屋の周囲は高い石塀と白壁で囲まれ、さらにその上を先端が鋭利に尖った鉄柵が張り巡らされており、部外者が内部を窺い知ることはできない。まさに堅牢な要塞のような構造となっている。

 いったい、その内部はどうなっているのか? ネット上では「ISの拠点のように武器庫があり、射撃場まである」なんて噂も流れているが、実際のところどうなのか。

総本部の部屋住みは分裂後に半減か

 今回、数年前まで総本部で「部屋住み」をしていた元組員(30代)のR氏に話を聞くことができたので紹介したい。ただ、あくまでR氏の見た総本部であり、多少の記憶違いがあるかもしれないことを、まずはお断りしておく。ちなみに、山口組総本部の「部屋住み」とは、全国の系列組織から集められた“精鋭”の若い衆のこと。分裂前は20名だったが、現在は10名前後とその数を減らしているようだ。

「すでに組からは足抜けしているが、世話になった恩もある。間取りなど、内部の全体像がわかるような細かい話はできないが、大まかな話ならできる。それで構わんなら、教えましょう」

 R氏はそう前置きすると、知られざる山口組総本部の一端を明かしはじめた。

「家宅捜索の映像なんかでよく見ると思うが、立派な正面の門は、五代目時代の本家入口で、組員がここを使うことはまずない。定例会などで直参組長らが出入りするのは、ここではなくガレージのほうの門。通常は鉄のシャッターが下りていて、その周囲を10個近い監視カメラが取り囲んでいる。ハロウィンのときに、地元の子供たちに菓子を配るために開放するのはこの入口。ここを通ると、その奥は車100台分の駐車スペースとなっていて、そこには“食堂用”の小屋もある。幹部お付きの若い衆は、基本的にこの小屋で食事とるんですわ」

 総本部の敷地建物は、もともとは三代目組長・田岡一雄氏の邸宅、通称「田岡御殿」のあった場所で、当時総本部は神戸市内の別の場所にあった。その後、四代目暫定体制時代、三代目未亡人が逝去後、組が田岡御殿を買い取ったうえで、そこを総本部としたのである。

 四代目組長・竹中正久氏はここを居にする前に銃弾に倒れてしまったが、五代目組長・渡辺芳則氏は、本家一階にある「奥の院」に居住し、当時は本家・総本部が一体であった。では現在の六代目はどうなのか?

「基本的に、六代目は本拠地の名古屋に住んでおられ、本家・名古屋、総本部・神戸と分離した状態です。その間、留守を守るのは、本部事務所詰めの人間と、我々住み込みの若い衆、それと参勤交代のように行き来している直参組長らです」

 つまり、六代目は神戸に常駐しているわけではなく、それが、直参組長による「分裂密談」を許した遠因でもあるようだ。

「襖の障子には、すべて菱のマーク」

 総本部の内側を、R氏に案内してもらおう。まずは、組員の出入り口であるガレージから。

「定例会などが行われると、ここが一番、人でごった返します。入口から建物の間には車100台ほど駐車できる庭がある。五代目時代は、直参のお付きの若い衆も総本部の中に入れたんだが、六代目になってからは直参以外は中に入れず、みな、この駐車スペースで待機することになった。序列ごとに駐車の場所が決まっており、きっちり縦列駐車で停める決まりで、定例会のときは各組からガレージ番を出し、整理・警備に当たります。各組には、このガレージ番のIDカードが割り振られ、これがない者は、いくら顔を知られていても、中に入ることはできない」

 建物の内部はどうなっているのか? 

「総本部で一番大きな部屋は、2階にある約80畳の大広間。常に新しい畳の匂いがして、使っても使わなくても、毎日、部屋住みの若い衆が塵ひとつなく掃除するのが習いだった。襖の障子には、すべて菱のマークが木枠で縁取られている。窓はすべて防弾ガラスという話でした」

 他にどんな部屋があるのか? 

「代表的なのは、当代の執務部屋(組長室)と、上から執行部部屋、若中部屋、幹部部屋、舎弟部屋。それに事務室と、住み込みの部屋と炊事場。簡素な住み込み部屋以外は似たつくりで、大きなソファ一式と、会議机にイス。序列が上になるほど高級な家具となる。たとえば、会議用のイスで背もたれが首まであるのは執行部の部屋だけ。各部屋には高級布団が数組ずつあり、寝泊まりもできる」

 R氏がもっとも印象的だったと語るのは事務室である。

「ほとんど警備会社のオフィスのような雰囲気だ。壁一面に20個くらいの40インチのモニターが埋め込まれていて、壁に向かって長いテーブルが置かれて、数人の組員が24時間体制で監視している。警備は厳戒で、数時間に一度、総本部の周囲を担当の住み込みが車で巡回もしている」

 “秘密の部屋”や通路などの存在は?

「それは言えないし、実際、部屋住みの若い衆にはわからない部分も多い。幹部以外、“ご法度のエリア”もある。とにかく、やけに重厚で、異様にしんと静まり返った場所なので、ストレスは溜まったね。そんなときは、休憩時間に、屋上にある“トレーニング場”で汗を流す。といっても、サンドバッグとちょっとしたダンベルがある程度なんだが。あ、ここで汗をかいても、総本部には風呂は1個だけ。それも家庭用のごく普通のサイズの風呂しかない。五代目が住んでいた“奥の院”には檜風呂があるが、六代目になってからはほとんど使われていないようだ。まあ、とにかく、定例会のない本部の日常は、禅寺のように静かで、厳かな雰囲気が漂っていた。声がよく響くんだ」

 日本最大の暴力団・山口組中枢の一端である。

(取材・文/根本直樹)

根本直樹1967年生まれ。週刊誌記者を経て、2001年よりフリーに。在日外国人犯罪、ヤクザ、貧困ビジネスから人物インタビューまで幅広く取材執筆。著書に『妻への遺言』(河出書房新社)、編著に『歌舞伎町案内人』などがある