グレート小鹿の「小鹿注意報!」―黄金のプロレス伝説、ここにあり!!

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 ここ最近、朝日新聞がプロレスをよく扱う。11月15日のミスタープロレス・天龍源一郎の引退興行を、朝日新聞は翌日の社会面で大きく報道した。

『天龍源一郎、娘が支えた「最高の舞台」 国技館で引退』(11月16日)

 記事の内容は、天龍を支えた一人娘の嶋田紋奈さん(天龍プロジェクト代表)にスポットを当てたもの。《プロレスは相手の必殺技を受け続け、立ち上がった先に勝利がある。「相手から逃げずに受け止める勇気」を教わった。》という言葉も紹介。そして先週、また朝日新聞が特集記事でプロレスを扱った。

『小鹿・カブキ・藤原…高齢レスラー、闘い続ける理由』(12月2日)

 天龍引退大会を取材した記者が、65歳の天龍よりも年上のレスラーが何名も出場していたことについて驚いたのだろう。そのなかのひとり、グレート小鹿(73)に会いにいき話を聞く。小鹿は日課として毎朝の腹筋500回と、ある「飲み物」を紹介している。

活況の「昭和プロレス」を牽引する高齢レスラーたち

「3年前から、乳幼児用の粉ミルクをお湯に溶かした一杯を欠かさない。年取ると細胞がどんどん減っていくようで。粉ミルクは、体の発達を助ける栄養がいっぱい入ってるって聞いてね。調子はすこぶるいい」

 粉ミルク発言がとても気になった私は、ラジオ番組(『荒川強啓デイ・キャッチ!』TBSラジオ)でこの記事を紹介する際、ミルクメーカーに電話して聞いてみた。赤ちゃんだけでなく年配の大人も飲んでいいものかと。すると「大丈夫です。牛乳で補えない栄養もとれます。年配の方が粉ミルクを飲むという話も聞いたことがあります」という答え。グレート小鹿の体調管理はグレートだった。

 リングに上がり続けられる原動力は何なのかと聞かれた小鹿は「見たいって言ってくれるお客さんがいるからこそ。お客さんには大感謝だ。」とコメントしている。私はこの記事の前日、後楽園ホールにミル・マスカラスとドリー・ファンク・ジュニアを見にいった。2人とも70代であるが、日本のファンのために来日してリングに上がったのだ。

 館内を見渡すと、会社では重厚そうな50歳ぐらいのサラリーマンがマスカラスの入場時に目を輝かせながら通路に駆けつける。みんな「昭和のチビッ子ファン」に戻っていた。観客は70代のレスラーの今を見ながら、過去の自分も重ねてみる。プロレスとは記憶のジャンルでもある。

 最近気づくのは「昭和プロレス」市場が活発なことだ。DVDや書籍が売れている。80年代〜90年代にテーマを絞ったムック本も数多い。理由としては、元チビッ子がお金に余裕ができる世代になったことも大きいはず。今のプロレスには疎くても、あの頃のプロレスにはお金を落とす人は私の周囲でも多い。これは他のジャンルにも言えるビジネスの拡がりだろう。

 とはいえ、誰でも60代70代になってもリングに上がれるわけではない。当たり前だが肉体の鍛錬も必須。そして「客が呼べる」人でないと無理。朝日の記事は、エンタメの厳しさをあらためて伝える記事でもあった。

著者プロフィール

お笑い芸人(オフィス北野所属)

プチ鹿島

時事ネタと見立てを得意とするお笑い芸人。「東京ポッド許可局」、「荒川強啓ディ・キャッチ!」(ともにTBSラジオ)、「キックス」(YBSラジオ)、「午後まり」(NHKラジオ第一)出演中。近著に「教養としてのプロレス」(双葉新書)。