ツォルニガー新監督を迎えたシュツットガルトだが、12節終了時点で16位と下位に低迷する。(C)Getty Images

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 シュツットガルトは過去にブンデスリーガを5度、DFBカップを3度制した名門だ。だが、リーグ優勝を成し遂げた2006-07シーズンを最後にタイトルから遠ざかり、ここ数年は下位に低迷。今シーズンも12節終了時点で16位に沈んでいる。
 
 人材が不足しているわけではない。マルティン・ハルニク(オーストリア)、セレイ・ディエ(コートジボワール)、フィリップ・コスティッチ(セルビア)といった各国の代表クラスを揃え、ドイツU-21代表で活躍するティモ・ヴェルナーといった将来有望な若手も台頭してきている。
 
 十分なタレントを抱えながら、チームとしての機能性はいまひとつ――。それが近年このクラブが抱えている悩みだ。
 
 それだけに今年7月に就任したアレクサンダー・ツォルニガー監督に寄せられる期待は大きかった。ブンデスリーガ1部での指導歴はないものの、当時4部のRBライプツィヒを2年で2部に引き上げた手腕を首脳陣は高く評価。チームに新たな規律と戦術を植え付け、欧州カップ戦圏内へ導くという一大プロジェクトを託した。
 
 新監督にツォルニガーを選んだフロントの決断は、的外れではなかった。今シーズンは開幕5連敗と大きく躓いたものの、シュツットガルトが見せているプレーそのものは非常に魅力的だ。ロングボール一辺倒の大味なスタイルと決別し、意図のあるビルドアップから素早いパスワークで違いを生み出す高品質のサッカーを披露している。
 
 6節のハノーファー戦で初白星を挙げて上昇気流に乗るかと思われたが、以降の6試合では2勝2分け2敗とどこか波に乗り切れない。痛かったのは主砲ダニエル・ギンチェクの負傷離脱で、ゴール前での迫力不足を補おうと攻撃に人数をかけた結果、守備が疎かになるという悪循環に陥った。
 
 象徴的だったのは、10節のレバークーゼン戦だ。一時は3-1でリードしながら、終盤に立て続けに失点を喫して3-4でよもやの逆転負け。「この10試合で23失点だ。何とかしなければ、他のチームに太刀打ちできない」とMFダニエル・ディダビはそう警鐘を鳴らした。12節のバイエルン戦でも0-4の大敗。崩壊したディフェンス陣の再建が急務となっている。
 
 ここで1つの疑問が浮かび上がってくる。攻撃はともかく守備に大きな課題を抱えるシュツットガルトが、なぜ宇佐美貴史(ガンバ大阪)をリストアップしたのかという点だ。
 
 その背景にあるのは主力の去就だ。ハルニクやコスティッチといったFWや2列目を務めるアタッカーに移籍の噂があり、ディダビに至ってはシーズン終了後のレバークーゼン入団が有力視されている。彼らの後釜候補のひとりとして、ブンデスリーガでのプレー経験がある宇佐美に興味を持ったようだ。
 
 ドイツでの宇佐美に好印象を抱く者は少ないだろう。だが、ポテンシャルの高さは折り紙付きで、バイエルンからホッフェンハイムに移籍した当初(12年夏)は主力として間違いなく大きな期待を寄せられていた。彼自身も開幕からの数試合でハイパフォーマンスを披露し、その期待に応えてみせた。
 
 不運だったのは、その後にチームが極度のスランプに陥ったこと。その結果、守備的な戦術を採用せざるを得なくなったうえ、相次ぐ監督交代で宇佐美は居場所を失った。どんな状況でも結果を残すのがプロの宿命とはいえ、当時はまだ20歳の若者だっただけに、情状酌量の余地はあるだろう。
 
 局面打開力や得点力は申し分なく、シュツットガルトに加われば4-2-3-1もしくは4-4-2のサイドアタッカーとして起用されるだろう。攻撃サッカーを志向するツォルニガーの下でなら持ち味を存分に発揮できるはずで、アイデアに富んだプレーで崩しのクオリティーを高めてくれるはずだ。
 
 思い出されるのは、今から3年前、ホッフェンハイム時代の宇佐美が決めたゴールだ。左サイドでドリブルを開始した宇佐美はDF4人をごぼう抜きし、華麗にネットを揺さぶった。その美しいゴールを決めた相手がシュツットガルトだったのは、何か運命めいたもの感じざるを得ない。
 
文:中野吉之伴
 
【著者プロフィール】
中野吉之伴/ドイツ・フライブルク在住の指導者。09年にドイツ・サッカー連盟公認のA級コーチングライセンス(UEFAのAレベルに相当)を取得。SCフライブルクでの実地研修を経て、現在はFCアウゲンのU-19(U-19の国内リーグ3部)でヘッドコーチを務める。77年7月27日生まれ、秋田県出身。